見出し画像

【漫画】『最終兵器彼女』を20年越しで読む 

 夏休みの終わり、いつものように漫画の買いだめ欲求が沸き上がり、大人買いしてしまいました。

 ◎ 大奥
 ◎ ミステリというなかれ
 ◎ もやしもん

 これだけでもおかしい並びなのに、うちの子が欲しがって買った漫画が、

 ◎ 最終兵器彼女

 よく、こんな古い漫画知っているな。

 懐かしい気持がして、ついつい全巻読破してしまいました。

 ビックコミックスピリッツで、2000年から2003年にかけて連載されていた漫画です。高橋しん氏の作品ですが、高橋作品としては、『いいひと。』のほうが有名だと思います。

いわゆる「セカイ系」の名作として知られている本作。

20年以上前の作品ですので、スピリッツ連載時は、「なんとなく」みたことのある程度でした。
でも、熱狂的なファンが多く、連載終了後、アニメ化、ゲーム化、実写映画化がされているため、今でも読まれている作品の一つです。



「サイカノ」の愛称で呼ばれることもある本作は、熱烈なファンがいる一方で、アンチも多いことで知られています。

独特の世界観や、露骨な性描写について賛否がわかれるところですが、私が読んだ感想としては、そのような場面が必要であるともいえるし、そうでもないかもしれない。

好きな作品かと問われると「ノン」ですが、読んでよかったなとは思います。

ーーーーー       ここから ネタばれ     ーーーーーーーー

舞台は、北海道のある街。

からだもちいさく、気も弱い、優しい女子高校生「ちせ」が、人類をも滅ぼす「最終兵器」になっていく。
その彼氏「しゅうじ」を主人公に物語が進んでいきます。

戦争もの、戦闘ものなのか、果たして純愛ものなのか。

作者はあくまでも、「純愛ストーリー」として読んでほしいと語っていますが、私は最終巻の終わり方には、賛同できないでいます。

私見ではありますが、6巻のラストで 完全に人間に戻れなくなってしまったちせを、しゅうじが抱きしめる場面がありますが、そこから、しゅうじ自身に戦ってほしかった。

機械に浸食された「人としてのちせ」を取り戻しに、彼女の意識下に入り込んで欲しかった。人間としてのちせを取り戻したしゅうじに、地球の生命を完全に滅ぼすのか、生かすのかを決めさせたかった。

意に反して、知らないうちに殺りく兵器にされてしまったちせの仇を、私はしゅうじ自身にに取って欲しかったのです。

きっと、なにかと引き換えにならなければその望みはかなえられないだろうと思うのですが、人間としてのちせを取り戻したしゅうじは、彼女とともにあの展望台に戻ってくる。

そして、もう一度、あの告白から生きなおしてほしい。
今度は、最終兵器なんて必要のない世界で。

7巻のくだりは、本当に救いがなくて、最終的にちせは完全に一人ぼっちになってしまいます。

命の限りがある人間しゅうじと、いつまでも死ねない宇宙船のちせ。

貞本エヴァのラストも、母親である初号機が宇宙でシンジを見守っていることになっていますが、そちらの場合は、シンジ自身が、すべての命とともに「生きること」を選択したからこそ、見守り続けられるのだと思います。

目の前にある地球のどこかで、シンジが生きていてくれる。

この事実があればこそ、母親は見守り続けられるのです。

もし、ユイさんが、「息子も夫もいない世界」で、エヴァとして孤独に生きつづけるのであれば、それはバッドエンドの何物でもありません。

すべての命を消し去り、地球でさえも消し去ったうえで、
二人だけの愛を全うする。

純愛のきわみとも考えられますが、
しゅうじとの「次の命」をつなぐこともできず、ただ、宇宙に「存在し続けるだけ」のちせは、果たして幸せなのでしょうか。

だれが、なんのために、ちせをそうしたのか。

愛する人の最期を見届けてまでも、生き続けなければならないちせは、
あまりにもかわいそうすぎると思うのです。

連載から23年を経て、戦争はウクライナ侵攻によって、リアリティーを増しています。世界中で内戦が頻発し、クーデターによって国が機能しなくなるニュースも毎日のように聞こえてきます。

地球温暖化が進み、地上ではあちこちで火災が広がり、地球沸騰などどいう言葉が使われるようになりました。
水害、大地震、大規模な自然災害、さらに、新型コロナのパンデミックを私たちは経験しています。

23年前の札幌襲撃から始まった、地球滅亡の物語は、妙に現実味を帯びて私たちの目に映るのです。

敵味方なく、人が死ぬこと。
戦争を始める理由なんて曖昧で、戦いが続くうちに「戦争の大義」は不明瞭になっていくのです。

ちせが、なんのために、だれと戦っていたのか。
望む、望まないを別として、理由もなく人々が死んでいくのが戦争であるならば、愛する人、家族が亡くなる理由なんか私たちにわかるはずはありません。

その恐ろしさ、理不尽さを感じるには、十分なストーリーではありました。

愛する人が、人間としての機能を失っていく。
恋人が殺りく兵器として生きなければならない宿命に、必死で抗おうとする二人。

命を懸けて、この恋を成就させようとする狂気的な愛。
ひりひりするような元祖「セカイ系」王道ストーリー。

あなたは、どう読み解きますか?





サポートありがとうございます。頂いたサポートは、地元の小さな本屋さんや、そこを応援する地元のお店をサポートするために、活用させていただきます!