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【読書感想文】『幸せのプチ』朱川湊人

1、朱川スタイル

朱川さんは「懐かしさ」や「思い出」といった、優しくも残酷な時の流れをテーマにしたものが多い気がします。

朱川作品をあらかた読んできた私にとって、今年の4月に発売されたばかりのこの作品を読むのはもうなんか謎の使命のように感じてしまったのも事実です。

これは一つの街を舞台にして、それぞれの運命や人生が交差しあいながら大きくも小さくもとれるおはなしが短編として詰め込まれています。

正直に言えば「またこのスタイルか」と思いましたが、もう朱川スタイルを熟知している私にとっては「どんな街の、どんな人の人生を見せてくれるのかな」と現実逃避にはもってこいの時間をくれました。

2、言葉

まず、尚美の言葉。

「だって花なんてなくても、人間は生きていけるでしょ…たとえば生きていくのに必要なものに順番をふったとしたら、花は何番目になる?」

私は一緒に生きていく人にぜひともこれを問いたいのです。花じゃなくても、本とか、音楽とか、映画でもいい。

心を耕してくれるモノを大事にできる人を大事にしたいなと私は思います。

また、朔は弟の死をきっかけに、「なぜ生きるのか?」を考えるようになります。

私は先日ある人から「結局自分の成長のためとか言っておきながら、根底には親からの圧力とか、褒められたいとか、自己肯定感が低いまま何かをしようとしても何もうまくいかないし、中途半端だし、それってもうそもそも生きている意味ないんじゃないの?だって客観的に見ても自分の人生じゃねえもん」と言われました。(録音もしていたので本当にこの口調でした、怖)

ちなみにその人はある就活エージェントのカウンセラーなんですが、カウンセラーとしては本当に最悪だったので早く転職したほうがいいとマジで思います。

しかし、言ってることはごっともですし、薄々感じていたことを改めて他人から言語化されて「自分の人生を生きるって何?」と自分に問いかけると、やはりどうしても自分の今までやってきたことが希薄で、頑張ったこともすべて根底には「自分のため」という動機がなく、本当に生きている意味ってないな、と思いました。

幸せのプチに戻らせていただきますと、朔は越してきたばかりの街で奇妙で悲しい「オリオン座の怪人」に出会い、関係を深めていく中でむしろその問いがどんどん薄まっていく過程のようなものを見ました。特に彼らの中でそのような問いを議論したわけではありません。関わりの中で、薄めていったのです。

「ただ生きる」のに、理由や意味や価値観や想いをのせないと、人間は活動できないのでしょうね。

私は今、私の中で納得できるような答えが出せていないし、「オリオン座の怪人」にも出会えていないのでその恐ろしい問いを薄めてくれるものもありません。もしかしたら私自身が「オリオン座の怪人」なのかもしれません。

3、迷走中

「生きる意味」を問い続け、完璧でなくてはならないと自分に呪いをかけている自分に気が付かずに、誰かに「もっと気楽に」と言われれば言われるほどにイライラしてしまいます。

その姿勢がダメなことはわかっています。でも23年間で培われたその感覚や感情はすぐに直せなくて、でもそれが苦しいから、生きる意味がもっと分からなくなっていく。

この本は、まさに迷走している私の心を見透かしたように誰かの人生という場を借りて私に問いかけて、また解決策を提案しているようでしていない、問いをまた更に深めて、迷走しているな、と再度自覚してしまいました。

困ったなあ。


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