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「アメリカン・フィクション」の感想(ネタバレあり)

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今年のアカデミー賞に何部門かノミネートされていてとても気になっていたし、インテリ作家が本が売れないからいかにも悲劇的なベタベタな黒人物語を書いたらバカ売れしてしまうという、観る前から聞いていたおおまかなストーリーがもう面白い。

そんな感じでもっとブラックで笑える作品なのかなと思いきや、観始めると主人公の家族の問題とかがかなりリアルなディテールがあってあんまり笑えない。
急死してしまう姉、仲がめちゃくちゃ悪くて疎遠な兄、母親の介護問題などかなり地に足のついたファミリー映画として普通に引き込まれた。

その問題が切実だからこそ、主人公が悪ふざけと言いつつ、勢いでしっかり作品として「ベタな黒人の悲劇的な物語」を仕上げる過程がお話しの流れ的にも説得力があり、ただの軽薄なコメディ映画になっていないのが好感を持った。

その黒人的な物語を書いていく過程とか、世間での評価が予想外に高評価になっていく過程とかはもちろんコメディとして笑えるのだけど、黒人らしい物語が警官に殺される若者、貧しいけど頑張るシングルマザー的なもので、まあ僕らが最近散々アメリカ映画等で、娯楽として消費してきた訳なので、観ていて結構居心地が悪くもなってくるバランスで、引き笑いな感覚で観ていく感じ。

あと彼がその小説を書き上げていく演出がかなり面白かった。
小説を書いている彼の部屋のなかに実際にその登場人物がフッと現れ、登場人物達と相談しながら物語を書いていく感じが実際の映画とか舞台の稽古みたいでとても引き込まれる。
1人の作家の想像力が作品になっていく本来孤独な過程をこちらにも分かりやすく説明してくれる映画的な演出で素晴らしい。

そしてここのシーンがゲットーに生きる男が父親と再会し罵る様な場面なのだけど、主人公の亡くなった実の父親が実は浮気していたことに今さら気づいてショックを受けている心情と微妙にリンクしている気もする。
主人公はこの小説をブラックジョーク感覚で作り出したゴミだとはいうのだけど、やはり彼の中から生まれたものにもなっているのが何とも言えない気持ちになる。
最後に殺された登場人物が「この話に意味があるのか?」と、問いかけられる何とも言えない主人公の表情が味わい深い。

そして世間的に馬鹿ウケして、出版社やら映画化のオファー等がきて、いちいち声色を変えて電話インタビューとかを受けたりするのだけど、ここは本当にコメディ映画として笑った。

映画化の主演がお馴染みのマイケル・B・ジョーダンで、トゥーラグしてムキムキのタンクトップ姿が想像しやす過ぎて最高だった。
この映画化の会議があまりに酷過ぎて主人公がめちゃくちゃ投げやりになってタイトルを変えるのだけど、それすらも受け入れてしまう馬鹿さに最早引いてしまうが、ギリギリ現実と地続き感があるのが凄い。

終盤結構綺麗な終わり方だなぁと思っていたら、それが今まさに僕らが映画内で観ていたストーリーを映画にしている途中だと言う事が分かり、また冷や水を引っかけられる。
最終的にいかにもな黒人的な物語を否定する為に持ってきたはずが、黒人的な悲劇みたいな方向に無理矢理持っていかれるのが、救いが無くて呆れ笑いが止まらなくなる。

それでも主人公が最初いがみ合っていた兄の車に乗っていくラストシーンは彼の小さくない成長も見られてファミリードラマとして爽やかな最期だし、彼が最後に目で合図を送り合うハリウッドのいかにも黒人らしい黒人を演じる役者とのラストカットも主人公が人種とかじゃなく1人と人間として小さくエールを送り合ってみたいでグッとくる終わり方だったと思う。

ただアメリカはいかにも黒人的な黒人ばかりじゃ無いという事は示しつつも、やはりアメリカにおける黒人の立場の弱さとかも上品に提示している感じが作品として抜け目が無い気がする。

最初の方で電話をしながら「人種主義に興味は無い」と主人公が話し電話口の相手が「世間は違う」というやりとりをした瞬間に、主人公が止めようとしたタクシーが彼の前で止まらず、白人の前で止まるシーンが入るのだけど、ここら辺とかなんだかんだで世界の価値観は進んでいないのをほのかに匂わす様な嫌なシーンだった。

あと小説の品評会の審査員の終盤、主人公が書いた「fu◯k」が白人小説家は評価が高くて、黒人からすると中身が無いと言う構図になるのだけど、白人側の「これからはもっと黒人の声に耳を傾けないと」と言う発言に対しての黒人側の反応と画的分かりやすく見せる構図とか本当にブラックで最早笑えない。

主演のモンクを演じたジェフリー・ライトは名演だったと思う。
正直かなり性格に難ありな人で観ながら嫌いになってもしょうがないレベルなのだけど、ギリギリの愛嬌でチャーミングに演じ切っていた。
色々な事に板挟みになりながら不本意な事をしていかないといけなくて、めちゃくちゃ嫌そうなのだけどそれが本当にコミカルで上品なコメディバランス感が素晴らしい。

あと主人公の兄を演じたスターリング・K・ブラウンもとても良かった。ブラックパンサーでのキルモンガー父親役とかのイメージが強くて、そういうお堅い人の役も良いけど、今回の様なチャランポランな役も最高だった。
ある意味でずっと家族の呪いによって自分を抑えて生きてきたのであろうその反動でそうなった訳だけど、モンクとの関係性の変化で家族に希望を見い出していく展開が感動的だし、実は繊細さが垣間見える表情の変化が素晴らしい。

あと流れる音楽がいちいちおしゃれなジャズみたいなBGMなのだけど、それがなんだか映画内で起こっているブラックさをより引き立てていて皮肉な印象になっているのも良かった。

そんな感じでブラックで笑える作品でもあるのだけど、決して軽くないファミリー要素などがグッときたりして、優れたバランスの傑作になっていたと思う。

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