第8号(2023年9月8日)枯れたデジタル技術と新技術の組み合わせの妙を発揮するドローン(7月期)

9月2日に行われました横田徹氏講演会にお越し頂いた皆様、ありがとうございました。第8号は、前号に引き続き7月期の話題と論文についてご紹介します。



塹壕戦で活躍するドローン

概要
Анатолій Штефан (Штірліц)が6月26日に投稿

要旨
 ロシアとウクライナの兵士が塹壕で戦闘している様子がドローンによって撮影されている。ウクライナ側の兵士は上空にいるドローンによる情報提供を受けていたと思われる。ドローンによる支援の結果、ウクライナ側の兵士は塹壕での戦闘を制することができた。

コメント
 
塹壕は狭く、何よりも前方の見通しが悪く敵の把握が難しい。しかし映像を見てわかるようにドローンは上空から塹壕を見通すことができる。上空にいるドローンからの情報、もしくは火力支援により塹壕内の歩兵は優位性を得ることができるだろう。
 ドローンは塹壕戦を効果的に支援できるアセットであると言える。戦闘ヘリや航空機でも、物理的にはドローンと同時に塹壕を上から監視することができるが、コストや高度等の問題からドローンが行うように塹壕戦を支援できない。 (以上NK)

 塹壕の優位性は全容の把握が困難であることでしたが、ドローンの登場により揺らいでいることがよく分かる映像です。特に犠牲をあまり考慮せずに「空地中間領域」においてより細かに、時にはホバリングして状況を掌握できるというのは、既存のアセットにはない利点と考えます。
 他方で塹壕はドローンだけで制圧できるものではありません。この映像のように、ドローンから支援された情報をどのようにシームレスに戦闘に活かすかがポイントになると思います。その点で指揮官にはレガシーな戦争よりも多くの知的能力が求められるのではないかと考えました。このような能力は一朝一夕では身につきませんし、優秀な人材はすでに民間との取り合いとなっています。戦争を前提にせずとも、このような映像から学ぶことは山のようにあるのではないでしょうか。(以上S)

ドローンが撮影したJDAM攻撃の様子

概要
OSINTtechnicalが7月22日に投稿

要旨
 
JDAM/GLSDB誘導爆弾によりドネツクにあるロシア軍の指揮統制拠点が攻撃された際に撮影されたとされる映像が公開された。攻撃の様子がドローンによって撮影されている。

コメント
 
攻撃の様子がドローンによって捉えられている。ドローンによって着弾観測を行えばキルチェーンを低コストで回すことができるだろう。
 加えて攻撃の様子を公開することにより、認知戦においてもその戦果を転用することができる。現実空間とオンライン空間両方を繋げることができるドローンだからこそ可能な事である。 (以上NK)

 ドローンによる攻撃の様子をドローンが監視する場面が増えてきました。恐らく今後はこのスタイルが戦闘の主流になるものと思われますが、物量が更にモノを言う時代を予感させます。ドローンの無駄遣いはもったいないと二の足を踏むよりも、ドローンを勿体ぶってキルチェーンが途絶えるリスクの方がよほど重大であるのは言うまでもないでしょう。
 また、ドローンは構成品のカスタマイズが比較的容易です。例えば自爆ドローンには最低限の装備、攻撃を誘導・モニターするドローンは高性能のカメラ+映像伝送装置などと、組み合わせを更に工夫するフェーズになっていると考えました。 (以上S)

ドローン母艦としての価値が水陸両用船に与えられる

概要
C4ISRNETに6月29日掲載
原題 ”Pressed to prove value of amphibious ships, Marines seek to add drones”

要旨
 
米海兵隊が保有する水陸両用艦艇は、今までの役割に加えて無人アセットの母艦としての役割を付与されることになりそうだ。米海兵隊の将来における戦力構成を規定するフォースデザイン2030が6月に更新された。
 この更新では、水陸両用艦船が無人航空機や無人艦船をどのように収容し、発進させるかといった事について「全体的な母艦実験キャンペーン計画」を策定することを求めている。文書においては「将来、水陸両用艦艇は、有人、無人、HMTシステムの "母船 "として、さらに多くの能力を提供することになるだろう」 “In the future, amphibious warfare ships will offer even more capability, serving as ‘motherships’ for a variety of manned, unmanned, and human-machine teamed systems.”と述べている。
 このフォースデザイン2030の更新において、海兵隊戦闘研究所は10月までに母船実験を開発することを求められている。海兵隊海上遠征戦部門のショーン・ブロディ部長は、水陸両用艦船が母船として行うタスクを開発するための次なるステップとしてコンセプトや試験に関する文献の検討を進め、追加するシステムを運用するための人員を見積もることだと述べた。

コメント
 
米海兵隊は無人アセットの導入に非常に積極的であることは今までの記事でも読み取れたが、今回の水陸両用艦船にドローン母艦としての役割を付与する検討を進めているというニュースは興味深い。
 実際無人アセットを運用するなら、ただ無人アセットを買います、作りますといった話だけでなく、その無人アセットを全体のシステムとどう組み合わせるのか、ロジスティクスはどうするかといった設計や議論が必要になる。海兵隊の今回の動きはまさにそうしたものであろう。海兵隊の無人アセットへの本気度が伺える。
 ブロディ部長が記事内で様々なドローンが水陸両用艦船に追加されることになるが、これに伴い水陸両用艦船の生存性、殺傷力、自立性を高めるためのアップグレードが必要となる可能性が高いと指摘していることは見逃せない。これは既存のシステムの延長線で、新技術を導入するのではなく、新技術の導入に基づいて既存のシステムを見直していく必要があるということであろう。
 日本も無人アセットを導入していくのは既定路線であるが、ただ物を買うだけでなく、運用に必要なものは何かといったことまで考えていく必要がある。 (以上NK)

ウクライナの水上ドローンはロシアに対する非対称な海軍的優位性を与える

概要
Business Insider に7月18日掲載
原題 ”Drone boats give Ukraine a cheap, 'asymmetric' edge against Russia and may have just damaged a key bridge”

要旨
 
2023年7月17日にクリミア半島とロシア本土を繋ぐケルチ海峡大橋で爆発が発生した。この橋はクリミア半島を占領するロシアにとっては重要な役割を果たす。興味深いのが、この爆発はウクライナ側の保有する無人水上機(USV)によって引き起こされたということだ。
 ウクライナはUSV部隊をクラウドファンディングで資金調達して配備しており、既にロシア軍艦船への攻撃が実行されている。CNA(Center for Naval Analyses)のアナリストであるサミュエル・ベンデットが指摘するように、USVを製造・配備するコストはUSVによる攻撃から防御するコストやUSVを破壊するためにかかるコストに比べて低い。したがってここにUSVを活用するウクライナ側に「非対称な優位性」が生まれる。

コメント
 
ウクライナのUSVによるケルチ橋攻撃に象徴されるように、安価な無人アセットはコスト面において非対称な優位性を与える。これは陸海空どのドメインにおいても発生する事だろう。
 安価な無人アセットによって非対称な優位性が発生するとするならば、兵力整備の大まかな方向性が質より量ということになっていくのであろう。無人アセットの調達・配備コストを低くするためには民生技術の積極的な活用やアセットの国産化といった取り組みが必要になると考える。 (以上NK)

 「非対称な優位性」の効用を大きくするために、作戦支援基盤の確立が重要になると思います。2~3隻のUSVが、周囲に民間船舶がいない状況で同じ目標に対して攻撃をする分には問題ないと考えられますが、より大規模で、より広い海域で、また天候条件が揃わないときに作戦を実施する際にはどのように周囲の安全を確保しているのだろうかと疑問に思いました。特に遠距離からUSVを投射する場合は途中の通信途絶や沈没、目標誤認等様々なトラブルが予期されます。恐らくタブレットと航跡表示アプリを用いているとは思いますが、そこに映らない脅威をどう認識するか、台湾海峡付近を念頭に置くと、応用への課題はまだありそうです。(以上S)

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