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[1−5]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?

第5話 わたしだって頑張ってたんですからね!?

 ティスリの台詞に、アルデオレは目を見開くと、確認のためもう一度聞いた。

「えっと……追放ってどういうことだ?」

「どういうことも何も、追放は追放ですよ。クビということです」

「クビって……オレと違ってお前は家族だったんだろ?」

「そうですね。では追放というよりは勘当といった方が正しいでしょうか」

「いやいや……待て待て」

 オレはジョッキをテーブルに下ろすと、状況を改めて整理する。

「お前は政商の娘なんだよな?」

「正確には政商の娘でした、、、

「なのに実家を追い出されたと?」

「そうなりますね」

「いや待て!? お前こそ、これからどうするつもりだ!」

 オレは思わず身を乗り出すが、しかしティスリは至って落ち着いていた。

「何をそんなに慌てているのですか?」

「何をって……お前、実家を追い出されたとしたら住む場所すらないんだろ?」

「住む場所なんて、旅館暮らしでもすればいいではないですか」

「旅館って……そんな高級宿に連泊してたら一体いくら掛かると……」

「お金はたくさんありますから問題ありません。なんなら自宅を購入したっていいですし」

「そ、そうなのか? 実家を追放されても、自由になるお金はあるんだな?」

「当たり前です。そもそも、わたしが働いた結果の対価なのですから。どれほど国──いえ実家に貢献してきたと思っているのですか」

「そ、そうか……ならまぁ……問題ないか……」

 どうやらティスリは、ただのお嬢様というわけではなく、ちゃんと家業を手伝っていたらしい。それで給金を得ていたのだろう。

 王城に出入りするくらいの大商会なのだから給金だって破格なんだろうな。だからこんなに落ち着いていられるのか。

 オレは羨ましくなって、思わずため息をついていた。

「はぁ……いいなお前は。オレは来月から早くも文無しだよ」

 オレがナッツをかじりながら愚痴ると、ティスリが首を傾げた。

「王城務めなら貯金くらい作れたでしょう? あなた、そんなに金遣いが荒かったのですか?」

「違う。実家に仕送りしてたんだよ」

「仕送り? 両親は働いていないのですか?」

「うちの両親は、どちらも体が弱くてな。せいぜいが内職をするくらいなんだ。さらには食べ盛りの妹と、愛くるしいわんこがいる」

「そうでしたか……」

「はぁ……まぢで来月から、というより明日からどうすっかな……」

 ようやく、まともな稼ぎの仕事に就くことができて、家族みんなで喜んでいたというのに、まさか身分を理由に追放させられるとは思いも寄らなかった。

 もちろんオレだってバカじゃない。衛士入隊の初期から、オレを見る周囲の目が剣呑としていたことは分かっていた。

 最初はオレをイジメて追い出そうとしたのだろうが、どんなイジメだって、貧乏と飢餓に比べたら可愛いものだった。だからオレは、先輩達をスルー出来ていたわけだが、まさか正式な辞令まで作られてしまうとは……

 いや、違うな。

 今なら分かるが、オレがイジメをスルーしていたからこそ、先輩達がよりヒートアップしてしまったのだろう。

 立ち振る舞いを間違えたな、完全に。

 そんなことを思い出し、悔やんでも悔やみきれないオレは、年下の女の子相手についつい愚痴ってしまう。

「身分を問わない衛士登用を王女殿下がしている、と聞いたときには喜び勇んだものだが……こんなもんか……」

「…………」

「けっきょく、お貴族様だけがいい思いをして、平民はそのしわ寄せを受けるだけなんだよ。きっと、王女殿下だって本気で身分を不問にしてたわけじゃないんだろうな」

「………………」

「はぁ……オレは王侯貴族に踊らされただけってことか。どうせ王女殿下なんて、オレたち平民の窮状を知りもしないんだろう。そりゃそうか。王城の奥の奥でふんぞり返っているだけじゃ分かるはずもない」

「……………………」

「ほんっと、どこかにまともな王侯貴族はいないものかねぇ……」

 ──ドンッ!!

 オレがグチグチ言ってたら、ティスリがテーブルを叩いて勢いよく立ち上がる。

 驚いてティスリを見上げると、いつの間にか鬼の形相になって怒号を放った。

「いいでしょう!!」

「……は?」

 何がいいのか分からずに、オレはあっけにとられてティスリを見上げる。

 そのティスリは、顔を真っ赤にして言ってきた。

「ならばキサマを、このわたしが雇ってやります!」

「……はいぃ?」

「それならば問題ないでしょう!? 給金だって衛士の10倍は出してやりますよ!」

「……えーと?」

「これで文句ないですよね!? ならば今の非礼を詫びてもらいましょうか!」

「い、いや、別にお前に文句を言ったわけでは……」

「いいから謝りなさい! わたしだって頑張ってたんですからね!?」

「いやあのお前……もしかして……酔ってる?」

「酔ってなどいませんが!?」

 いや……どう見ても酔ってるだろアレ……

 ティスリのジョッキを見ると、麦芽酒が半分ほど減っているが……まさかこの程度の量で酔ったのか?

 オレが唖然としていると、ティスリはなおも言ってきた。

「謝らないというのなら、不敬罪で監獄送りれすよ!?」

「わ、分かった分かった……! オレが悪かったよ! 王女殿下も貴族たちも何も悪くなかった! 悪いのは……立ち振る舞いを間違えたオレだったわけだ!」

「ふむむ……別に……あなたは悪くないれろう?」

 どことなくフラついてきたティスリは、なんとなく怪しくなってきた呂律で言ってくる。

「らから……悪いのはアルデをいぢめてたバカ貴族でせう……?」

「あ、ああ……そうだな。確かに全面的に悪いのはあの先輩達だ」

「なら……このわたしがあとであいつらを……けちょんけちょんにしてやりますよ……」

「けちょんけちょんって……どうする気なんだよ……」

「ろうするもらりも……」

 いよいよまったく呂律が回らなくなり、その代わりにお目々がクルクルと回り出したので、オレは立ち上がると身構える。

「ろうしまひょう……? わらし、おうじょじゃなかったのれした……」

 と言ったかと思うと、ふっと意識が掻き消えた。

「っと!」

 オレは、倒れるティスリを慌てて受け止める。

「おーい、おーい……ティスリ?」

 ティスリの華奢な体を揺すってみるが、意識を取り戻す気配はまるでなかった。

「まぢかよ……ジョッキ半分で泥酔するとは……」

 葡萄酒には詳しそうだったのに、今まで酒を呑んだことがなかったのだろうか? あるいは安酒が体に合わなかったとか?

「ってかどうすんだよ、この状況……」

 これまで衛士の宿舎に住んでいたオレは、今や帰る場所すらないというのに、実家を追放された女の子まで抱える羽目になり、途方に暮れるしかないのだった……

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