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『南へ走れ 海の道を!』(1986)、ハイビスカスと拳銃

火の匂いの生木あなた蛍ですか   野ざらし延男


1986年 沖縄、夏

「ウチナンチュー」「やまと」といった言葉がでてくるのだが、「ウチナンチュー=沖縄の人」「やまと=沖縄以外(内地)の人」という意味で、沖縄以外に住む人で、こういった言い方をするところはないだろう。

これは、沖縄の歴史による。

1945年 米軍、沖縄に上陸(沖縄戦)
1952年 サンフランシスコ講和条約、米軍の管理下に
1960年代 ベトナム戦争、沖縄が最前基地とされる
1972年 日本へ復帰

と、簡単ではあるが、第二次世界大戦から復帰までの間、沖縄に住む人の気持ちは複雑だったに違いない。
当時、沖縄へ行くにはパスポートが必要だったのだから、「うち」と「それ以外」と分けた考え方をするのは当然であろう。

今作に関して、沖縄の歴史に関することは描かれていない。
しいていえば、米軍がいること、いた当時の影響が町には残っていることくらいだろうか。

なので、これ以上これに関しての言及は、いずれ別の機会に。

沖縄のヤクザにちょっかいを出して、拉致されてしまった仲間を助けるために、事務所に向かうボクサーの哲(柳葉)。
なまじ腕に覚えありだったことともあり、単独で向かってしまい、逆に殺されてしまう。

警察に通報する手もあったのだが、「自分たちから仕掛けておいて、それは出来ない」と判断していたが、もしかしたら、警察(国家)に対して、なにか思いがあったのかもしれない。

ベトナムから、哲の兄、亮(岩城)が、弟の復習のため戻ってくる。彼の経歴は、

1973年 19歳、九州から上京
1974年 20歳、アメリカへ渡る
1975年 21歳、報道カメラマンとして戦地に入っていたが、問題を起こし行方不明

アーミーな出で立ちで現れたものだから、特殊部隊か何かだと思っていたのだけど、全く違う。
なぜ、そう思ったのかというと、今作は、10代のころ一度観ていて、おそらく最初にであった「ハードボイルド」作品だからだ。
そして、ハードボイルドがちょっと苦手になった作品でもある。

というのも、人間臭が全くしないので、感情移入しづらい。(某作品の伊達とか鳴海とかみたいに)
例えば、銃で撃たれ、体内に残った弾をナイフでえぐり取る。自分で。それはないでしょと思ってしまう。
実際に、戦場などではあったことかもしれないが・・・・・・。

ただ、今回再見してみて、ちょっと記憶から漏れていたことがあったことに気づいた。
なかなか、人間味のある人物だったのだ。

復習を成し遂げ、殺すのか、それとも助けるのか。
「殺さないという選択」が「殺すという物語を生む」

そして、安田成美の笑顔を生んだ。
『セーラー服と機関銃』(1981)の、薬師丸ひろ子の「カ・イ・カ・ン」には及ばないものの、非常に印象的な表情を見せる。

さて、どう取りましょうかね、この笑顔。
今作は、多くを語らず、非常にいい塩梅だった。注意して観ていれば、先の展開が読めるのだが、それを台詞で言わないところに好感が持てた。


火の匂いの生木あなた蛍ですか   野ざらし延男

これは過去に失われた命に対する想いが込められている。
「生木」は文字通り生きている木。なのに火の匂いがするという。過去にここで戦火があった(作者が沖縄の方というのもあり)のだろう。
蛍は死者の魂と考えられるが、「蛍なのか?」と問いかけている。もしかしたら、消息不明なのか、蛍になっていてほしいという願望か。


『南へ走れ 海の道を!』(1986)
監督:和泉聖治
脚本:和泉聖治
原作:佐木隆三
出演:岩城滉一/安田成美/峰岸徹/柳葉敏郎/室田日出男/萩原健一

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