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ならきちのゆる読書感想文

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本の内容に少し触れたりしつつ、基本的には極めて個人的な心のうちを吐露する読書感想文です。
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記事一覧

村田沙耶香『しろいろの街の、その骨の体温の』を読んで

小学生の女の子同士の友だちの取り合い、仲間外れ。小学4年生くらいから始まる、初潮が早い子と遅い子の絶妙な隔たり。中学生の第二次性徴で膨らむ胸と、膨らまない胸。真っ白なスポブラをつけている子と、ホックを留めるタイプのレースのブラジャーをつけている子。小学生~中学生の女の子が味わう独特のすべてが詰め込まれた物語に息を呑んだ。 息苦しい街。息苦しい学校。どうして中学時代というのはあんなにも暗くてじっとりとしているのだろうか。そしてその嫌な湿度を感じずにカラッと眩しい太陽のように「

森絵都『風に舞いあがるビニールシート』を読んで

私の人生にはなにか"絶対に譲れないもの"はあるだろうか。 もちろん、家族、健康、お金、友情、そういった一般的に大切とされるものは、私も人並みに大切に思っている。 それとはまた別の、自分だけの守り抜きたい価値観――。 ぱっとは思い浮かばないけれど、これだけ日々を生きづらいなぁしんどいなぁと感じているのだから、きっと他人に不思議な顔をされても曲げられない"何か"が私にもあるのだと思う。 あらすじ才能豊かなパティシエの気まぐれに奔走させられたり、犬のボランティアのために水商

よしもとばなな『キッチン』を読んで

この世の誰よりも愛するあなたがいま私の隣にいても、深く触れ合っていても、それでも孤独を感じてしまうことがある。 あなたと私は別々の人間で、すべてを分かり合えることなんて絶対に、永遠に、ない。 そうだ、この世に生を受けた瞬間から私は自由であると同時に天涯孤独であるのだ、 そう実感して、ゆるやかに、静かに、絶望する。 大人になって明確に分かってしまった、いや、子どものころから実はうっすらと気付き始めていた自らに影を落とす”孤独”というものに寄り添い、 あなたの孤独はとて

角田光代『くまちゃん』を読んで

誰かと出会い、惹かれ合い、お互いのことをちょっとずつ知っていって、時には喧嘩をして仲直りして、「これが幸せかぁ」なんて実感したりもして。 そんな、時間をかけて作ってきた二人の大切な関係性も、きっかけがあったり(ときには特にこれといったきっかけがなかったりも)して突然不穏になるわけで。 「このままずっと一緒にいられる相手ではない」とどちらかが(または双方が)悟ってしまったとき、別れが訪れる。 別れたばかりのときは身を引き裂かれんばかりに痛くて、枯れるまで泣いて、「もう恋な

山内マリコ『ここは退屈迎えに来て』を読んで

国道沿いに立ち並ぶ見慣れたチェーン店。 山と田んぼしかないド田舎、というほどではないけれど、だからといって東京みたいに最先端のものが揃うわけではない、ふつうの町。 生活に何も不便はしない、でも、なんだかここは退屈。 変わり映えしない日常から私を連れ出してくれる誰かを、待っている。 あらすじ退屈をぶち壊すのは誰中学生のころ、なぜみんな恋愛なんてするのだろうと不思議でした。 やれ誰がかっこいい、やれ誰が好き、「3組の○○君と7組の△△ちゃんがつき合った」、「▢▢君と✕✕

山内マリコ『選んだ孤独はよい孤独』を読んで

私は女性として生まれ、女性として自分自身を認識して、世間からも女性だと認識されて女性としての扱いを受け、日本在住の一人の女性としての人生を歩んできました。 女はつらいよ、な人生だなぁと、思いながら生きてきました。 外見至上主義の世の中、男性たちから(時には女性同士でも)品評されるしんどさ、若さに依存した美しさがじわじわ失われていく恐怖、月経・妊娠・出産・子育てという一連に求められる(ように感じてしまう)自己犠牲の精神、いわゆる”良妻賢母”であらねばならないという強迫観念…

デヴィッド・ギルモア『父と息子のフィルム・クラブ』を読んで

父と息子が映画を見ながら語り合う、心温まるお話かな? と思ったのですが、他人事ではないリアルな親子の物語でした。息子は思春期真っ只中の生々しく青臭い悩みごとに翻弄され、父は仕事がなくなって落ち込みながらも生活のために奔走する、その様が赤裸々に描写されています。もちろん随所に著者による映画評論も盛りだくさんです。 あらすじ親子の距離感100組の親子がいればその関係性は100通りだと思いますが、それにしてもギルモア親子の距離感の近さには驚かされました。 息子が父にここまで自分

堀越英美『スゴ母列伝』を読んで

「あの人のお母さんってこんな人だったの?! やばすぎる!!」「こんな子育てってあり得るの?! すごすぎる!!」衝撃を受け続ける実話が満載の本書。 以前、堀越英美さんの『女の子は本当にピンクが好きなのか』(河出文庫)を読んだ際、実例を多数取り上げながら従来のジェンダーバイアスに疑問を投げかける内容が大変勉強になりました。 その後、書店で「あ! 堀越英美さんの本だ!」と作者買いしたのがこちらの『スゴ母列伝』です。 サブタイトルの『いい母は天国に行ける ワルい母はどこへでも行

山崎ナオコーラ『母ではなくて、親になる』を読んで

タイトルからも分かる通り性別による役割の押し付けから解放されて”母”ではなくて”親”になろうとする著者と、まだまだ”母”という存在への幻想が根強い世間。ただの育児エッセイにとどまらない社会派エッセイであり、子育てと関係のない生活を送る人でも純粋に読み物として面白いエッセイです。 あらすじ「自然分娩をしてこそ、母親?」「子どもは”自分の時間”を奪う?」「夫は妻のサポート役?」……37歳で第一子を産んだ人気作家が、”母”というイメージの重圧を捨てて、”親”になって、日々を眺めて

中山咲月『無性愛』を読んで

中山咲月さんのことを知ったのは『仮面ライダーゼロワン』に亡役で出演されていたのを拝見したときです。美しくて格好いい人だなぁという印象を抱きました。 そして最近、Twitterで中山さんがエッセイを発売したというネットニュースを目にしました。 目についたネットニュースを片っ端から読み、Instagramをフォローして、インスタライブのアーカイブも聴きました。 中山さんの人柄に惹かれて、すぐにAmazonでエッセイを購入しました。(ちなみに私はAmazon限定版を買いました

よしもとばなな『さきちゃんたちの夜』を読んで

ほしよりこさんの装画と、少し頼りなさげなフォントで書かれた『さきちゃんたちの夜』という題字に惹かれてこの本を手に取りました。 短編集はどんな精神状態であっても読み進めやすくて、いいですね。 よしもとばななさんが描く日常は、リアルゆえにどこかほの暗くて、だけど、いつもの夕暮れの商店街を歩きながら「これから住み慣れた我が家でほっとできる夜が来るんだ」と息をつく仕事帰りのような……、そんな”暮らしの疲労感”を感じさせるような生々しさがとても好きです。 あらすじ失踪した友人を捜

西加奈子『うつくしい人』を読んで

あらすじを読んだら主人公の名前が自分と同じだった。それだけで思わず本を手に取ってしまうことってありませんか? この物語の主人公・百合は他人の目を気にしすぎてしまう女性。(そして実は私の名前も”ゆり”と言います。漢字は優里です) この行動は社会的にどうか? 他人からどう見えているか? 嫌われないか? 自分の立ち位置が脅かされないか? そんなことばかり考えて生きている百合と自分を重ね、百合が出会いを通して解放されていく様子にこちらの心もほぐれていく、そんな物語です。 人生

よしながふみ『愛すべき娘たち』を読んで

衝撃を受けました。よしながふみという作家に出会うまでに27年もかかってしまったことを少し後悔するほどに、『愛すべき娘たち』という作品は私の心を鷲掴みにしてしまったのです。 このnoteでは、作中の印象に残ったセリフを一部引用しながら、自分自身も誰かの愛すべき娘である私の経験や考えをまとめてみたいと思います。 あらすじ「女」という不思議な存在のさまざまな愛のカタチを、静かに深く鮮やかに描いた珠玉の連作集。オトコには解らない、故に愛しい女達の人間模様5篇。 あらすじには”オ

山田詠美『ぼくは勉強ができない』を読んで

1996年3月に出版されたこの作品。時代を超えて多くの人から愛される理由が、読んでみて分かりました。 学校生活を送る中で感じるちょっとした違和感。みんなが当たり前としてなんとなくぼんやり受け入れて生きていく中で、疑問を持ち続け臆することなくそれを大人たちにぶつけていく主人公の秀美くん。 秀美くんに共感し、憧れた若者たちが数えきれないほどいることでしょう。 あらすじ「ぼくは思うのだ。どんなに成績が良くて、りっぱなっことを言えるような人物でも、その人が変な顔で女にもてなかっ