007. Rice Cooker｜小さな変化

GWいかがお過ごしでしょうか。我が家は半径3km圏内の徒歩移動オンリーで気分転換しつつ、ここ一年で激増した植物の手入れや使わなくなっていたモノの整理などに勤しんでいました。眩しいくらい鮮やかな緑を窓から眺めつつ、気分は年末の大掃除。気づけば今年ももうすぐ折り返し地点。意識しないと生活のリズムが平準化しすぎてしまって、どこかで反動が来てしまうのでは。と思ったりしたGW。そんな我が家のプラスにもマイナスにもふれて、リズムを作っている炊飯用土鍋について、今回は考えてみようと思います。

コロナに突入してすぐの頃に炊飯器を買い換えようと思っていた。妻が一人暮らし時代から使っていたTOSHIBAのコロンとした炊飯器。ハイスペック化に拍車がかかる今の家電には到底及ばないであろう質素な機能しかないものの、その小型で愛らしいフォルムがなんとも気に入っていたが、なんとなくもう潮時かなと話していた。

ただ、欲しい炊飯器が見当たらない。何より全部大きい。新しい小型のモノでも、まるで低機能なことを恥じるように振る舞っているようにさえ見える。ブランドのラインナップ戦略を考えれば当然のことでもある。高機能で高価なものはそう見えなければいけない。相対的にスペックで劣るものは、劣るように見えしまうことも多い（もちろんそうでないものもあるが）。

そんな時にふと友人に、いい炊飯器ない？と聞くと、「土鍋いいよ」という応えが返ってきた。「なるほどその手があったか」。

我が家は、ほぼ二人ともリモートワークで家にいるので、保温の必要もなければ、席を立てばすぐに火の調節もできる。そして何より電気を使わないし壊れない（電気的な意味で）。あの電子音も聞かなくて良いし、LEDライトもない。

毎日出来栄えが変わる土鍋

実際使いはじめてみると、はじめは少し苦戦した。火加減や蒸らしの加減でおこげを通り越して焦げついたり、水気が多くなったり。

その原因は、浸水の時間なのか、水の量なのか、火加減なのか、加熱の時間なのか、蒸らしが足りないのか。。。うまく炊けるようになるのにまさにトライ&エラーが数日は続いた。

この感覚はコーヒーを入れる感覚に近い。豆の挽き具合や量、お湯の温度や、ドリッパーへの注ぎ方やリズムによって味わいが変わるが、上手にできれば格段に美味しくなる。「美味しいコーヒーを飲む」ことだけでなく、「美味しいコーヒーを淹れる」ことに体験の価値を感じる部分もある。コーヒーは自分でコントロールできる部分も多いが、土鍋が少し厄介なのは、炊いているまさにその時を目で確認できないこと。開けてみるまでわからない。まさにブラックボックス。その周りの湯気の出方や米のなる音、焦げついた香りを察知しなければならない。またそれはそれで面白みを感じる。

小さな喜び

ただ、この「出来具合のムラ」と「米の反応を感じ取ること」は、確実に生活にリズムを作っている。「今日のごはん」は毎日違うようになる。「最高にうまく炊けた日」もあれば、「少しだけ焦げついた日」もある。毎日同じようで異なるし、全く同じにはできない。日常の小さなアップダウンが差異を作り出していく。うまく炊けない日があるから、うまく炊けた時のハイライトを作り出している。

以前、TakramのNews Letterで私が紹介した書籍に「旅の効用」というものがある。その書籍には、こんな一節があった。

（頼りのない地を訪れることで）「すべてをコントロールしなくても日々がうまく運んでいくと気づくこともある。」

現地の天気や人通りはいつもに比べてどうなのか、行き交う人はどんな仕事をしてどんな暮らしをしているのか。会話の内容もわからなければ自分を見て何を感じているのかもわからない。ただ、自分には何もわからなくても、その場はいつも通りに平常運転で過ぎ去っていく。自分にとってはそのわからなさと相対した時に、周りをわかろうとするセンサーが敏感になり、変化を感じ取ろうとする。

お米の出来具合がブレるからこそ、それを少しでも分かろうと、少しの変化にも気づくようになる。土鍋でお米を炊くことは、小さな変化を作ると同時に小さな変化に気付こうとする感覚の変化も同時に作り出すのかもしれない。加えて、コントロールできない部分があるからこそ、最適な配分を見つけ出し、うまく炊けた時に小さくても喜びを感じる。この小さな喜びは、ずっと家にいる生活ではとても大切なことなのかもしれない。

育てていた植物が大きくなること、葉が少し下がって水不足を知らせてくれることのように、日々の変化を作り出してくれるような道具のあり方はまだまだありそうだ。

001. Pepper Mill ｜ 景色を作る
002. Teapot Tray｜新しい居場所
003. Plant Pot｜用途の金継ぎ
004. Work Chair｜選択肢の幅
005. Hand Soap｜記憶の再生
006. Glasses Tray｜問いのない答え
▶︎007. Rice Cooker｜小さな変化