人前で泣くこと

自分は人前で、泣かないと思っていた
死にたい夜も、悔しくても、やるせなくても、ひとりで泣いた

手術がきまったときも
入院の手続きもひとりだった。

職場に報告して、休職の手続きをして、生命保険の資料を漁った。

恋人はずっとオンラインゲームをしていた。

職場では若いから大丈夫と気休めの言葉を受け取り、

母親は電話で、食生活のせいだと怒った。

手術には誰も来てくれなかった。
わたしはその日、本当にひとりだった。

手術のあと、痛くて、さみしくて、病室で一晩中泣き続けた。
通知のないスマホを握りしめて、何をして欲しいわけでもないのに見回りの看護師さんをひたすら待っていた。
枕元の灯りをつけたまま、ナースコールは握ったまま押せない。
どこが痛いのかも分からなかった。
彼女たちが来てもわたしは泣き続け、痛みを訴えた。

悲しくて、悲しかった。
けど生きていた。

夜が明けた。

この朝すべてが変わった。
わたしは人に弱さを見せることを覚えていた。

退院するまで看護師さんのまえでも、先生の前でもすぐに泣いた。

傷口が開いて救急外来に運ばれた日はずっと泣いていた。

痛がる私の横でゲームをし続ける恋人とは別れた。

同僚には、今とにかく悲しいと話した。

母親にはじめて、
「わたしの言ったことの全てに原因を探すのは何故?」
と問いただした。

24年間ことを荒立てるようなことは、何も言わなかった。
人に弱さを見せるなんて、許せなかった。

だけどそれは本当に弱いからだった。
言わないことで、みずからひとりになっていた。


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