見出し画像

テレビ局の進化が、日本を元気にする 4)放送インフラの統廃合

以下からの続き、

 扉絵の”桶”を目指して、この章は論を展開していきたいと思います。なぜ、”桶”なのかは、最後のパートにて(笑)。


ボトムライン:経営の効率化

4)放送インフラの統廃合

 さて、ここまではトップラインの領域に関して、売上を作る課題や対案を話をしてきましたが、ここからは、ボトムライン=経営の効率化の領域について考えていきたいと思います。

課題:「放送」は、みんなに届けなければいけないという問題。

 テレビ放送は、1950年放送法が公布施行されて後、そのルールに沿って、1953年に当時の最新技術を駆使したテレビ機器によって、生活者が家で放送を受信して映像を見ることができるようになったサービスです。

放送法
第一条
 この法律は、次に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。
 放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。
 放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。
 放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。

放送法(昭和二十五年法律第百三十二号)

 その伝達の主たる手段は、電波法によって割り当てられた周波数帯を使用して行っています(第二条一項)。つまりは、電波という国に規定された公共財を使っています。電波は、”空気中の国有地”、国が法律を制定して、利用できる電波を免許制にして利用料金を取りつつ管理をしています。そして、当時制定された、電波と公共財という考え方から、特別にその権利を利用できる人々は、「放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障」(第一条一項)させられているのも特徴です。

第二条 この法律及びこの法律に基づく命令の規定の解釈に関しては、次の定義に従うものとする。
 「放送」とは、公衆によつて直接受信されることを目的とする電気通信の送信をいう。

放送法(昭和二十五年法律第百三十二号)

 この条文により、山間部や離島といった地形が複雑な様々なところに人が住んでいる日本では、その隅々まで情報を届ける”義務”を負ってしまいました。その後、テレビの誕生から40年ほどして登場したインターネットは、1950年代では想定していなかった情報伝達手段によって瞬く間に普及し、生活者の情報摂取における生活習慣を変えていきました。そして、2010年代に入って、急激にインターネットの技術とサービスが拡充され、映像を見るという行為では差分はなくなり、逆に、オンディマンドやポータブルといった特性により、テレビ機器の利便性を超えるサービスとなっていったのです。

 そういったなか、手段と目的が違えて議論されているのが、この「放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。」だと私は考えています。そもそも、この法律が生活者ために施行されたのであれば、放送事業者も、手段に拘らず、その「目的」が達成されればいいのです。しかし、”放送”局は、電波を利用している制約に縛られ、独自の放送設備含めたネットワークを構築しなくてはいけなくなり、それが、競争環境の激しくなった現在、一つの経済的効率の足かせになっているのです。

対案:放送と通信の併用

 実は、この領域における技術的な議論は、かなり昔からなされています。例えば、以下の総務省下で検討されている案は、技術側面含めて「進め方(案)」がまとまっており、具体的な案は以下に委ねたいと思います。

小規模中継局等のブロードバンド等による代替に関する作業チーム
進め方(案)

総務省 デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会

 ここでは、ではなぜ進まないのかに対する対案を提示できればと思います。ここでの私の答えは、テレビ局としての問題としてとらえず、関係者を広くとらえて、この放送インフラの統廃合を進めることが、今できる事ではないかと考えます。では、その関係者を広くとらえることで、得られる利点を、その構造とともに説明していきましょう。

利点:”風が吹けば桶屋が儲かる”のメリット構造

 繰り返しになりますが、技術革新を取り入れることを、テレビ局のみに資する検討はもったいないのです。この章で一番言いたいことは、テレビ局のインフラ改善は、”風が吹けば桶屋が儲かる”という構造にあるということです。つまりが、テレビ局以外のプレイヤーもメリットが多いということをしり、その構造ゆえに、なかなか進まないこのルール変更や技術的な改善を関係者全体の課題として取り組むことで全体最適を目指せるのではないかと考えています。
 まず、その構造を見ておきましょう。以下は、総務省が発表している「主な無線局免許人の電波利用料負担額」(2021(令和3)度)です。主な無線局として選定されているのは、テレビ局128社携帯系事業者7社です。各事業者は個別に設定された電波利用料率で負担額が決定されています。その額、テレビ局、128社で年間約78億円携帯系事業者、7社で年間約640億円

主な無線局免許人の電波利用料負担額
令和3年度 総務省

 これを各事業者が生活者に届ける”原価”として試算すると、テレビ局は携帯系事業会社の8倍ほど安価に電波を利用しています。以下に詳細な算式をつけていますが、これは、作者の方で総務省のデータに、各事業者が利用できるエリア人口を算出し、各負担金総額をその延べ人口で割った万人当たりの負担金額を出してみました。テレビ局は、万人当たりの電波利用負担額は、0.10円。それに対して、携帯系事業者は0.83円となっています。この差分がおかしいと、ここで言いたいのではなく、テレビは1950年時点の電波価値によって算定され。技術革新が進んだのちに参入した携帯系事業者は新たな価値に基づき算定された現在価値の差分だということです。
 ここで重要なのは、この現在価値を大切にするということ。公共財としての電波の利用効率は技術革新とともに、価値が増しています。放送インフラの統廃合は、電波という公共財を新たに作ることなります。そして、新しい技術により新しいサービスが生まれるきっかけになり、それが、我々生活者が受けられるであろう未来のメリットに育っていくので。

主な無線局免許人の電波利用料を
万人単位の負担金額に換算比較
(作者二次集計)

つまり、これが、”風が吹けば桶屋が儲かる”という構造なのです。

放送設備の共有、インターネットの併用

逼迫している周波数帯に余剰が生まれる

新規利用企業への周波数提供による税収増加

電波を活用した新ビジネス、サービスの登場

生活者の利便性向上

 放送インフラの統廃合は、テレビ局と総務省だけが考え取り組む課題ではなく、携帯系キャリアはもちろん、電波の有効利用による産業振興など幅広いプレイヤーが参画して早期に改善・活用されて初めて多くの関係者がメリットを享受できるものに昇華していくのです。

以下へ、つづく

本記事、お読みいただきありがとうございます。
無料記事にしては、情報量や質が”あったな”と思ってくれた方は、
以下にて「応援課金」よろしくお願いします。以後の執筆の励みにさせていただきます。

ここから先は

16字

¥ 100

この記事が参加している募集

是非、サポートお願いします。データやメディア、そして、普段のビジネスで気になること、活用できることを発信して、少しでもみなさんの役に立つコンテンツになりたいと思います。