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光と影のミステリー

私たちの心身は、知らずのうちに光と影に影響を受けています。ニューヨークのような都会では、高い建物で太陽の光は遮られ、歩いて何歩かごとに光と影がめまぐるしく変わる体験をすることもしばしばです。太陽が出ているのに、なかなか当たることができない体験をして、光と影に伴う自分の気持ちの変化に敏感になりました。

ニューヨークの通り。建物の影の中を動く人々。

太陽がサンサンと照る日に、光をいっぱいに吸い込むと、楽しいような、嬉しいような、開いた感覚になり、影の中をずっと歩いていると、内省的になるんですね。また、天気が変わりゆく時、それに沿って、自分の体の中の風景も変わっていくのです。

太陽の中に身を浸していると、私たちの体の中で一番大きな臓器である皮膚の下では様々な反応が起こり、「自分」という生態系が蠢(うごめ)いているのが感じられます。そして、太陽が雲に隠れ、急にあたりが暗くなる時、その冷たさは皮膚だけではなく、骨や筋肉の繊維にまで浸透し、気持ちにまで影がさしてくるようなのです。空間だけではなく、時間までもが止まってしまったり、急に飛んだりするのも、光と影の特徴です。

 家の中や舞台の照明をつくる人、写真を撮る人は、こうした光と影の性質をうまく使って、空間の雰囲気やムード、ストーリーを作り出しているようです。例えば、日本の昔の家の照明は暗めで、全体が見えないようにしていますが、これは、十二単衣にも伺えるように、日本独特の「見えないところを想像させる」美学でしょう。

古い日本の家屋内

 光と影をうまく使うことによって、「時間の経過」を感じさせることもできます。ロバート・ウイルソンというアメリカの演出家は、照明の使い方が非常に素晴らしいことで有名ですが、彼の照明の使い方は、空間のムードだけではなく、時間までも全く変えてしまうことがあります。彼の作品を見ていた時、照明がほんの少し陰った瞬間がありました。その時私は、1000万年ぐらいの時間が一瞬にして経ってしまった印象を受けたのを覚えています。照明の角度をほんの少しだけ変え、暗さや明るさを調節する、そして照明から照明への変化をわからないぐらい遅い速度で起こす。それだけで、時間が変わってしまうんです。

ロバート・ウイルソン『海辺のアインシュタイン』         

みなさんも経験があるかと思いますが、夕暮れになるとなんだか寂しくなったりしますよね。光と影の具合は、ムードや雰囲気に影響を与えるだけではなく、様々な感情と繋がっているようです。光と陰だけではなく、光の色や明るさ暗さにも、「あの黄色い街灯のあかりはどこか悲しい感じがする」とか、「カーニバルのピンクの明るい照明はワクワクする」という風に、感情を読みとります。

 人のパーソナリティは、気候に多分に左右されるというように、太陽の光をサンサンと浴びて暮らすラテンアメリカの人々と、太陽のあまり当たらないノルディック地方の人々では、時空感覚なども変わってくるかもしれませんね。 

光と陰がこれほど私たちの内面と繋がってくるのは、私たちの内なる光と影が外の光と影に呼応するためでしょう。このミステリーに限りなく惹かれます。

 自作『プラズマティック・パターンズ』

    

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