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【読書感想文】『こころ』夏目漱石

これを初めて読んだのは高校生の頃。しかも国語の授業が暇すぎて教科書の中から見つけました。その時は最後の「先生と遺書」だけ記載されていたので、きちんと読んだのは大3の夏にイギリスのオックスフォードへ1ヶ月語学留学をした時でした。

夏目漱石が明治政府から二年間のイギリス留学を命ぜられ渡航していたのは知っていましたし、他の作品も大体読んだりしていたのですがこの『こころ』はイギリスに行ってから読もうと決めていました。

どうせならロンドンで読みたいなと思ったので帰国を3日伸ばし、トラファルガー広場の階段の端っこに座りながらひたすら読みました。

『こころ』の中には、雑司ヶ谷霊園、上野、小石川、神保町、両国など、東京という常に騒がしく蠢く土地の中でも異例のどこか静かな懐かしさを感じる場所が出て来るのです。

それから3日後、帰国してすぐに私はそれらの場所に本を持って向かいました。特に雑司ヶ谷霊園はかなり近所なので、週2で行っていたと思います。墓場で本を読む女の姿はさぞ異様だったことでしょう。でも私は少しでも夏目漱石の近くにいたかったのです。

彼のどこか諦観した態度、しかし一人の人間として人生の理不尽や不服に抗い真剣に向き合うことを最後までやめなかった「こころ」が、その作品のどの人物にも現れている気がしてなりませんでした。

墓場で蚊に刺されながらベンチに座って、私は彼に何か言いたいことがあるのかもな、と思いました。

Kの「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」の真意はなんなんですか?

夏目先生も誰かのために命を引きずって世間を歩いたことがあるんですか?

このまま待ってれば夏目先生が現れて問答してくれっかもな、とか思っていました。

結局そのまま秋になり冬になり私の目の前には現れてくれなかったけれど、墓場を通るたびに彼の作中での言葉と人生が繋がる部分を考え、また私の「こころ」の中の夏目先生によって問答がはじまります。

そして家に着く頃にはなんだか狐にばかされたような、なんだか満たされた気持ちになるのでした。

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