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デヴィッド・ギルモア『父と息子のフィルム・クラブ』を読んで

父と息子が映画を見ながら語り合う、心温まるお話かな? と思ったのですが、他人事ではないリアルな親子の物語でした。息子は思春期真っ只中の生々しく青臭い悩みごとに翻弄され、父は仕事がなくなって落ち込みながらも生活のために奔走する、その様が赤裸々に描写されています。もちろん随所に著者による映画評論も盛りだくさんです。

あらすじ

「学校に行きたくない」と訴える息子に、父は戸惑いながら「わかった。その代わり週に三本一緒に映画を観て、感想を話し合おう」と誘った。最初は「大人は判ってくれない」、その次は「氷の微笑」。映画を通して少しずつ話を交わすようになった二人だが……。感動の実体験ノンフィクション。

親子の距離感

100組の親子がいればその関係性は100通りだと思いますが、それにしてもギルモア親子の距離感の近さには驚かされました。

息子が父にここまで自分の恋愛事情をさらけ出して相談するものか……? と読みながらびっくりしたのですが、よくよく思い返してみれば私自身も母になんでもかんでも喋り倒す娘でした。

我が子がなんでもオープンに話してくれる、それってとても良いことのように感じますが、「自分の頭で考えて生き抜く力をつけてほしい」と願う親にとっては頼られっぱなしでも心配にもなってしまうでしょうし、

結局、悩みごとを共有したところで親にしてあげられることってほとんどないんですよね。(これは自分が親の立場になって初めて知った感情ですが……)

もちろん、学校でいじめられているとか理不尽な目に遭ったとかであれば、子どもから十分にヒアリングした上でケアをして保護者として最善の行動はするのでしょうけれど、ギルモア親子の場合、話題のほとんどが恋愛の悩みなんですよ。

恋愛って当事者同士の人間関係の問題なので、外野が解決するのはほぼ不可能だと思っていて、(そもそも人の"感情"は”解決”できるものでもなくて、)だから子どもから「母さん、俺、彼女と別れて辛くて死にそうだよ……」なんて言われても、私にはどうしてあげることもできません。

親もいっしょに傷つくことしかできないんですよね。

大学生の頃、恋人と別れて泣いて、泣いて、テレビを見ていても食事をしていても勝手に涙が流れてきて、痩せて、それでも授業やバイトには出かけて、帰宅してまた泣いて……。そんな時期がありました。(一度ならまだしも何度もそんなことがありました)

母にはいつも恋人とのあれこれを相談していたし、会わせたこともありました。

何度も懲りずに恋愛して苦しむ娘の姿を見せることで、母にもダメージを与えてしまいました。

失恋でボロボロになり涙を流す息子の姿に心を痛め、こっそりといっしょに泣く著者のシーンを読みながら、私と一緒に食欲をなくして少しやせてしまった母の姿を思い出しました。


映画というメディアが人生に与えるもの

実は私は映画を見るのがとても苦手で、ほとんど映画というコンテンツを通らずに28年間生きてきました。気が向いたらアニメ作品を年に数本見る程度……。

約2時間を”消費してしまった”、という感覚が強くソワソワしてしまって、なかなか映画の世界に浸ることができません。

「映画は良いよ」と色んな人に言われますし、「人生を豊かにする」というのもよく聴きます。好きな人は暇さえあれば映画を見ていたりしますし、映画館に通うのが趣味という方もいますよね。素敵だと思います。

ファンタジーの世界に入り込んだり、様々な登場人物の人生を疑似体験したり、映画を通してたくさんの価値観をインストールできそうだな、とは思っています。

それでも重たい腰が上がらずなかなか映画を見る気になれませんでした。

なぜだろうと考えてみました。

私は本を読むのに2時間以上かけることなんて日常茶飯事ですが、なぜ読書の2時間は許せて映画鑑賞の2時間を許せないのかなぁと。

きっとシンプルに苦手なのだろうと思います。

小説であれば、自分の頭の中で登場人物の顔立ち、声、服装、街並み、空気、すべてを好きなように思い描き、自分のペースで物語を読み進めることができます。

映像作品の場合、役者さんの演技、セリフ、景色、効果音、音楽……、得られる情報の多さと物語のスピード感についていけないのだと思います。相当な気合いがないと疲れすぎてしまって見られません。

しかし今回『父と息子のフィルム・クラブ』を読み、映画は人の人生に何か大切なものを与えてくれるメディアなのだと気付かされました。……いえ、これまでもうっすら気付いてはいたのですが、ある親子の現実の体験を赤裸々に綴った物語だったからこそ、説得力を持って私の心に訴えかけ、気付きを与えてくれました。

映画というメディアには約2時間の映像作品としてのストーリーだけでなく、映画を撮った監督の人物像、映画が撮られた時代、脚本家のキャリア、俳優たちの演技……、たくさん背景が楽しむポイントとして存在しているということも学びになりました。

本を読むだけじゃなくて、これからは映画も見てみます。


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