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新解釈 竹簡孫子の兵法

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世界最古の兵法書「孫子の兵法」。その孫子の兵法の中でも最も古い「竹簡孫子」を研究しているマガジンです。孫子の兵法理論である「正奇」や「虚実」「形勢」などの追概念は「陰陽理論」が適…
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2022年2月の記事一覧

(39)将軍の五つの欠格事項-竹簡孫子 九変篇第八

(39)将軍の五つの欠格事項-竹簡孫子 九変篇第八

それでは九変篇の末尾の文章の解説です。ここは将の「五危」と言われるものです。

「九変の利」に通じて、地の利を得るかどうかは将軍によるからです。孫子は緻密に一つ一つ論理を積み上げていきます。ここまで述べてきた兵法理論の内容、積み上げてきた優位性は、将軍の性格によって台無しになってしまう、軍事において非常に重要な要素なのです。

「五危」とは、「必死」「必生」「忿速」「廉潔」「愛民」の五つです。

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(38)利と害の両面思考-竹簡孫子 九変篇第八

(38)利と害の両面思考-竹簡孫子 九変篇第八

孫子の兵法の将軍の能力(智信仁勇厳)の筆頭は「智」です。孫子のいう「智」は、「利」と「害」の二つの側面から思考できるかどうかです。

私の新解釈は、自然の摂理である陰陽の原理を土台にしておりますので、陰陽で物事を考えられかということでもあります。

両面思考ができると一体どういうメリットがあるのでしょうか。
プラスの面、利益に対してマイナス面、損害について考えることで確実に達成することができるよう

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(37)情勢を変化させる九つの要素-竹簡孫子 九変篇第八

(37)情勢を変化させる九つの要素-竹簡孫子 九変篇第八

九変篇にさまざまな疑問が存在しています。「九変」とは何か?いくつあるのか?という問題です。というと読み方によると十になるのです。

九変篇の冒頭の本文を確認しましょう。

【書き下し文】
孫子曰く、凡そ用兵の法は、将の命を君より受け、軍を合し衆を聚むるに、圮地(ひち)には舎(とどま)ること無く、
衢地(くち)には交を合わせ、
絶地(ぜっち)には留まること無く、
囲地(いち)なれば則ち謀り、
死地(

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(36)圮地と絶地-竹簡孫子 九変篇第八

(36)圮地と絶地-竹簡孫子 九変篇第八

孫子の兵法の形篇第四から行軍篇第九までの六つの篇は、個別に存在するのではなく、密接に関係しています。先の篇に進むにつれより具体的になっていきます。

形篇の理論をより深ぼると勢篇になり、勢篇を深ぼると虚実篇になり、虚実篇を深ぼると軍争篇になり、軍争篇を深ぼると九変篇になります。

軍争篇では、主導権争いで有利に軍隊を動かす方法を述べ、それは人間の性質に従うとうものでした。九変篇では、敵と味方の間で

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(35)集団を動かす時の注意点-竹簡孫子 軍争篇第七

(35)集団を動かす時の注意点-竹簡孫子 軍争篇第七

軍争篇の篇末は、昔から多くの研究者の間で議論されています。軍争篇にあるのは間違いで、九変篇の冒頭にあるべきではないかと。事実、現行孫子では九変篇に組み入れられている。

この件に関して、私の見解を述べると、「竹簡孫子」の構成である軍争篇の篇末にある方が、意味が通じるので、軍争篇に入れる方が正しいという立場に立ちたいと思います。

なぜそう言えるのかというと、軍争篇は、主導権争いに勝ための軍隊の動か

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(34)人間の性質を使う-竹簡孫子 軍争篇第七

(34)人間の性質を使う-竹簡孫子 軍争篇第七

孫子は、陰陽という自然の摂理に則っているため、その主張に一つの無理もありません。ましては根性論など持っても他です。

軍争篇は、非常に緻密な洞察をします。主導権争いに勝つための方法、軍隊の適切な動かし方について述べましたが、一つ問題が残ります。

それは兵士が計算通りに動くのかという問題です。軍争篇の後半は、人間の性質に言及していきます。人間の性質に則れば、自然に軍隊を動かすことができるという訳で

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(33)軍隊の動かし方-竹簡孫子 軍争篇第七

(33)軍隊の動かし方-竹簡孫子 軍争篇第七

本項は、孫子の兵法で最も有名な言葉の一つ「風林火山」が出てくる回です。風林火山は戦国武将の武田信玄が孫子の兵法の言葉を旗に記したもので、敵はこの旗を見ただけで恐れたようですね。

軍争篇は、敵と味方の主導権争いについた解説する篇ですから、「風林火山」も主導権争いで勝つための一つの方策として書かれたもので、その言葉だけでは学びは多くありません。その前後の文脈から内容を追っていきます。

ここから軍隊

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(32)主導権争いとリスク-竹簡孫子 軍争篇第七

(32)主導権争いとリスク-竹簡孫子 軍争篇第七

「軍争は利為り、軍争は危為り」という。軍争は利益でもあるがリスクであるという意味です。

現代人に生きる私たちは、利益である、リスクであると言われても詳細なイメージがしにくい。そこで図で考えたいと思う。

まず古代の軍隊は縦列になって従軍する。前と後とではかなりの距離になる。

そういう訳ですから、戦場に早く到達できるということは、まず第一に戦力を集中・充実させられる。次に戦場の中で有利な場所を先

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(31)迂直の計-竹簡孫子 軍争篇第七

(31)迂直の計-竹簡孫子 軍争篇第七

それでは軍争篇第七の解説をしていきたいと思います。詳細な説明に入る前に、まず軍争篇が、「孫子」全体の中でどのような役割を担っているかを考えてみましょう。

虚実篇は、敵と味方の間で、虚実/戦力差を作り出す方法について述べていました。軍争篇は、戦力差を作り出す方法を、より詳細に深掘りしていく篇になります。虚実篇で述べた「人を致して致されず」は、敵と味方の間で、体力の状態が、元気である「佚」と疲労して

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(29)「無形」の性質-竹簡孫子 虚実篇第六

(29)「無形」の性質-竹簡孫子 虚実篇第六

それでは「無形」の性質、「無形」による勝利の特徴について説明していきたいと思います。

「無形」というものがどういう性質のもであるか、虚実篇では四つを挙げています。それでは本文を見てみましょう。

【書き下し文】
兵を形(あらわ)す極みは、無形(むけい)に至る。無形ならば、即ち深間(しんかん)も窺(うかが)うこと能ず、智者も謀ること能わず。形に因りて勝を衆に錯(お)くも、衆は知ること能わず。人は皆

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(30)「兵」は「水」の性質-竹簡孫子 虚実篇第六

(30)「兵」は「水」の性質-竹簡孫子 虚実篇第六

虚実篇は、4段論法で理論が展開します。
一つ目が、人を致して致されず、つまり「佚」と「労」の関係 
二つ目が、「無形」の説明
三つ目が、「無形」を使った戦い方

四つ目は、勢篇の理論に戻り、「正奇」の戦法の組み合わせによって「虚実」を作り出すこと、つまりそれは、無限の組み合わせがあり、掴みどころがなく、また再現性がないということを述べます。

【書き下し文】
夫(そ)れ兵の形は水に象(かたど)る。

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(28)多勢の敵を無力化する-竹簡孫子 虚実篇第六

(28)多勢の敵を無力化する-竹簡孫子 虚実篇第六

虚実篇の真骨頂は、多勢の敵を相手に、奇正の兵法を使い分け、敵軍に自軍を秘匿する「無形」によって、局所的に優位性を作り出す方法について述べました。そのポイントはいつどこで戦うのかという情報でした。

次からは、実際の強敵を想定して、どうするかについて詳細に説明していきます。孫武が仕えた「呉」の強力なライバルである「越」とどうやって戦うかであります。

【書き下し文】
以て吾れ之を度(はか)るに、越人

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(27)「無形」-竹簡孫子 虚実篇第六

(27)「無形」-竹簡孫子 虚実篇第六

ここからは孫子の兵法の奥義中の奥義「無形」について解説します。

「無形」を理解するためには「形」が何なのかを知らなければなりません。「形」を単なる軍の態勢、形としての形と解釈していると「無形」の本質を理解することはできません。

「形」は戦力充実、戦力集中の状態であり、攻撃力も防御力もあるが、敵からは状況を把握されてしまう体勢です。
「無形」はその反対で、戦力が拡散し、秘匿されるが、その時は攻撃

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(26)人を致して致されず一瞬-竹簡孫子 虚実篇第六

(26)人を致して致されず一瞬-竹簡孫子 虚実篇第六

虚実篇は、いわゆる形篇と勢篇の発展系であり、応用であり、彼我の間で戦力差を作り、戦わないで決着をつける方法にまで理論が展開していきます。

形篇と勢篇は、勢いを作るための一般的な理論でした。
虚実篇は敵軍との駆け引き方法であり、変幻自在に変化する「」奇の兵法理論の神髄であり、多くの研究者が絶賛している箇所です。

虚実篇は、彼我の間に勢いを作り出すために、戦力の差(虚実)を作り出す方法を述べていま

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