記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

「見えざる手のある風景」の感想(ネタバレあり)

Amazonプライム・ビデオ配信限定作品。

宇宙人に侵略された未来を舞台にしたディストピアSFなのだけど、設定がいちいちフレッシュで面白かった。

宇宙人が侵略しにきた所が描かれるのではなく、宇宙人の侵略はもう終わり地球が完全に植民地化された状態から映画は始まる。

主人公が絵を描く事が好きなのだけど、彼の幼い頃から描いた絵を写すことで段々普通の世界から何かが起こって日常が壊れていった事を示し、「何が起こったのだろうか?」と思いながら映画を観ていると、空の絵を描いている場面に変わって、でかい宇宙船がドーンと空に現れるシーンで「そういうことか、、、」と、世界に何があったのかを説明台詞なしで大まかに理解させる語り口が巧みだと思った。

この侵略している宇宙人の設定とかが良くて、まずデザイン性みたいなものがカニっぽいシルエットでナメクジっぽい見た目でサイズが小型犬くらいの絶妙に小さい感じで、やすりのような手をこすりながら会話したり、なかなか今まで見たことがない宇宙人ルックでそこがまず新鮮だった。
人間よりはるかに優れた文明を持っているのだけど、人間に対しても自分たちの種族同士に対してもあんまり共感能力はない感じですごく冷めた雰囲気。
この宇宙人が上流階級で一番上にいて彼らに媚びてチャンスを掴んだ人間が支配下の中でマシな待遇で暮らしていたりするのだけど、この階級社会の在り方みたいな部分は今の世の中の格差のメタファーになっている感じで見ていて味わい深かった。
宇宙人内で流行っている人間の営みを見ているリアリティショーのやらせに対するブラックユーモア的なあまりにきつい罰則とか、リアリティ番組とSNSとの関係とかも連想したし、結局全部人間臭い世界観にもなっているのが面白かった。

ただこの状況を変える為に革命を起こすみたいな展開が普通ありそうなものなのだけど、そういう展開は無く、あくまて自分では変えられない世界の中で主人公達が何を選択し生きていくのか?という部分を描いた小さなドラマがメインになっているのがまた面白かった。

そういう冗談みたいな現実の中で起こるいざこざや感じた事を絵にし続ける主人公が終盤宇宙人の心に響く芸術として大逆転を迎えるのだけど、それすらも踏み躙られる。

主人公のラストのこの選択によって彼等家族がどういう暮らしになっていくのか分からないけど、それでも描き続ける事を選んだ主人公のラストカットがとても感動的だった。

主人公の見た目のうっすら生える髭が激烈に似合っていないなぁと思って映画を観ていたけど、中盤にちゃんと茶化されるシーンがあって安心した。(?)

あと主人公アダムの家に転がり込むことになるヒロインであるクロエの存在感もすごく良かったと思う。
デートの様子を公開して宇宙人用リアリティー番組を作っていく様子とかなかなか面白くて、彼らがデートで映画を観てイチャイチャしている様子を更に外から観ている宇宙人の存在が観ていて結構気持ち悪いのだけど、それを更にサブスクで映画を観ているこちらとの立場とも近くて味わい深い描写だった。中盤あっさりと主人公との恋人関係は終わってしまうのだけど、そこからお話し的にフェイドアウトしていくのかと思いきや、ラストに恋人関係には戻らないかも知れないけど、お互いを認め合い、誰にも見られないかも知れないけどリアリティ恋愛とは全く違う共同作業の自己表現で終わっていくのが、美しい終わり方だった。
製作中という字幕にグッと来る。

途中の宇宙人が父親として同居するシーンも面白かった。
本物の父親も鉢合わせて、悍ましいものを見る様に寝室を覗いて出て行ってしまうのとかなかなか嫌な家族描写で好き。
でもアダムの母親の後半の反撃とかもなかなか良くて、凄く間抜けに見える宇宙人が言い負かされて段々気の毒に見えてきた。

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?