記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」の感想(ネタバレあり)

「マルチバース✖️カンフー」というキャッチコピーが印象的な予告を何度か映画館で見てたけど、実はめちゃくちゃシンプルに「家族愛」をテーマにした映画になっていた。
でもそういう普遍的なテーマを柱にして描いているので、映画内でどんなに奇抜な設定や演出がきても混乱しない作りになっていて、実はめちゃくちゃカオスな様で凄く巧みな語り口な作品だったと思う。

登場人物の精神と同じく、色んな場所に連れて行かれるのだけど、最後にしっかり家族のもとに帰ってくる、深く感動的なファミリー映画だった。

マルチバース描写

個人的にはこないだの「ドクターストレンジ・マルチバース・オブ・マッドネス」とかとマルチバースの使い方は近い気もした。
主人公がマルチバースによって自分が選べなかった人生の可能性を見つめる事で、改めて自分の選んだ人生と向き合う様な流れとか、色んなマルチバース世界をドラッグ的な映像で体感する描写があったりしたり、結構類似箇所も多いと思う。

ただ色んな作品の流れの中でシリーズ独特の要素が多いMCU作品と違い、たった2時間20分の中で全てを詰め込み完結しているのが今作は凄くて、こちらの方がよりマッドネス度は高い感じがする。
途中のマルチバース世界を短いカットの中で一気に見せるドラッグ映像描写とか本当どうかしていた。

ただ今作がそんなぶっ飛ぶ表現の数々を多用しながらギリギリ混乱しないのはめちゃくちゃ普遍的な「家族の物語」として全てが繋がっているからで、最後は色んなマルチバースでのお話が同時並行で語られるのだけど、全部芯にあるのは、「上手く家族関係が築けない描写」と「それでもなんとか理解し合いたい」という、誰にも共感できる切実な希望を描いているのが、ずっと胸に突き刺さってきて観ながら涙が止まらなかった。

全てが終わった後、自分の気持ちが変わった事で少しだけ人生が前向きに生きられる様になっていく様な余韻も素晴らしかった。

カンフーアクションシーン

ミシェル・ヨー主演という事でやっぱりアクションシーンもかなり見応えがあった。

初めてカンフーの達人のスキル使いだす所のそれまでの冴えなかった彼女がアクションによって開眼したのを示す様なカタルシスがあった。
ここでの敵であるジェイミー・リー・カーティスの技がパワー型のプロレスラーというのがまた良くて、華麗に力を捌いて最小限の攻撃で美しくダメージを与えていく感じが、「イップマン」シリーズみたいで観ていて気持ちよい。

その他キャラの濃い敵達が色んなスタイルで襲い掛かってくるアイデアなど、馬鹿馬鹿しいのだけどしっかりアクション映画という感じ。
尻にトロフィーをぶっ刺して二人がかりで襲ってくる所とかも(このトロフィーのくだりはあまりにひどくて最高な伏線回収)、お尻に目はいきつつもアクションはめちゃくちゃ一流だったりするので本当何考えているんだって感じ。
一番爆笑したジェニー・スレイトのワンコぶん回し殺法とか意味が分からないけど最高だった。CGで犬表現とかしないでどう見てもぬいぐるみにしか見えない様にしているのが、安上がりだしこれなら誰からも苦情は来なさそうだし、逆に頭が良い気もした。

そんな馬鹿馬鹿しいトーンの後だからこそ、ラストのカンフーアクションシーンはウェイモンドの「親切」を体現した様な一人一人に文字通り「愛」を武器にして戦うような殺陣がとても感動的。
別の世界では恋人でもあるジェイミー・リー・カーティスの足を使ってのピアノシーンに連なる足技とか振り返るとめちゃくちゃ無理矢理なんだけど、観ている間は何故かずっと泣いてしまっていた。

エヴリン

駆け落ち同然で家を出て父親との関係もぎこちなく、その親子関係を結局繰り返すように娘との関係性も上手くいかず、夫とも冷めきっていて、人生に疲れ切った彼女の表情が映画冒頭から見ていて辛い。

でもそんな色んな可能性を諦めてきたからこそ、全ての可能性を受け入れる事が出来る存在という設定がとても熱い。
全てが上手くいかず可能性が空っぽだから色んな可能性を詰め込めるという感じなのだけど、それでも他の人生のスキルを使う事でそこに至るまでの道のりやその過程で手に入れる事が出来なかったものに触れる事で、改めて自分の人生の肯定が出来る様になっていくラストが本当素晴らしい。

特に彼女が最初の方に「これが理想の自分だ」と思ったカンフーマスターから映画スターになった人生の自分も、ウェイモンドと一緒に居られなかった事に対して後悔があって、もう恋人には戻れない再会シーンでコインランドリーの生活を夢見るシーンはめちゃくちゃグッときた。(またこの世界の彼女が演じているミシェル・ヨーに近い存在なのがより深みを増している気がする)

どんな可能性にもそこには選ばなかった人生があって、だからこそ自分の選択を信じ人生を前に進めていくしかないと、観ているこちらの背中をも力強く押してくれる様なパワーがある本当に良い映画だと思う。

ウェイモンド

当初彼をジャッキー・チェンにして主役にするという予定だったみたいだけど(そのバージョンも正直観たいが)、今回の母娘の物語をメインに据えたバージョンの方がより今の時世にマッチした感じもしたし、その場合ジャッキーだとスター過ぎるので今回のキー・ホイ・クァンの控えめだけど味のある存在感がバッチリあっていたと思う。

後半の自分の生きてきた中で唯一彼が持っている「人に親切でいる」という武器をエブリンが受け取り、敵を愛しながら倒していく様なシーンに繋がっていくのがとてもエモーションがあった。
予告で何度も見た目玉シールは彼の親切心を象徴しているみたいだ。

演じたキー・ホイ・クァンといえば個人的には小学生の時に図書館の視聴覚ブースで観た「インディ・ジョーンズ魔宮の伝説」が初めて実写で面白過ぎて衝撃を受けた映画体験だったりするので、歳を重ねた今こんな面白い映画に出てくれているというのがとても感動してしまった。

ジョブ・トゥパキとジョイ

飄々としている悪役という登場の仕方でキャラクター的には「ジョーカー」とかを連想する様な雰囲気なのだけど、あらゆる可能性が同時に感じられるからこそ、どの可能性も大事に思えなくて全てに意味がなくなる絶望を抱えている事が分かってきて、彼女に対しても感情移入していってしまった。

そして彼女のその行き場のない絶望と孤独みたいなものと、自分の世界にいる娘であるジョイとの関係性とが段々とリンクしていく様な作りが、うまく説明できないのだけどとても巧み。

ジョイとエブリンの冒頭で険悪に終わった会話を、もう一度やり直すシーンで父親に娘の恋人を紹介する事が出来たのにジョイが出て行ってしまう所が、「彼女は恋人」と、言いたくて言えなかった言葉をただ伝えられただけで、全て上手くいく訳ではないのが単純じゃなくて良かった。
それでも追いかけて冒頭でジョイを完全に怒らせた「太りすぎよ」で引き留めて、言葉の本音の中にこれ以上ない位愛を込めて説得する所が本当に素晴らし過ぎてかなりボロボロ泣いてしまった。

そんな感じでアカデミー賞ノミネートとかで、騒がれているし「面白いんだろうなぁ」とは思って観たけど、予想をはるかに超える感動で本当に素晴らしかった。

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?