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トイレ掃除と台風自転車|なおい日記

罪悪感を軽減させるのは、トイレ掃除が大変有効であるのだ。
だので、実家に帰ると早々にトイレ掃除をする。
実家はいつだって散らかっている。一人暮らしの我が家を差し置いて、誰が言ってんのだという感じではあるが、掃除が全く行き渡っておらん。
これは親の性分もあるにはあるが、我が家で暮らす5歳児のためでもある。
こいつは、嵐なのだ。嵐を呼ぶ5歳児ではなく、こいつそのものが嵐。
SO SO いつもすぐそばにある 譲れないよ 誰も邪魔できない程の嵐である。いや、そんな爽やかなもので片付けるべきでない、殺人ハリケーンかと思うくらいの大嵐だ。子供は恐ろしい。

我が実家には5歳になる里子がいる。
生後2週間で我が家に来て、今年も無事に5歳の誕生日を迎えた。まさかこんなに長くうちで過ごすことになるとは。
こいつは良く喋りよく走る。運動神経が抜群だから、補助輪なし自転車を与えられて1日で乗れるようになってしまった。補助輪歴0日。
私は実家に帰りたい、家族に会いたいという気持ちは特にないが、彼は会うと必ず喜んでくれるから私も会いたいと思ってしまう。
それ以上に、奴の世話が大変なので、連休があったら帰って手伝うようにはしているのである。
8月の簡単な連休を使って、実家に帰ったは良いが、彼との関係性にいつも後悔して帰ってくるばかり。

ものすごい繊細な癖に、「夜一緒に寝てよ〜お願い〜」とか言うから隣で寝てやると、いつもと違う環境に体が慣れず2時間おきに金切り声の夜泣きをした。
「暑い〜!暑い暑い暑い!」とか言って大泣きなので、半分寝た状態でうちわで仰いでやると、ほんの数秒静かになって、また騒ぎ出す。
独身者の私はお手上げで、その隣で寝ている母のもとに転がっていき母に助けを求めるように泣きながら叫ぶ。
「暑いって言ってもしょうがないでしょう」とかなんとか文句を言いながらなだめすかし寝かしたり、それでも止まらないと奥の部屋から父が登場して「はいはい大丈夫だから」と低い声でお尻をリズミカルに叩くとそのうち落ち着いて寝る。
これをひと晩で4回くらい繰り返した。
母や父を真似して私がお尻ポンポンしても嫌がられる。
残念ながら私には、奴をなだめる術は持っていない。
彼にとって、ときどき会って仲良くしてくれる対象ではあるが、安心できる対象ではないのだと最近は会うたびに感じている。なんだか寂しい。

日中に、家の奥の方から昔うちで生活していた別の子供のおもちゃを引っ張り出して我が物のようにしているので、「それは君のおもちゃじゃないし、勝手に出しちゃダメだと何度も言っているのだから片付けてきなさい」と何度目かの怒り。
すると奴は、手に持っていたそのおもちゃをぶん投げた。
そういう事しますよね、君。
私だって頭に来て、近くにあった彼のお気に入りのおもちゃを叩きつけた。
人に自分のものを投げられたら嫌でしょう?と講釈はつけたけど、大人気ないことは当の私が一番わかっている。
いつか自分も子供ができたらいいなと思わないことはないが、こんなことではダメだこりゃともいつもすごく思う。

この日は大きな台風が上空を通過するというから、前日からテレビでは大雨のニュースで持ちきりだった。
どこの川が氾濫したとか、どこどこの村では避難が進んでいるとか。
そんな状況の中、5歳児は「どこか行きたい!!散歩に行きたい〜〜〜!!!」と叫び始めた。
「台風だから」と何度説明したって、大人を叩く蹴るをしながら叫び続けるだけ。
正直説明なんかしなくても、窓の外から大雨が降っている音は聞こえてきている。
でもそんなことはお構いがないわけだ。俺は体がウズウズしてるから、外に出たいと言ったら出たいのだ。
じゃあ行って来なよ、といえば一人は怖いから無理なのだそうだ。
しょうがないからほんの少しだけ雨が落ち着いてるところで、奴を連れ出した。この家で一番若い私がやるしかないのだ。
カッパを着せて、自宅前で自慢の自転車を爆走させる。
私は屋根のあるところから見守る。
風と雷は静かになっていたけど、すごい雨である。
それを何が面白いのか、家の前の20メートルを行ったり来たりを一生繰り返している。
アホだ。でもしょうがない、奴の体が叫んでいるのだから。
午前のこのイベントは楽しそうだったが、午後に再度連れて行かれたときに私が賢くなって、家から折り畳み椅子を持ってきて横目で彼を目視しながらスマホゲームに興じ始めた姿を見かねて、「もう帰る」とやる気を無くして家に入っていった。

本当は知っている。
彼がなんであんな無茶難題を言い続けるのか。
私がわかっているんだから、父も母もわかっているはずだ。
当の5歳は、もしかしたら気がついていないかもしれない。
自分がこんなに、わざと大人に嫌がらせすることや怒られるようなことをしてしまう心の源のこと、きっと気がついていないだろう。
でも知っているのよ、君が私たちを試していること。
だから優しくしてやりたいと思うのだけど、体力に余裕のない日常ではなかなか難しいのだよ。困りましたな。

私が帰ったところで、両親の負担が減っているとは思えないし、私もヘトヘトになるし、誰かの得になっているとは思えない。
とても悲しい。
だから、実家に帰って、早めにトイレ掃除をする。
そうだった、私トイレ掃除したんだから、それでだいぶチャラになるな。だってトイレ掃除したんだから。

2022年8月某日日記

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