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「僕の巡査」の感想(ネタバレあり)

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観ながら印象が変わっていく「三角関係」

作品の概要の「三角関係」の話であるというのだけ読んで観たのだけど、観始めてその「三角関係」の構図が最初予想していたものと、どんどん外れていくストーリーにとても引き込まれた。
冒頭の年老いた主人公達3人の関係性が、過去のパートの最初の三人の関係性から繋がらなくて「何故こうなったのか?」がミステリー的に引っかかりながら「彼女の彼への視線」から「彼から彼への視線」へと移り変わっていく物語運びがとても巧みで、観ているこちらの予想をどんどん超えてくる。

最終的に三人の行き着く結末が苦々しいけど、そこで初めて自分の人生のしたい選択を選び取れる小さな喜びもあるし、でもやっぱりそれが遅すぎてもう取り返しのつかないという重みもある、色んな感情が押し寄せながら切ない余韻を残していく幕の切れ方が見事だった。

マイケル・グランデージ監督

僕が観た同監督作「ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ」がかなり好きだったのだけど、改めて観ると結構似ている要素が多い印象。
「ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ」に関しては観た当時は作家と編集者が作品を残す事の喜びの部分や、書けなくなっていく苦しみとその苦い人生の終わり等の部分が記憶に深く刻まれた感じだったのだけど、今作を観てから改めて見直すとジュード・ロウとコリン・ファースとニコール・キッドマンが三角関係になって、それぞれの人生が狂い始めていく部分により注目してしまう。
こちらは同性愛という要素はないのだけど、ジュード・ロウは「父親」コリン・ファースは「息子」ニコール・キッドマンは自分の家庭で得られなかった「愛」等、自分の人生の喪失感をお互いがお互いで補い合おうとしている感じでそれが狂っていくのが観ていて辛い。
この自分の欲しいものを得ようとしたのに上手く生きられない人々の繊細なドラマ描写がかなり今作とも近いテイストではっきりマイケル・グランデージ監督の作家性の連なりを感じた。

その他前半でマリオンが行きたいと言っていたベネチアが非常に残酷な形で出てきて悲劇に向かっていく後半の展開や、2人で初めて見た美術館の波の画を対になる様なラストの窓から見える海の風景等、最初に何気なく出てきたものがラストにドーンと重く響く伏線回収とかも見事だと思うし、やっぱり人間ドラマの描き方が相変わらず上手い監督だなぁと思う。

あとセックス描写での登場人物同士の心の距離の描き分けが残酷に表現されているのも上手い。
トムとパトリック、彼らにとってのかけがえのない時間である事を表現している美しいセックス描写に対して、トムとマリオンのセックス描写の素っ気なさと短さで、トム自身が隠そうとしている本心が説明的じゃなくこちらに伝わってくる。

登場人物

役者陣はみんな良かった。
三人の若い時と、40年後の俳優さんが特殊メイクとかじゃなく完全に別の人が演じているのだけどそれが結構効果的に思える。
もう変わり果ててしまったというのがより際立つ感じがした。

トム役のハリー・スタイルズはこの50年代のイケメンの雰囲気に合っているし、上辺の顔と本心とが乖離している態度、特にマリオンの前での心が完全にここにない顔つきがすごく絶品だったと思う。

それに対してマリオンを演じたエマ・コリンも素晴らしくて、前半の少女の様な佇まいから後半のトムの態度にどんどん不満をため込んでいく顔がいつ爆発するのか?不安で目を離せなかった。
ベネチアからの写真を燃やすシーンの表情がバックに流れる音楽と合わさりとても不穏で思わずゾクッとする名演だった。

これまで他の映画であまり観た事が無かったけどパトリック役のデヴィッド・ドーソンの存在感も良かった。トムを見つめる繊細な表情の数々が印象に残る。

今回字幕がちゃんと劇中に流れる楽曲の歌詞を表示してくれるのだけど、その内容が後から振り返ると凄く効いてくる感じなので、この辺は日本版の字幕担当の人が良い仕事をしていると思った。

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