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[1−3]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで? (ファンタジー小説)

第3話 なんだかこの子、オレの心をガリガリえぐってくるんだが……(涙)

「ちょ、ちょっと君!? いったいどこから入り込んだの……!?」

 城壁の外とはいえ、ここはまだ王城管轄の庭園だ。関係者以外がむやみやたらと入ってきていい場所ではない。

 だからオレは慌てながらも、しかし嘲笑している先輩達に気づかれるわけにはいかないから、声を潜めてその少女に言った。

「あの衛士たちに見つからないように、樹々に隠れながら庭園を出なさい……!」

 リゴール達はオレの姿に注目しているだろうから、少女には気づかないはずだ。

「分かったわ」

 少女がそう言ってくると、オレはあえて彼女から離れて歩いて行く。

 そうして──

 ──先輩達の嘲笑も聞こえなくなり、裏庭も抜けて大通りにさしかかると、さきほどの少女が木の陰からひょっこりと現れた。

 どうやらリゴール達には見つからずにやり過ごせたようだ。オレは安堵の吐息をはいた。

「ふぅ……まったく……ダメだよ。無断で王城裏庭に入ってきては」

「あなた、もう衛士ではないんでしょう? であれば注意される言われはないと思うけど」

「う……言われてみれば確かにその通りだけど……」

「それであなた、名前は?」

 急に名前を聞かれて、オレはちょっと戸惑いながらも答える。なんだか話の間合いが掴みづらいコだな……

「アルデ・ラーマ。カルヴァン王国の衛士……をやっていた者デス……」

「そ。わたしは……ティスリ・レイド。超絶天才美少女です」

「は、はぁ……?」

「それでアルデ。あなたは理不尽な理由で衛士を追放クビになったようですが、それでいいのですか?」

「よくはないが……しかし、正式な辞令が出てしまってはどうすることも出来ないし……」

「そうですか。情けないことですね」

「ぐっ……!」

 なんだかこの子、オレの心をガリガリえぐってくるんだが……(涙)

 言い返す言葉も見つからないオレだったが、なんとか反論したくて彼女──ティスリを睨んでみた。

「……!?」

 と、そこで気づく。

 自分のことを美少女というだけあって、ティスリは息を呑むほどに美しかった。

 さっき裏庭で出会った時は慌てていたから、彼女の顔をよく見ていなかったのだ。

 しっとりと艶やかな髪の毛はゆったりとウェーブが掛かっていて、背中の中程まであるロング。二本の編み込みを後ろで束ねたハーフアップだ。

 目は大きな二重で強い意志を感じられる。肌も雪のように白く、スタイルなんて出るところは出ているのに華奢な感じで、手に触れるだけで壊れてしまいそうだった。

 こりゃ……どう考えても平民ではないだろう。平民なら、日々の労働で、女性だってもっと逞しくなっているはずだし。

 貴族だとしたら、別に慌てて裏庭を出てくる必要なかったか──と思いながらもオレは襟を正した。

「も、申し訳ありませんティスリ様。まさか貴族の方だとは露知らず……」

「何を言っているのかしら? わたしはただの平民ですよ」

「いやそんな……身なりだっていいですし……」

「身なりのいい平民もいるでしょう?」

「それはえーと……政商の方とかなら……」

「そう──実はわたし、政商の娘なんです」

 なるほど……だから王城付近にいたってわけか。

 とはいえ政商ともなれば、身分が高いことに違いない。平民出で田舎出身のオレなんかが失礼をしたら、あっさり首を飛ばされるほどには。

 そんなことを考えて寒気を覚えているとティスリが言った。

「それでアルデ。あなたは理不尽に追放されて、これからどうされるのですか?」

「ど、どうと言われても……」

 なんだかこの子、やたらと追放について言ってくるな……今はそれに触れて欲しくないのに……

 そもそも突然のことで、これからどうしたらいいのかオレだってまるで考えられないのだ。

 そんな心境だったからか、オレはつい本音を言ってしまう。

「仕方がないので……とりあえず今日は呑んだくれようかと……」

「なるほど。現実逃避というわけですか」

「うぐっ……!!」

 この子は、何かオレに恨みでもあるのだろうか? 初対面のはずだが……(涙)

 オレが呻いていると、ティスリが言ってきた。

「ではご一緒しましょう。酒場とやらに連れて行ってください」

「は、はぁ……!?」

 いきなりそんなことを言われて、オレは思わず目を見張る。そして慌てて制止した。

「ちょ、ちょっと待ってくださいティスリ様。下町の酒場なんて、あなたのようなお方が──」

「アルデ。わたしは平民だと言ったはずです」

「し、しかし……」

「ですから、もっと砕けた感じに接してください」

「は、はぁ……?」

「あなたがそうやってかしこまっていると、むしろ目立ってしまうのですよ?」

「確かに……そう言われてみればそうかもですが……」

「ですから敬称も敬語も無しで。ああ、わたしの口調は癖ですからお気になさらず。あなたに敬意を払っているわけでもありませんので」

「そ、そぉですか……」

 思わず口元が引きつりそうになるが、ここは我慢がまん……

 オレが苛立ちを抑え込んでいると、ティスリはなおも言ってきた。

「さぁ酒場に連れて行ってください。案内料として、わたしがご馳走しますから」

 こうして、オレは政商の娘に根負けするのだった。

 これくらい強引でないと、政商なんてやっていられないのだろうが……

 何を好き好んで、身分が上の人間と一緒にいなくてはならないのか。下手をすれば(物理的に)クビが飛ぶというのに。

 果たしてオレは、五体満足で今日一日を乗り切れるのか? ってか生命の危機を感じながらのヤケ酒ってどういう状況だよ?

 オレの足取りはますます重くなるのだった……

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