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出席簿#17「海を越える弓道の記憶」

【月曜更新】「おしゃべりな出席簿」

7月15日、月曜日。あいにくの雨、という場所も多かったようですが、3連休はいかがお過ごしでしたか?私は子供と一緒に参加する予定だった水遊び企画が雨天で無くなってしまいました……。が、企画者の方が公民館の和室にブルーシートを敷き、小麦粉粘土遊びに変更してくださいました。

一通り粉まみれ・粘土まみれで遊んでから、水遊びで使う予定だったプールを体育館で膨らませて、「さあ、みんなで飛び込もう!」、プールの中はボールプールで使うようなボールや、ままごとセットで満たされていました。地域にこういう企画をしてくださる有志チームがあるのは本当にありがたいなと思っています。

さて、今回はまた、部活動のお話です。夏の訪れとともに、アメリカからの短期留学生を迎え入れることになった弓道部。どうやら弓道部は留学生から人気のようで、数年に1度はこういうことがあるのですが、道具も所作も古来からの独特な名称・表現があるから、意思の疎通はいつも四苦八苦。そんな交流の一場面を紹介します。

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「海を越える弓道の記憶」

音声で楽しみたい、という方はこちらからどうぞ。

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夏の訪れとともに、弓道部は新しい仲間を迎えることになった。そわそわしている男子部員たち。「あ、来ましたよ」。女子部員に囲まれて、陽射しに金色の髪をなびかせながら、「彼女」があらわれた。

アメリカからの留学生受け入れを依頼されたのが一カ月前。武道は所作を大切にするし、古い言葉でもってその所作や弓具を示す。いろいろなことがちゃんと伝わるか、心配しながら迎えた日だった。

「じゃあ、早速やってみようか」一通り見学し、いよいよ練習を始めることに。新入生に教えるのと同様、道具を一切持たずに基本の型を繰り返す。「足踏みの位置をちょっと直したいけど」「手首をもう少し丸く、手の甲は上に……どう言えばいいのかな」私たちも四苦八苦、彼女も困り顔。しばらくして部員の一人が声をあげた。「プリーズ、ルック、アト、ミー。これが『良い』グッドね、これは『だめ』バッド。」言いながら、「良い型」「悪い型」をそれぞれ示す。「アリガトウ、ワカリマス」。伝わった。歓声が上がった。

それからの上達には目を見張るものがあった。彼女は一生懸命だし、部員たちはおどろくほど積極的だ。言葉を選ぶあまり立ちすくんでいたけど、伝えたいことはたくさんあったのだ。

弓を引く姿に、「どう?」と言葉をかければ、返ってくるのは「ムズカシイ……」と笑いを含んだような声。「難しいよね」と言いながら、部員も笑顔。一緒に難しいことに取り組む。そこに楽しさを感じられるようになったのは、その先にある喜びをもう彼らが知っているから。彼女の存在が弓道部に新しい風を吹かせた。

帰国まであと一週間。「弓道」の記憶、そして「部活動」の記憶が、海を越えていく。

(2012/07/25 朝日新聞島根版掲載)

作品に寄せて

本文中に「足踏み」という言葉が出てきますが、これはれっきとした弓道用語。射法八節(しゃほうはっせつ)という最も基本的な所作の一番最初です。詳しく知りたい方はぜひこちらをご覧ください。

「足踏み」はまだ説明がつけやすいのですが、その次は「胴造り(どうづくり)」

重心を体の中心に置き、弦調べと箆調べ(つるしらべ、と、のしらべ)で弦の位置と矢の方向を調べ、息を整えます。
*目は鼻頭に
*心気を丹田におさめる
*肩、腰横の線を足踏の線と平行に重ねる
*本弭を左の膝頭の上に置く
*膕(ひかがみ:膝の後ろ)を伸ばす

全日本弓道連盟ウェブサイトより

日本語の説明も、なかなかに難しいでしょ(笑)4月から新入部員たちに「自分なりに解釈したうえでわかりやすくした日本語」とジェスチャーで、弓の基本を教えてきた2,3年生たちも、これをさらに留学生と共有しようと思うと、英語も日本語も、言い竦んじゃうんですよね。それでも伝えたい思いを一生懸命届けようとする部員たち、受けとめようとする留学生さん。短い期間ではありますが、そうした交流で仲が深まっていく様子には、いつも胸に響くものがあります。

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