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なぜ僕はロボットの『アンドリュー』を覚えていたのか

土曜日。土曜日が定休ではないパートナーが仕事から帰って来ると、「今週はすごかった!」とこの週の忙しさを吐露した。
彼女は医療関係者であり、自分の持ち場で実質的なマネージャーのような仕事をしている。ここ数週間所属メンバーが感染症そのものではないらしいものの、発熱により欠勤していたり戻って来ても本調子でなかったりで、彼女はメンバーや周囲のサポートとフォローにまわっているらしい。
「もう、やさしいロボットみたいだったよ私」患者へのルーティンや周囲への笑顔と気配りを素早くこなさなければならない様子が伺える例えだった。

それを僕は「ははは。『アンドリュー』みたいだね」と言った。
「アンドリュー?」
僕は昔見た映画『アンドリューNDR114』というハリウッド映画に例えたつもりだったけれど、彼女へはどうも伝わらなかったらしい。

1999年の作品で、日本では翌年に公開。
ある家庭に購入されたNDR114という型番の人型のアンドロイド(ロボット)が、家族との交流をきっかけに人間と「自由」に憧れる話。彼はアップデートにより表情を得たり、ロボットの限りない人間化を研究する博士との出会いで全身の部品を人工臓器などに組み替えていき、やがてほとんど人間と変わらない構造になっていく。
その中で彼は人間の女性と恋に落ち、彼女と年老いて死にたいと願い、最終的には心臓さえも人工臓器に転換、寿命すらも得た。
しかし人間の法律では二人は結ばれない。年老いたふたりは度重なる協議を見守り続けるけれど、やっと人間だと認められた瞬間、彼は永遠の眠りにつく。

「何を以て人間というのか」というのが作品のテーマだったと思う。ブルーフェアリーに魔法で人間の子どもに変えてもらったピノキオになぞらえると、『アンドリュー』は小さな魔法(博士による技術)の積み重ねで人間になったピノキオ、といった感じだろうか。
有名なロボット、アンドロイドを描いた作品と言えば『A.I.』かなと思うけれど、僕はこの『アンドリュー』も同じくらい有名だと思っていた。実際はそうでもないのかもしれないけれど、少なくとも僕にとってはそれくらい心に残った作品でした。

なぜこんなにもこの作品に心打たれてしまったのか。
それは一番心に残っていたラストシーンで人間としてこと切れる彼の絶命する場面にある。
鑑賞した時は感動的なシーンとして純粋に心を打ったのですが、歳を重ねていくと違う意味を持ち始めたのです。

僕はセクシャルマイノリティで自分の身体の性と同じ、女性を人生のパートナーに選びました。
2015年11月5日、渋谷区が全国に先駆けパートナーシップ制度を取り入ることが全国ネットで報道された時は、当事者である僕も驚きを隠せなかった。渋谷区のパートナーシップ制度導入により、日本では不可能だと思っていた同性婚が実現可能なものとして見えてきたと感じるニュースだった。
結婚が出来ないということが、自分がこの国から「お前は日本において人間ではない」と言われているように感じていたから、同性婚をパッと叶えてしまうブルーフェアリーを求めていたのかもしれない。
しかし現実はそう甘くはなく、2021年10月の段階で125の市区町と、5つの府と県(茨城・群馬・見え・佐賀)が導入したものの、同性婚は実現できていない。丸6年間の成果としてこれが多いのか少ないのかは人によって感じかたが違うだろう。導入する自治体が増えることは素晴らしいし増えるにこしたことはないと思う。しかし紛れもない事実として、当事者はパートナーシップ制度を受ける(婚姻で得る権利とはイコールではけしてない)ために、住む場所を選ばなくてはいけない状況なのです。
「僕たちの生きている内に同性婚は実現するんだろうか」そう思う時、僕はアンドリューが絶命するあのシーンを度々思い出す。たとえ今際の際であっても、彼女と正式な伴侶として生きることが出来たらどんなに幸せだろう、と。
だけど実際はそんな長いこと待ってもいられないし、僕は僕の人生を誰かが感動してくれるようなドラマチックなストーリーにしたいとも思わない。
明日にでも彼女と婚姻が結べるのであれば喜んで婚姻届けを持って、区役所にスキップで向かいます。欲深いのではなく当たり前に、出来るだけ長く彼女の配偶者として生きていきたいと思います。
ドラマチックでなくても良い。日常の延長線上にある、ありきたりでごくごく普通の「婚姻」を求めているんです。

はじめてこの作品を見た当時も僕は自分の性に違和感を感じていました。彼と同じく「普通の」を求めていたから、アンドリューの人生に共感して、それでこの作品をよく覚えていたのかもしれません。
覚えていた理由を紐解いたことが無かったけれど、今思えばそうだったのかななんて。

この世界にブルーフェアリーがいない以上、アンドリューと博士のようにコツコツと実現に向けて歩いていくしかないのが現状でしょう。
でもブルーフェアリーはいても良いし、それは人間でも良いわけです。だから政治家の皆さんにはぜひブルーフェアリーになっていただきたい。
最終決定権は、あくまであなた方の手の中なんです。

『アンドリューNDR114』、とても良い作品なので、まだ観たことがない方はよかったら見て見てください。
YouTubeでも購入して観られるようです。



では。



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