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出席簿#22「いつしか『先輩の顔』に」

【月曜更新】「おしゃべりな出席簿」

8月19日、月曜日。お盆休みが明けて、お仕事モードに切り替え、という方も多いかもしれません。高校は、といえば甲子園シーズン。今年の島根県代表校は、監督がかつてお世話になった方、ということもあり、いつになく真剣に応援していました。

勝ち進むうちに、地方紙では号外が出たりして、球児たちのコメントや監督さんのコメントに触れることがとても多い一週間だったように思っています。現在育休中の私ですが、産前休暇に入るまでは弓道部をはじめ、様々な部活動に関わらせてもらってきました。大変なこともありましたが、甲子園を見るうちに、また、部活動もやりたいなあ、そんな気持ちになりました。

さて、そんなわけで今回は部活動のお話です。

学校の「今」を島根の現役教員が綴ったコラム集、『おしゃべりな出席簿』5分間だけ、高校生活をのぞいてみませんか?

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定期的に沸き起こる席替えコール、学食バイキングでの温かい交流、総体出場メンバー選抜前のギスギス感。センター試験前にフェリー欠航の危機!?緊急事態宣言、そのとき島根では……?誰もが懐かしめる学生時代の思い出も、島根ならではエピソードも詰まった一冊です。

「いつしか『先輩の顔』に」

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夏休み、文芸の合評会をした。物静かな印象があった唯一の三年生は、聞き上手。一年生たちから、なにをどう書きたいのか聞き出す。それからアドバイス。自作についても、下級生の意見をしっかり聞く。聞いてばかりかと思ったら、突如、「それは勘弁してくれよ、ここはこういう意図があって書いたところなんだから」。こだわりの表現は譲らない。

演劇の練習をのぞくと、久々に見る頭がひとつ、ぺこりと下がる。引っ込み思案の彼女は、これまた唯一の三年生。文化祭公演を応援しに来てくれたのだ。新体制での最初の舞台。練習ののちに感想を聞くと、「すみません、私なんて、たいしたアドバイスは……」と前置きをしてから、「ここは手持ちぶさたになってる人がいるから気をつけて。ここは動きをもっと詰めておいた方が……」。話す話す。驚いた。手元のメモには書き込みがびっしり。

どうしたわけか、今年度縁ある部活動の多くが鍋ぶた型。上級生ちょっとの下にたくさんの新入生。三年生の彼らはいわゆるリーダータイプではなかったし個性派揃いの下級生とどう関わっていくのか、心配したこともある。
でも、好きなことを三年間続けてきたという自負、下級生が出来て気づいた新しい責任、それらを背負った上級生はやっぱり強くて、それぞれの言葉で下級生を伸ばしてくれた。

学園祭の準備もいよいよ大詰めだ。文芸も演劇も、これで正式に世代交代。突然増える責任に戸惑う一年生もいるけれど、これまで追ってきた背中は語りかけ続けていた。「大丈夫、大丈夫。続けていけば、自信になるよ」。不安そうな顔をした下級生たちも、少しずつ前進する中で、いつしかそれぞれの「先輩の顔」を見つけるにちがいない。

(2011/08/31 朝日新聞島根版掲載)

作品に寄せて

文芸部ってどんなイメージがありますか?私が担当をしていたころ、文芸部は週に一回ペースで合評会をしていました。ということは、それに合わせて、多くの部員が少しずつ作品を書きためてくるわけです。互いの表現をしっかり味わう、そして、自分が感じたことを「作者」と交わす。そのころは私も生徒と一緒に合評会用に作品を書いていました。国語の教員ではありますが、合評会はできるだけフラットな場にしたくって、たくさん生徒から意見をもらっていました。表現することの難しさを感じることも多くありましたが、私にとって、本当に楽しく実りある時間だったと思っています。

どこもかしこも深刻な教員不足。というわけで、これを書いていたころ、独身の若手教員は複数の部活動を掛け持ちで担当するのが常でした。当時は弓道部の主顧問をしつつ、文芸部と演劇部も主顧問、さらに放送部の副顧問をする、という多忙っぷり。

なぜこんなことが起こっていたか、というと、まさに生徒減とそれを上回る教員不足のなかにあって、文化部が統廃合されつつある過渡期だったから名です。結果的に、複数の文化部が統合された部を受け持つことになった私だったのでした。というわけで、私のエッセイには時に演劇部、時に放送部、文芸部に弓道部……さまざまな部活動が登場します。

忙しくはありましたし、教員の働き方のなかに、もう少し余白を設けるためにも、部活動はこれからそのあり方が問われていく時期なのかもしれないとも思います。ただ、思い出として、あのころ懸命に生徒たちと部活動をした日々、それはそれで輝きを放つ記憶だな、とふと思い返したりもするのです。それは、あの、懸命に自分の好きなことに磨きをかけ、先輩として次の世代をはぐくんでくれた彼ら彼女らの姿によるものだろうと思うのです。

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