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東京国立博物館(東京都台東区・上野駅 国宝 東京国立博物館のすべて)1/5

国内における博物館の原点であり最高峰の東京国立博物館。国立である。国がやっている。つまり国家を挙げて収集している美術品や博物品が展示されているということである。その格はもちろん半端ではない。その東京国立博物館が2022年に開館150周年を迎える節目の年というのもあり、所蔵している国宝89点を一斉に公開するという夢のようなイベントを開催したわけである。当然ながら注目度も高く、日時指定予約制である今回のチケットは発売日になった瞬間に完売、おそらく時勢柄もあるのだろう、もし日時指定予約制でなければさらに多くの来場が見込めただろうイベント。個人的にもかなり久々の訪問で胸が躍る。

東京国立博物館には大きく分けて5つの建物があり、それぞれが独立したコンセプトで展示を行なっている。それぞれの館の収蔵品の数も桁違いな上、建物の大きさに全て少なくとも2フロア以上、多い建物になると6フロアに及ぶため、一つ一つの館だけでも他の一般的なミュージアムに匹敵するレベルである。そんな中で国宝展を含め全ての館を攻略しようとする暴挙。

全てを見るためには入念に計画を立てなくてはならない。調べた限り国宝展は朝から行列になるという情報があったので、予約の時点で夕方からの来訪に絞り、逆にそれまでの間は他の館をめぐる、という計画を立てることに。国宝展のチケットで門を入ったらあとは指定時間まで自由に他の館へ入れるため、逆に朝イチのタイミングなら空いている本館から徐々に巡り、順々に他の館も鑑賞して行きながら夕方から国宝展が行われる平成館へなだれ込む、というイメージ。1館あたり2時間から3時間を目安にする。つまり少なくとも国宝展までは8時間くらい自由に使えるわけである。体力の問題はさておき。

・東京国立博物館 本館(総合文化展)
東京国立博物館、略して東博の顔とも言えるのが門をくぐった正面に聳える本館。その外観から既に博物館の総本山である風格が漂っている。向かって右手にある東洋館や左手の表慶館もまた素晴らしく、中央広場の池からぐるっと見渡すのもまた格好のビューポイント。入口の前には明治14年から植えられている大きなユリノキが四季折々の顔を見せてくれる。本館はもともと岩崎家とズブズブの関係だったでお馴染みのジョサイア・コンドルが設計した赤煉瓦風の建物だったが関東大震災によって崩壊、現在の本館は銀座和光ビルや横浜ホテルニューグランドなどで知られる渡辺仁の設計による二代目である。屋根瓦には西に白虎・南に朱雀・東に青龍の三神を設えている。ちなみに北にあると考えられる玄武は見つかっていない。

東博を象徴する例の階段 人がいないの最高デス

本館の入り口から広がっている中央階段は多くのドラマに使用されたことでも知られており、一般にも写り映えのする馴染みの深い場所ではないだろうか。中央階段を上った2階には皇族の休憩所として使用された便殿が残されており覗くことができる。2階から大階段の時計を見下ろすのもまた格別。狙い通り朝イチは人が少なくて写真撮影でも人が映り込まないのでストレスがない。尚、本館は一部を除いて写真撮影が可能。

上からも撮っちゃおっと

通常のミュージアムで常設展と企画展とが分かれていると考えると、常設展の役割を担っているのがこの本館といえる。常設展といいながらもその収蔵品の数が多く入れ替えも激しいため「総合文化展」という名称になっている。順路としてはまず中央階段を上った2階からが日本の歴史とリンクしており体系的に触れられる。いきなり重要文化財の埴輪からお出迎えするという衝撃に慄いていると、最初の展示室から重要文化財のオンパレード。ただでさえ大量の文化財が収められている博物館、もちろん重要文化財という肩書きがなくても好きな文化財が見つかるのは間違いない。回廊型の展示室は2階と1階あわせて20の部屋に分かれており、たとえば本館を3時間と考えるとぞれぞれの部屋を10分足らずで見ないといけない。もちろん無理だが部屋によってはコンパクトで1点のみの展示といったものもあるのでバランスを取って見学。

ここから長丁場の戦いが始まるのである

2階は日本美術の黎明期から、仏教が入ってきたことによって仏像や仏画、写経などが発展することになる。奈良や平安時代に流行した食器や歌集などを紹介する展示室あたりでは徐々に見学者が増え始めて行く。特に外国人の観光客らしき見学者が目立っていて、さすがは日本の誇る博物館といった趣き。大英博物館やルーブル美術館があれば日本には国立博物館がある、と胸を張れるレベルの所蔵数である。

国宝…重文…重美…

やがて武士の時代に突入し、鎧や刀剣の展示エリアへ。こちらにも重要美術品が揃っている他、しれっと国宝が展示されている。平成館で開催されている国宝展は全部で4回の展示入れ替え期間があり、展示期間外の国宝の一部がこの総合文化展でも見られたりもするので、国宝を目当てに来るとしたら総合文化展もチェックしておく必要がある。

鎧に刀剣 外国人の見学も多い

ちょうど半分を回ったところには休憩ラウンジがある。休憩ラウンジも素敵な装いをしており、そこにある大きな扉も興味深い。普段は閉じられている扉はおそらく収蔵品の保管庫とつながっている。引き続き中世の安土桃山時代から江戸時代の武具の展示室を通り抜け、屏風と襖絵が紹介される角部屋の展示室を曲がると、今度は工芸品と絵画の部屋へと続く。螺鈿や金箔、漆といった素材を使った調度品や陶器の技巧に息を呑み、勝海舟西郷隆盛といった教科書レベルの偉人たちが手がけた書なんかもずらりと並ぶ中、中世の画家の手がけた日本画の数もまた圧巻。岩佐又兵衛狩野探幽円山応挙渡辺崋山尾形乾山など国宝展にも作品が紹介されている重鎮たちの絵画が軒を連ねる。

日本画の饗宴

角部屋では能と歌舞伎のエリアということで能楽でつかわれる面や衣装を紹介し、1階の最後にあたる展示室では浮世絵を中心とした作品を紹介している。ご存じ葛飾北斎歌川広重喜多川歌麿といった浮世絵師の作品が並び、ここもまた外国人観光客の比率が目立っている。根付や印籠といった小物、簪や櫛といった装飾品もここで惜しげもなく披露されている。トイレはウォシュレット式。

着物や浮世絵も人気が高い

中央階段を降りて1階に戻り、続いての順路では仏像の展示室がある。菩薩立像や如来立像などの重要文化財がひしめき合う中、大日如来坐像愛染明王坐像はその大きさもまた圧倒的で目を引く。平安時代から鎌倉時代にかけての仏教ブームで作られた仏像の数々、寺社の本尊になるようなクオリティの仏像が一堂に介しているというのは非常に癒される。仏像好きにはたまらない光景。

仏像展示の総本山

ちなみに隣の特別展示室ではデジタル技術で国宝を展示する、という試みをおこなっており、今回の国宝展の会期から外れていたいくつかの絵がデジタル化してここで紹介されていたのがありがたい。狩野長信『花下遊楽図屏風』、久隅守景『納涼図屏風』、狩野秀頼『観楓図屏風』の他に、特に人気の高い長谷川等伯『松林図』が見られたのはラッキーだったかもしれない。

本物かと思うよね実際

1階にある最初の角部屋では根付コレクションの展示。ここもまた変態的に(褒め言葉です)個人でコレクションしている根付を大量に公開。煙草入れや印籠などに吊るす根付はいずれも数センチという小さなサイズで、その小さなサイズの中に施される技巧にはひたすら舌を巻く。

根付を病的に収集 わかるぜその気持ち

続いての展示室でメインとなるのは刀剣。ここは心なしか女性が多い。国宝展でも刀剣の展示が多くあるのだけれど、こちらの総合文化展でも負けず劣らず、粟田口吉光や越前康継、古青江康次、堀川国安、長曽根虎徹、来国光ら数々の名のある刀剣が展示されている。刀と太刀の違いや、各部位の名称、刀剣の楽しみ方などもレクチャーしてあるので、こちらの情報を元に国宝展へ赴くとより一層、味わい深いかもしれない。

しれっと国宝が常設展示にいる

陶器のエリア、角部屋の未来の国宝展示、地図のエリアと抜けて行くと1階の半分を回り切ったところで休憩ラウンジ。2階の休憩ラウンジに比べて壁紙などの装飾が鮮やかで高級感が漂っている。こちらからは屋外へ出ることもでき、本館の裏手にある日本庭園を見渡すことができる景観スポット。続いてアイヌや沖縄の民俗文化を紹介する展示室がある。3つ目の角部屋では美術品の修復・保存についての展示がある。

休憩ラウンジから屋外へ出てみると本館の裏の顔が見られて素敵

最後は近現代の美術品について。高村光雲の巨大な木彫り『老猿』が出迎えると、下村観山河鍋暁斎速水御舟前田青邨といった日本画家の重鎮たちの絵画、濱田庄司徳田八十吉の工芸品、それに海野清北村西望の彫刻作品が並んでいる。最後の角部屋は教育スペースとして子供むけの体験コーナーが用意されている。

近現代美術も豊富すぎる

1階では特別展として、大階段の下でコンピュータを駆使した国宝の間近での接写を実現する展示を開催。特に洛中洛外図屏風は肉眼で見るよりもさらに細かい箇所まで鮮明に写されていて、京都の街に住まう人々の事細かな様子まで見てとれるのが本当に飽きない。また体験コーナーで実際に国宝の接写で立体物の内側まで見えたりするという、通常の展示ブースでは見ることのできない貴重な体験を行うこともできた。

こいつの中に入れるよ

2階1階ともにトイレはウォシュレット式。ちなみに地下階には休憩室とトイレがあり、ウォシュレット式が4基もあるさすがは国立の設備。面白いのは公衆電話機が残っているところ。携帯電話の普及により役割を終えつつある公衆電話がここに残っているのは嬉しいものである。

電話室がしっかりあるのが洒落てるではないか

本館の裏側には日本庭園がある。中央に池を配した庭園には5つの茶室があり、内側には入れないものの外側から覗ける。入り口から反時計回りに松永安左エ門が所有した河村瑞賢の春草盧、小堀遠州が建てた転合庵、金森宗和が建てた六窓庵、道を挟んで益田孝が所有した応挙館、九条公爵邸にあった九条館。特に道を挟んだ先にある2館では内部が少しだけ覗ける窓があり、それぞれ円山応挙と狩野派の絵が飾られている。それぞれの茶室は貸し出しもしている。庭園にもトイレがありこちらもウォシュレット式。

お気に入りは六窓庵 白い建物はかつてのトイレ(和式)


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