見出し画像

決断のみち

いろんな山に、次々と山登りができる友人たちが不思議だった。

山には、都会とちがう、さまざまな危険がある。山には、きちんとした道がないし、地図とコンパスがなければ、あっという間に、道にまよう危険性がある。命をおびやかす危険ないきものや、ケガの可能性もある。

まず、どの山に登るのか、無数にある山の中から選んだとする。
次は、どのルートを選択するのか、何時間のコースにするのか、下山はどの方向に、と、山に登るまでに、たくさんの決断をせまられる。


見たこともない場所のことを、自分で調べて、決めていかなくてはいけない。みんなどうして、そんな複雑なことが、簡単そうにできるのだろうと、ずっと不思議だった。


もしかしたら人生だって、みんなそんなふうに、いともらくらくと、道を決めていっているのだろうか。

道なき道


山に連れていってくれるリーダーたちは、ほとんどの場合、明るくたのもしく、地図を片手にひょいひょいと正しいルートを選択していく。
どう見ても、これから行く道に、100%の自信をもっているようにしか見えないし、何があっても助けてくれそうだ。彼らの目には、生きる力がみなぎっている。

生きる力が弱めのわたしには、とうてい無理。
そう思っていたわたしがこのたび、自力で、山への一歩を踏み出した。


それは、昔から地元でなじみのある、天王山という山。歴史的にも有名な、”天下分け目”の、天王山だ。そこに、ミツマタロードという、魅惑的な名前のついた場所があると知った。

そして今まさに、その美しい花木が、満開をむかえようとしているという。

ミツマタの木


ミツマタという植物の名前は、枝がすべて、三つに分かれていることから名付けられた。一つの枝が三つにわかれ、その先でまた三つにわかれ、どこまでいっても三つにわかれる枝の先に、宇宙に浮かぶ惑星のような丸くて黄色い小花のかたまりが、無数に浮かぶ。春の美しい庭木のひとつだ。

それが、ロードになっている。頭の中で想像するだけで、行きたい気持ちが強くなった。なんなら一人でも行きたい。
お庭や植物園ではなく、山の中に咲く野生的なミツマタの姿を見て、スケッチしたい。

大好きなことが、こわくてもチャレンジしてみる勇気を、私に与えてくれた。

ルートを打ち出した


まだ見ぬ世界へ。どんなミツマタロードが待っているのか。ついに実行の日。

途中、山道の分岐があるたびに、正しい一本のルートを選択する。その選択が、正しいものでありますように。毎回、祈るような気持ちである。

木イチゴの花

そして見事に、さまざまな選択の中の、たった一つの決断をいくつも乗り越えて、ミツマタたちは突如、目の前に現れた。
うつむきかげんの小花のかたまりが、上に下に、奥に。森の中に、黄色くかがやく道をつくっていた。ミツマタの群れは、予想以上にながく、想像よりもっときれいだった。

私のこれまでの選択が、正しかったと肯定してくれたようだった。

ミツマタロード

どの枝をたどっていけば、目指す花に到達するのか、3つの別れ道を決断しつづけていくミツマタの花は、まさに、今回の山登りで私が、たくさん決断をしてきた道のりのように思えた。

友人のリーダーたちのようには、たのもしくいかないけれど、私も、最後までえがおで、山をのぼりきることができた。

そこにいたのは、想像していたようなこわい生きものではなく、愛らしくかわいい野鳥や、リスに出会えた。スケッチもできた。

マイペースで、自分らしい山のぼりだ。
人生もきっと、マイペースで、自分らしくやればよくて、誰かと比べる必要などない。そうすれば、好きなことの延長線上にかがやく道が現れる。そう思わせてくれる挑戦だった。

一緒に行ってくれたパートナーに感謝しつつ、小さな達成感とともに帰路についた。

出会えたニホンリス


スケッチしたミツマタ



夏鳥のキビタキも来ていた



この記事が参加している募集

みんなでつくる春アルバム

一度は行きたいあの場所

読んでくださってありがとうございます。植物を暮らしの中で楽しむ方法を、絵や文章を通して発信していきたいです。それが回りまわって、”自然”と”人”を守ることに繋がればと思います。まだまだ未熟ですが、サポートしていただけると嬉しいです。