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読書メモ:村上春樹「職業としての小説家」

村上春樹さんの「職業としての小説家」という本を読みました。

村上春樹さんが、どのようにして小説を書いているかを記された本です。おそらく、小説家を目指す人、物語を作ろうとする人に向けて書かれた内容なのですが、絵を描くことを主としている私の心に響く、大切なことが書かれていました。

この本を読んだのはちょうど、絵を描くのが少し楽しくないような気がして、絵から少し離れようと思った時に手に取った本。その本が逆に、絵を描くことの基本を思い出させてくれました。これからも、絵に関して何かを見失いそうになったときに、つど読み返したいことばかり。その貴重な言葉たちを忘れたくなくて、ひたすらメモをとりました。

自分の覚書きとして思い出せるように以下に引用しつつ、感想と交えてご紹介させてください。これらの言葉はきっと、全ての創作活動に通じる言葉なのだと思います。文字が多いので、春のイラストをはさみつつ、のんびり書きます。

タンポポ

書いているときの気持ち

小説を書いているとき、「文章を書いている」というよりはむしろ「音楽を演奏している」というのに近い感覚がありました。僕はその感覚を今でも大事に保っています。それは要するに、頭で文章を書くというよりはむしろ体感で文章を書くということなのかもしれません。<中略>新しく獲得した自分の文体で小説(みたいなもの)を書いていると、まるで新しい工作道具を手にしたときのように心がわくわくしました。

第二回 小説家になったころ

小説は、頭で論理を組み合わせて作られていく物だと思っていたのに、村上さんは、音楽を演奏するように感覚的に作られていること。そして、ワクワクしながら、"自分が楽しい、気持ちがよい"ことを源泉にして作られているとを知りました。それは私にとって、驚きであると共に自分が絵を描いているときと似ているように思えて、嬉しくなりました。

オリジナリティーとは

そして、絵を描く人なら誰しも一度は悩むかもしれない、自分のオリジナルって何だろうということ。どこに向かっていくのだろうということ。それについても小説の目線から書かれていました。

あらゆる表現作業の根幹には、常に豊かで自発的な喜びがなくてはなりません。オリジナリティーとはとりもなおさず、そのような自由な心持ちを、その制約を持たない喜びを、多くの人々にできるだけ生のまま伝えたいという自然な欲求、衝動のもたらす結果的なかたちに他ならないのです。

第四回 オリジナリティーについて

もしあなたが何かを自由に表現したいと望んでいるなら、「自分が何を求めているか?」ということよりはむしろ「何かを求めていない自分とはそもそもどんなものなのか?」ということを、そのような姿を、頭の中でヴィジュアライズしてみるといいかもしれません。

第四回 オリジナリティーについて

”自由な心持ちを、その制約を持たない喜びを、多くの人々にできるだけ生のまま伝えたいという自然な欲求、衝動のもたらす結果的なかたち”
このあたりの章を読んだ頃には、これはほとんど絵について書いているのではないかと思うほど、背中を押された気持ちになっていました。誰かと比べることなく、自分が絵を描き始めたころの純粋で自由な気持ちを思いだしました。

スイセン

何を書くか

次は、書く内容についての章です。

自分が目にする事物や事象を、とにかく子細に観察する習慣をつけることじゃないでしょうか。<中略>大事なのは明瞭な結論を出すことではなく、そのものごとのありようを、素材=マテリアルとして、なるたけ現状に近い形で頭にありありと留めておくことです。

第五回 さて、何を書けばよいのか?

この文章を読んだとき、あ、これは絵でいうところのスケッチのことだな、と勝手に解釈しました。ひとつの作品を作るにあたっては、やはり日々の小さな発見を観察し、ストックしていくことが大切なんだなと改めて思う。まさか、小説を書く内容についての言葉が、絵にも通じるとは、本当にすごいと思いました。きっと真理みたいなものなのかな。

桜並木

作品について

そして、出来上がった作品については、

もしうまく書けていなかったとしたら、その作品を書いた時点では僕にはまだ作家としての力量が不足していたーそれだけのことです。残念なことではありますが、恥ずべきことではありません。不足している力量はあとから努力して埋めることができます。

第六回 時間を味方につけるー長編小説を書くこと

うんうん。そうですよね。上手くかけていなくても、誰かに批判されたとしても、恥ずべきことではないですよね。人はいつまでたっても、成長の途中なのだから。その時点の自分で最大限楽しんで、気持ちよく、描き切ることが何より大切なのですよね。

舞い散る桜

作品を作るうえで大切にしていること

村上さんという作家を作り上げた秘密は、まだまだ語られていきます。

僕はそのような書き方を可能にしてくれる、自分なりの固有のシステムを、長い歳月をかけてこしらえ、僕なりに丁寧に注意深く整備し、大事に維持してきました。

第六回 時間を味方につけるー長編小説を書くこと

いつまでも、そういう新鮮な気持ちと環境で作品づくりができる環境を、時間をかけて作っていくことが大切なのですね。一朝一夕にはできないものなんだ。そして、その環境というのは、自分の体を強くするということも含まれていました。

まず十全に生きること。そして、「十全に生きる」というのは、すなわち魂を収める「枠組み」である肉体をある程度確立させ、それを一歩ずつ着実に前に進めていくことだ<中略>傾向がどちらかひとつに偏れば、人は遅かれ早かれいつか必ず、逆の側からの報復(あるいは揺れ戻し)を受けることになります。一方に傾いた秤は、必然的にもとに戻ろうとします。フィジカルな力とスピリチュアルな力は、いわば二つの車の両輪なのです。それらが互いにバランスを取って機能しているとき、最も正しい方向性と、最も有効な力がそこに生じることになります。

第七回 どこまでも個人的でフィジカルな営み

”フィジカルな力とスピリチュアルな力は、二つの車の両輪。” まさに、自分自身がスピリチュアルな方、つまり精神的な部分に重心が傾きすぎて体調を崩し、痛い思いをしたことがあったので身に染みる言葉。長く作品を作り続ける人生を送るために、魂のいれもの、つまり体をしっかり作っていくということの大切さを改めて学ぶ。

挑み続けること

そして最後は、新しいことに挑戦し続けることの大切さについて。

新しいフロンティアに挑もうという意欲を常に持ち続けるーそれは創作に携わる人間にとって重要なことだからです。ひとつのポジション、ひとつの場所(比喩的な意味での場所です)に安住していては、創作意欲の鮮度は減衰し、やがては失われます。

第十一回 海外へ出て行く。新しいフロンティア

進み続けること、変化し続けることが、楽しみ続けることなんだな。

これらの内容は、もしかしたら創作をする上で当たり前のことかもしれませんが、ものを書くことを本職とされている作家さんが書かれた創作についての本、ということにとても意味があり、全ての言葉が心に響きました。村上春樹さんが、自らこのような"小説を書く"ことを語られることがあるとは思っていなかったので、すごく貴重に思え、ゆっくりゆっくり読みました。

これからも頑張ろう、最後はそう思わせてくれる、春の読書でした。

八重桜の頃に読み終わりました ( ^^) 


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