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さなぎの時間におもうこと 


今、端末を使って生徒一人一人にレポート課題を与え、取り組ませている。

ICTを使った活動が、本当に「クリエイティブ」な活動といえるのか。

私は最近、疑問に思い始めた。

真っ白な紙の上に、自分の手を使って字を書く、絵を描く、何かを作り出す

その作業が、果たして今の子供たちにできるのだろうか。

デジタルで作るレポートは、どこかから借りてきた知識や言葉を、そのまま切り貼りしたもの。
それを、能力評価の対象としてよいのか、最近はとても迷う。

頭脳というフィルターを通して、手というアウトプットの道具を用いて表現する。

本来人間が持ち続けてきた「手を使って何かを作る」という活動を
子ども時代に十分体験する必要があるのではないかと最近強く思うのだ。

一人一台の端末があることによって、便利になった部分も多くある。

しかしながら、人間として五感を使う活動が、学校現場でどんどん減らされていっているのも事実である。

子ども時代というのは、とても短い。

人生において短く貴重な「子ども時代」に、本来の人間らしい活動を行わなかった人間は大人になったとき、どうなっていくのか、恐怖さえ感じるのだ。

ゲームやVRなど、「本物に近い体験」はできるのかもしれないが、
「本当の体験」から得られるものは、比べ物にならないくらい大きい。

だが、今の学校では、それができるだけの時間的余裕も、人的余裕もない。

「~しなければならない」ことが多すぎて、子どもたちも、先生方もがんじがらめになっているような気がする。

隙間がないと、人間は大きくなれない。
何にもしない時間や、ボーっとする時間、
好きなことをする時間がなければ、
大きくなれないのだと思う。

不登校というけれど、学校へ行かない選択をした子たちというのは、
すきまというか、何にもない時間というか、さなぎの時間を必要としている子どもたちなのかもしれない。

虫というのは、幼虫から成虫になるとき、さなぎになる。

その中で起きていることは、なんとも信じがたいことで、
幼虫であった自分の体を溶かして、成虫に自分を「作り変える」のだそうだ。

さなぎの期間、「私」という「個」に籠り、そこで自分を作り替え、殻から出てくるまでの時間やタイミングは、種によってそれぞれ異なっている。

人間であっても、さなぎの期間がいつまで続くのか、いつ終わるのか、どんなふうになるのかなんて、子どもそれぞれで違っていて、親であってもわからないのかもしれない。

もし、自分自身が、今「さなぎの時代」を生きているのであれば、それはそれで恐ろしいことだと思うし、不安になったり、不安定になるのは当たり前のことなのだ。

成虫になるために、必ず通らなければならない道であるならば、
「さなぎの時間」をどう過ごすのかが、
とても大切になってくるのだと思う。

さなぎの中で、幼虫の体が液体に代わっても、脳と神経だけは幼虫から引き継がれるのだそうだ。

だとすれば、
思春期の「さなぎ時代」であっても、脳と神経、いわゆる五感を使う活動を大切にかかわることが必須なのかもしれない。

ただ体を動かせばいい、というものでもないけれど、
その子ができることから、少しずつ始めていけばいいと思う。

手を使って「作る」「造る」ことが、その子の成長につながるのであれば。

子どもが動き出すまで、待つことも大人にとっては辛いことだ。

特に、発達に凸凹がある子の場合はなおさらだ。
人よりもゆっくり成長するなど、その子のもつ特性によって、
さなぎの期間が長引いたり、
他の子とは違った行動に出たりする。

私自身も、中学、高校とうまく過ごせた記憶がない。
いい思い出がないのだ。

当時は、学校は「行くべきものだ」という画一的な考えしかなかったため、
不登校にはならなかったけれど、とにかくネガティブな思い出しかない。

親の自分でも、うまくいかなかったことを
わが子がうまくできるとも思えないじゃないか。

毎日「学校へ行きたくない」というわが子に、
毎朝イライラしてしまうけれど、
その日その日でなんとかお互い「折り合い」をつけながら
日々過ごしている。

「いつか行けなくなる日がくるかも」と思うと、親としては、ずっと恐ろしかったけれど、
もう、なるようにしかならん。と思ってしまえば、少しは楽になった気がする。

さなぎの時代、生きて、乗り越えてくれさえすれば、大丈夫。

人生は、大人時代の方が、子ども時代よりもずっと長い。
学校は小さな社会というけれど、
本当の社会は、世界は、もっと広くて、多様だ。

どんな幼虫であったか、どんなさなぎだったか、そんなことは問題ない。

社会に出たとき、成虫として、どんな生き方をするのか。

それさえ見つけられれば、
君はちゃんと羽ばたくことができるはずだから。


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