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小山 和裕 / 一杯のお茶

『おいしい』
そう感じられるのって幸せですよね。
きっとそのカップやグラスにはいろいろな想いが注がれているはず。
聴いてみたいと思いませんか?

OUR STUFFは
"想い" をもって『美味しい一杯』をつくる人たちに、会いにいきます。


急須から、お茶の香りが漂ってくる。控えめな、けれど日本人にはなじみの深い香り。1煎目、2煎目…そして3煎目と抽出したお茶を混ぜ、一つに整えていく。

そのお茶の種類や特性、農家さんの想い、業界の危機感までを一手に引き受けて、一杯のお茶を注ぐ茶リスタの想いを聴いてみた。

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今日お出ししたお茶は「はるみどり」といいます。煎茶の中では甘い部類に入り、花に例えると和の花々、菊みたいな華やかな香りが印象的です。

淹れ方は、1煎目は氷水で茶葉を浸し、ゆっくりと開かせていきます。そのあとは熱湯を注いで、急須とガラスサーバーのお湯を何度か入れ替えることでお茶の味や香りを出していき、ちょうどよいところでストップして提供します。

一杯180ccを最後まで楽しむことができるような味を逆算して考えますね。渋すぎるよりは、すっきりと飲める且つ冷めたときも変わらず楽しめるように、1煎目 (氷水) で出した甘み・旨みをベースに、2・3煎目の渋みを足して一つにしていく。茶葉の種類によって調整する必要があるんです。

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お茶に興味を持つきっかけは、前に働いていた"茶茶の間"というお店。"お煎茶"って呼ばれるお茶の楽しみ方を知って、『え、なんで?なんでこんなに苦味とか甘みが強いんだろう?』ってほんとに衝撃を受けて。同じ量、同じ淹れ方なのに、一煎、二煎、三煎目で全然味が違うんですよね。『なんで?』って(笑)

それでセミナーに通うようになって…片足突っ込んだつもりが、気づいたら頭のてっぺんまで浸かっていたって感じですかね。入ってみて思ったんですよ、『あ、やらなきゃ』って。

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お茶を勉強するようになってから気づいたことがあって。それは、日本茶の文化には"淹れ手"がいないということ。コーヒーだとバリスタ、ワインの場合はソムリエがいて、そういう方々が表現した一杯をお客さんに提供していますよね。

それで日本茶の場合はどうかな?って調べてみると、"呈茶"っていう言葉はあるんです。「お茶を淹れて提供する」という意味なんですが、あくまで行為のことで、主体を指す言葉じゃない。淹れ手がいないということは、つまり農家さんやお茶屋さんから直接消費者につながっているんです。日本茶の場合は手軽にちゃんと飲めるお店がないから、安いペットボトルや淹れやすいお茶が売れる。

じゃあ淹れ手になればいいということで、勝手に"茶リスタ"という言葉をつくって、お茶のバリスタとして活動を始めたんです。

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お茶って普及しきっていてすごく身近なものですよね。でもよくよく考えてみると、コーヒーみたいに気軽に外に行って飲むということはあんまりない。

一方外で飲む場合はどうしても1煎目、2煎目…という楽しみ方になるので、敷居が高い印象を与えますし、値段的にも気軽さはなくなってしまうんです。だから、本当に手軽にいつでも飲める場所が必要だなと思って。日本茶をテイクアウトするお客さまが増えると嬉しいですね。

いま、日本の方ってお茶に対して"嗜好品"っていう感覚がほとんどないですよね。でもそこを変えたい。ここで扱っているお茶のほとんどはお会いしたことのある農家さんのものです。一杯の価値を提供するには、やっぱり作り手、茶葉を育てている方の想いも全部含めての一杯としてお客さんに伝えたい。

まずは"一杯のお茶"に価値を見出してもらう。この一杯を買ってもらいたいですね。

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Satén japanese tea / 小山 和裕(東京都杉並区松庵3-25-9)

取材当時(2016年)、おひとりで吉祥寺のUNISTANDを運営されていた小山さん。現在は、ご自身のお店であるSatén japanese teaを営まれています。
「一杯の茶」、へ込める想いはそのまま。茶リスタのチームとして、より幅広い層のお客様へ、変わらず丁寧にお茶を淹れていらっしゃいます。


Text & Photo by Taiga Kato
All credits go to OUR STUFF.

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