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探究する柱の一つである身体性

 先日の松葉舎の授業で、私が日頃実践している瞑想について説明しました。私がその時説明した内容は、以前記事に書いた内容の瞑想の説明のところとほぼ同じです。

 簡単に要約すると、瞑想中に浮かんでくる様々な思考・想念・感情といったものを一旦受け止めて手放す、ということを繰り返すのが私の行っている瞑想、という説明です。

 瞑想の仕方を説明している時、「動かす手は左手から始まるのか、右手から始まるのか」という質問を受けました。その質問にはどちらでも良いことになっている、と答えたのですが、その質問をされた塾生のお話が面白かったです。

 その塾生の方はダンスをされている方なのですが、身体の右と左は陰陽のように表裏があると言います。これはその方が聞いた話だそうですが、着物の着方で左前には身体が閉じるような働きがあるので、着物を着る時は右前になっているそうです。そのため、死に装束は左前となっているそうです。
 そしてその方が私の説明した瞑想を右手始まりと左手始まりとでそれぞれやってみると、左手始まりは下りていくような感覚があり、右手始まりは上がっていくような感覚があり、右手始まりだと雑念が浮かびやすいような感覚があったそうです。

 また、その話に続けて、塾長の江本さんからも、本を読むときも読む姿勢によって内容の頭への入り具合が違う、というお話がありました。
 寝っ転がって読んでも頭に入ってこないけど、前のめりに背中を丸めて読んでも過集中のようになってしまいうまく頭に入ってこないので、背筋をスッと伸ばして読むくらいがちょうどよい、というお話でした。また、目の使い方について、凝視するのか目の力を抜いてフッとした視線で読むのかでも変わってくる、というお話も出ました。

 これらの話を聞いて、まさに私が探究したいと思っている「身体性」という柱はこういう領域のものだ、という思いがしました。

 私が瞑想実践をしている上座部仏教の教えでは、身体のことはほとんど重視されません。座る姿勢も結跏趺坐でも良いし、椅子に座っても良いし、胡坐でも良いとされます。また、上記のように手を動かすときに右手が始まりでも左手が始まりでも構わない、とされます。
 また、経典などで示される逸話も「身体は不浄なもので厭うべきものだ」というような身体観が示されることが多いです。私が以前書いた記事で言えば、お釈迦様が美しい女性に対して「糞袋」と言い放って拒絶した逸話が良い例だと思います。

 これに対して例えば日本の曹洞宗だと、座禅の座った時の姿は非常に重視されます。また、私が私淑している甲野善紀先生は武術の道において身体を通して人生の命題を探究されています。
 日本、あるいは東アジアにおいては、心の探求のときに身体を通して心を観るという身体観が文化としてあるのかもしれません。
 そして私自身、「身体的な心」とでも呼ぶべき領域が人間にはあると思っています。

 私は基本的には上座部仏教の教えに依拠して実践を続けていますが、「身体」という領域においては上座部仏教の教えではフォローされていません。そしてこの「身体」という領域は私が心の探求を深めるのに無視してはいけない領域だという直感があるため、この領域に関しては上座部仏教ではない別の方向から深めていかないといけない、と思っています。
 そうしたことが、塾生の方からの質問から派生した話を聞いていて、改めて整理できました。

 また、別の塾生である長谷川祐輔さんから、「言葉の身体性」というワードが出てきました。これは、文章の構成や言葉の選び方にその人の身体性が現れる、というような文脈で出たワードでした。
 この言葉に私はハッとしました。たしかに「文体」という言葉に表れるように、その人が書く文章に逃れようもなくその人の身体性というのは現れるな、と思いました。
 長谷川さんから「文体」はフランス語でstyleスタイルと言いますが、これは文体だけでなく人の体も意味する、という補足もいただきました。

 この話に続けて、江本さんから、書く時もパソコンにキーボードで打つときとペンで書く時は文体が変わるし、パソコンのときもアウトラインで書くのかメモ帳に書くのかで変わるし、ペンで書くのも鉛筆とボールペンと万年筆では違うし、ノートに書くのと裏紙に書くのではそれぞれ違う、というお話がありました。

 これらの話は、私の中に無かった視点でしたが、私が「身体性」という柱において注目すべき内容だと思いました。
 私は今まで、「身体性」というと武術や山仕事で実際に体を動かすことについて考えていましたが、もっと拡張させて捉えた方が良いと思いました。実際に体を動かすという領域だけでなく、文体などからも現れる身体にも注目し、そこから身体性という命題を深めていくことも大事であるように感じました。


 自分の問題意識を皆さんに語り、そのフィードバックをいただくことで、自分の探求する方向性がより明確になった授業でした。


 本日は以上です。スキやコメントいただけると嬉しいです。
 最後まで読んでくださりありがとうございました!