「利益」はいかにして生まれるか

1.はじめに

 お金がなければ豊かになれない以上、利益に関心を持たない人間はいないであろう。実際、利益を獲得する術を説くものは多数ある。例えば、利益を増やす値づけの方法や、マーケティングや営業スキル向上など、多くの顧客を獲得する方法を紹介するものがある。しかし、これらは利益を所与のものとして扱っており、利益がどこから生まれるのか考察することは皆無である(※註1)。

 そもそも取引において「等価交換」が原則であれば、差額(利益)が生まれるのは不自然である。誰かが不当に利を得ているのであれば、すぐに見つかり、是正されるに違いない。

 では、なぜ利益は存在するのか。偶然生まれるものに過ぎないのか。計画的に利益を獲得したいと思うならば、利益がどうやって生まれるのかを知らなければならない。

 本稿では、利益がいかにして発生するのかを考察し、利益の源泉の類型化を試みる。

2.利益の源泉~どこから生まれるのか~

 先述のとおり、すべての取引が同じ価値のもの同士を交換するだけであれば、利益は発生しない。したがって利益があるということは、取引に何らかの「歪み」が生じていると考えられる。歪みとは、理想的な取引(等価交換)を阻害する全ての事象を指す。歪みは日常的に発生しているので、多少の利益を得ることは許容されるが、やはり本来得るべきものではないので、過度な利益を得ている場合、人々は憤慨する。また本質的に本来得るべきものではないので、人々は利益に対して悪いイメージを持つのであろう。

 ところで等価交換とはどういった状態を指し、どのような環境で成り立つのであろうか。

 まず等価交換とは、支払う側と受け取る側が同じ価値を持つものを交換することである。ここでいう価値とは、同一のコストがかけられたものである。コストとは機会費用、すなわち、何かを手に入れるために犠牲にするものすべてである。

 そこには原材料費などの直接的な費用だけでなく、人件費などの間接的な費用、あるいは別の仕事をしていれば得られた収入も考慮される。合理的な売り手は、自らが支払ったコストをすべて盛り込み、同じく合理的な買い手は、同じものを自らが生産した場合にかかるコストと比較する。

 等価交換が成り立つ環境は「理想的な」市場である。理想的とは、全ての人が合理的に考え、行動し、取引に一切の制限がない状態である。合理的であるとは、あらゆる情報を加味した上で損得勘定でのみ判断する状態であり、制限がないとは、合理的判断を自由に実行できる状態である。実際には、そのような状態であることは稀であり、取引においては何らかの歪みが生じるだろう(註2)。

 

3.利益の源泉の類型

 利益が市場の歪みから生じるものであるとすると、利益は、歪みを利用することで獲得することになる。では、歪みを利用する方法にはいかなるものがあるのか。大別すると歪みを「見つける」方法と「作り出す」方法がある。


(1)歪みを見つける

①裁定取引

 裁定取引は、何らかの理由で過小評価されているものを買ったり、逆に過大評価されているものを売ったりすることで利益を得る方法である。この代表例は短期売買を目的とする投資だ。但し、これを実行するには常に市場を監視し、市場の歪みを発見しなければならず、効率的な(すなわち情報が伝播しやすい)市場であるほど、速やかに歪みが是正されてしまう。またその分野に精通し、価値を適正に評価できる能力がなければ、歪みを利用するどころか、利用されてしまうだろう。


②リスクテイク

 誰かにリスクを負ってもらうためには、それに見合う金銭を支払わなければならない。逆にリスクを負う者は、自らが負うリスクに見合った料金を請求できる。その代表例が金融である。例えば銀行は、融資を希望する者を審査し、貸したお金が返ってこないリスクを評価し、それに見合った料金(金利)を徴求する。当然、リスクの高い相手には高い金利を求める。また保険会社は、被保険者へ保険金を支払うリスクを評価し、同じく料金(保険料)を徴求する。

他社より優れたリスク評価方法を持つ金融機関は、他社が怖がって貸せない先でも高い金利で融資でき、他社より先に危険を察知し、速やかに撤退できる。金融にとっては、リスクを評価する審査が経営の肝と言えよう。

 リスクテイクによる利益の獲得は、金融の専売特許ではなく、一般企業にも当てはまる。つまり他社が手を出そうとしない新規事業にかかるリスクを評価し、適切にコントロールしながら挑戦すれば、他社を出し抜くことが可能であろう。

(2)歪みを作り出す

 歪みを作り出すやり方は多種多様である。ここに挙げるもの以外にも存在するかもしれないが、できるだけ網羅的に検討したつもりである。またそれぞれのやり方は複数の組み合わせであることが多い。

①奪取

 次にあげる方法は必ずしも犯罪とは限らないが、度を超すと罪になるやり方である。利益を獲得することについて悪いイメージを持たれる理由は、大半が奪取による。奪取とは、力や頭脳、相手の隙を見て相手の資源を奪うことである。

㋐盗取

いわゆる泥棒である。

㋑脅迫

 暴力で相手を屈服させ、利益を強奪する方法である。脅迫ほど直接的とは限らないが、これに類するものは搾取である。マルクスは資本家による労働者の搾取を説いたが、労働者を不当に長時間労働させ、その分の賃金を「節約」することも搾取に該当する。

㋑詐欺

 情報の非対称性(註3)を利用して利益を獲得する方法である。嘘によって相手を騙して不当に利益を獲得する方法は詐欺罪に当たるが、そこまでではなくとも、顧客が持つ情報の少なさから、売り手の不利益になることをあえて言わない(あるいは誤解を生じさせる)方法であれば、大抵の商売人ならば心当たりがあるのではないだろうか。

②生産性の向上

 技術革新やアイデア、教育によって他者よりも少ないコストで、より多くを生産できれば、その差分は利益になる。機械を導入することは、人件費の削減につながる。創意工夫はコストの削減あるいは生産性を向上させるであろう。しかし、機械の導入やアイデアは、他に真似されてしまえば、あっという間に差が失われる。教育の成果は労働者に付属するので真似できるものではないが、人材移動の流動性が高まれば、差は埋まりやすくなるだろう。

③独占

 自分しか提供できないものを武器に利益を獲得する方法である。独占企業としてよく名前が挙がるコカ・コーラを買いたければ、コカ・コーラ社が作ったものを買うしかない。独占的企業は価格受容者ではなく価格設定者になれる。先述の技術革新についても、その会社しかやり方が分からなければ、唯一コスト削減ができる企業だから、独占的である。独占的であれば長期に渡って利益を獲得できるので、企業は多かれ少なかれ独占的であろうとする。

 独占的なやり方は、個性を活かすことで個人も使える。唯一無二の演技ができる俳優が引っ張りだこになるのは、そのためである。

4.まとめ

 利益を計画的に獲得したいのであれば、歪みはどこにあるのか(どのようにして生み出すのか)を問えばよいだろう。しかし、利益がないからといって、それは失敗した事業とは限らない。なぜなら、利益はなくとも事業は成り立つからである。つまり、収入があらゆるコストを賄っていれば、事業は継続できるのである。但し、余裕はないので、突発的な支出が発生した場合、事業が成り立たなくなるリスクはある。また一切の余剰金がない場合、未来のための投資ができない。投資ができる者とそうでない者では、将来的に大きな差が生まれるだろう。したがって、利益を獲得する理由は、自らの生活水準を高めるためではなく、いざというときの保険、将来のための投資に回すためではなかろうか。

1.利益の源泉を説いたのは、マルクスであった。彼は利益が発生する理由として労働者から時間を搾取することを挙げている。

2.まず、人は合理的に行動しない。それは合理的な判断をするには不十分な情報しか持たず(ある商品がこの世で一番安く売られているのがどこかすら知らない)、合理的に判断し、行動する能力を持たない(知力の不足や感情に基づく行動)ためである。また仮に合理的に行動できたとしても店までの距離や政府の規制などにより実行できない場合がある。

3.情報の非対称性:取引主体の間で保有する情報に格差があること



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