記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

「雨を告げる漂流団地」の感想(ネタバレあり)

石田祐康監督の前作の「ペンギン・ハイウェイ」がとても好きだったので、楽しみにしていた。劇場で観た後、家でもネットフリックスで観れるので感想が書きやすいな。

ビジュアルの強さ

まずこの海の上の団地が船の様に進んでいく絵面の強さに掴まれたし、石田監督が実際に団地に住んで研究したとインタビューで答えていたけど、それも納得の団地ディティールの数々も素晴らしい。
オープニングのかつての美しい記憶の中に入って団地の中を主人公二人が走っていくシーンからアニメ的なエモーションが溢れているし、これが誰の記憶なのかを後から振り返るとより切なさが増してくる。この冒頭だけでアニメーションとしてクオリティの高さを見せつけてくる感じ。

心霊ジュブナイル映画

心の時間が止まった人がその象徴である時間が止まった場所との別れを描く心霊ジュブナイル映画だった。引っ越しとか卒業等で大事な思い出を象徴する場所からの別れというのは誰にとっても普遍的だし感情移入しやすい題材だと思う。

ただ今作はラストで場所の方を天国に送り出すみたいな作りになっているのが、こういう心霊ドラマとして不思議な味わいがあって、その魂であるのっぽ君との別れのシーンは唯一無二な感動があったと思う。
大人になる成長の過程でその場所から離れたり捨てる様な作品がほとんどだと思うのだけど、敬意を持ってお別れをするというのが、とても優しい味わいで好きだった。

目的地のない事の映画的な弱さ

世界観の設定的な部分は「ペンギンハイウェイ」と同じくあえて説明しない様になっているのだけど、それにしたってかなり無理を感じる所が多かった。
明確にこうすれば事態が好転するというお話し的なゴールがないし、基本的に何かある度小学生たちが喧嘩しているシーンばかりなので観ながらストレスを感じる時間が長かった。

ラストの大見せ場の筈の観覧車から出したロープで団地を引っ張り出すシーンが絵面的に分かり辛過ぎて、みんな頑張ってはいるのに何がどうしたら正解なのかとても見にくい。
そして結局ラストはよく分からないスーパーパワーで切り抜けるご都合主義な感じになっていて、こういうシーン単位でもやっぱり何がどうなれば良いのかという目的地が分からないせいでアニメとしてクオリティが高いのにカタルシスがなくてもったいない気がした。

あの観覧車の電力はどうなっているのか(その古さで備蓄の電力あるのか?)、そもそも海に浮いてる理屈がよく分からないのに何故穴が空いたら沈むのか、等々、野暮と思いつつご都合主義を言い出したらキリがないのだけど、少年たちのひと夏の夢とか、魂だけが旅をしているみたいな設定っぽいしあまり深く考えない様に見ていた。
だけどラストの写真として残っているのが正直「え、明確に記録として残るの?」という気持ちになり、最後の最後に結構冷めてしまった。
個人的には本当にあったのか分からないくらいのバランスにした方が良かった気がするし、この余韻の悪さもあんまり好みじゃなかった。

そんな感じで正直全体的にはペンギンハイウェイ程は深い感動はなかったけど、夏休み映画としてアニメーションのクオリティはめちゃくちゃ高いので、劇場の大画面で観れて良かったと思う。

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?