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「さんたは行かなくていいよ」@1歳児のことば


1歳児のとある場面。


同室にいる0歳児のびーくんが泣いていた。

泣いたからすぐに泣きやまそう、
という保育は随分前からしていない。
(もちろん状況把握はする)

この時も、2mくらい離れたところから少し様子を見ていた。
でも、無視はしたくない。
気持ちだけを送ろうとしていた。
(これがいいかどうかは分からないけど)


さんた「びーくん・・・どうしたの?」
びーくん「わーーーーーん!」
さんた「・・・だいじょぶ?」
びーくん「わーーーーん」
さんた「そうだよね・・・悲しいね。・・・そっちいこっか?」


と、ボソボソっと口にした時のこと。


突然、近くにいた1歳児のさりちゃんがこう言った。


さりちゃん「さんた、だいじょうぶ!」
さんた「んっ?」

さりちゃん「さんた、だいじょうぶ!いかなくてだいじょうぶ!」
さんた「え?そうなの?」


さりちゃん「さりがいくから!」


なんとーーーー
びっくりだ!


大人は来なくていい、
わたしがなんとかするからというのだ。


さんた「わかった~」
と見ていると、、、


さりちゃん、びーくんの背中や頭をすりすり。。。


ほ、微笑ましい・・・
そして。


「びーくん、だいじょぶだよ、さりがいるからね・・・」


・・・


衝撃だ。


びーくん、ちょっときょとんとしていた記憶がある。
そのあとさりちゃんが離れたら再び泣いたのだが、
きっと心には何か響いたに違いない。


さりちゃん。


こんなことをもう3回くらいはやっている。
言葉は達者な方だったが、1歳のころからこんなことを言うのか。



大人は行かなくていい。

わたしがいく。



どういう気持ちなんだろう。

僕の想像のずっと先を歩いている。
これが”ひと”本来の暖かさ、なのだろうか。


__


秋も深まってきた頃のこと。


傾斜がゆるやかで視界の広い、公園の階段の麓あたりで
1歳児のたっくんが泣いている。

寒くなってきたこと。
小学生の大群が通りかかり、圧倒されたこと。

いろんな理由はあると思うが、
明らかなのは、たっくんが僕に近づこうとしていたこと。
しかし階段で思うように身体が動かないでいるようだ。

「さんたーーー」

と、言っているような気がする。
僕は、たっくんより10段近く上にいた。



こういうときも、悩む。


近づいていって抱きしめることは、簡単だ。
でも、本当にそれでいいのだろうかと悩む。
大人がみせる”優しさ”というやつが、
時として子どもの成長を阻むことになりうるからだ。


少し様子を見ることにした。


近くに同じく1歳のじろーくんがいた。
たっくんもじろうくんも、まだ2語文はあまり出ないくらいで、
早生まれに近いほうだ。


さんた「たっくん、泣いてるね・・・」

と、つぶやいてみた。


そして、ちょっとだけたっくんに近づいてみようかなと、
たっくんの方を向き、一歩踏み出すか出さないかの時のこと。



ふと、誰かの手が僕の前にある。

なんと、じろーくんが僕の動きを制しているのだ。


じろーくんの目線は、たっくんを見つめている。
僕の方を見ていない。
僕になにか言うこともない。


でも、その手から明らかに感じるのは、

「さんたは行かなくていいよ」

という気持ちだった。
なぜかわからないけど、はっきりとそう感じた。



じろーくんは、たっくんの元に向かって階段を下りていった。


どうするのだろう。


と、思ってみていると。
じろーくんはたっくんの背中をさすりはじめた。

しかしたっくんは、その手を拒む。
たっくん「いやだいやだ(という感じの喃語)」


いつものこの子たちの関係を見ていると、
いやだと拒まれた場合、怒り返すということが多い。

しかしこのときのじろーくんは、何かが違っていた。
目も、気持ちも違っている気がした。
腹が座っている?何かを決めている感じがした。


じろーくんは、まだ”何か”を諦めなかった。


たっくんの目の前に移動した。
そして、たっくんより目線を下げて視線を下ろし、
じーっとたっくんを見つめだしたのだ。。。


なんとも暖かい眼差しにみえた。
(みえただけで、本当は違うかもしれない)


それでも、たっくんはじろーくんを拒んだ。
軽く押したりしていた。

これには介入しようか迷ったが、
しばらくしてじろーくんがこちらに戻ってきた。



さんた「・・・どうだった?」


声をかけてみたが、
じろーくんはこちらを見ない。
でも、目の色は変わっていない。


やれることはやった、ということだろうか。
伝えることはつたえた、ということか。
僕にはだめだった、という諦めはあまり見えなかった。


じろーくんはそのまま階段を登っていった。

僕もそのあとをゆっくりとついていった。


それから、たっくんの鳴き声はあまり聞こえなかった気がする。
その数分後、階段の上の広場で過ごしている僕のもとに
たっくんは自力でやってきた。

悲しみに満ちた雰囲気ではなかった。
たんたんと、ここに来たという感じがした。
たっくんは、どう思っていたんだろうか。


僕は、これでよかったのだろうか。
いまでもゆれる。

さんさんぽ note 1歳児


___


言葉のあるさりちゃん。
言葉のないじろーくん。


わたしがいく。
ぼくがいく。

だから大人はこなくていいよ。


人として尊敬だ。
かっこよすぎる。


こんな気持ちを受けて育つ
びーくんとたっくん。


子どもたちはこんなふうに、
気持ちのやりとりをしている。



#子どもに教えられたこと

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