No.2 | 口尾麻美さん(料理研究家)の舞台裏
世界の国々を旅し、そこで出会った料理を研究し、本や雑誌、料理教室などで提案する『旅する料理研究家』口尾麻美さん。日本におけるタジン鍋ブームの火付け役でもあり、当社直営店では食と料理道具を結ぶイベントや出版記念会を一緒に企画してきました。
今回は、そんな口尾さんが暮らす、異国のバザールのようなワクワクする雰囲気のご自宅にお邪魔し、いろいろお話を伺ってきました。
― 料理研究家になったきっかけを教えてください。
「私はもともと全く料理とは関係のない、アパレルの販売員をやっていました。好きなことを仕事にするという意味では、仕事は楽しかったのですが、会社という組織の中で働くのにだんだんと 抵抗を感じるようになりました。
そんな自分の中の疑問を抱えつつ、最終的には店長まで経験した時点で次に進む決心がつきました。
その時の決意が、「もう誰の下でも働かない!」「手に職をつける!」でした。
― 「手に職をつけたい」と考えた時、なぜ料理の道を選ばれたんでしょうか?
料理が好きで、子供の頃からキッチンに立っていた経験や、当時、夢中になって見ていた料理本の世界に憧れがありました。
『料理研究家』という仕事があることを知ったのもこの頃です。
とにかく、「料理っていいな」「料理研究家になりたい」と漠然と思っていました。
当時は本格的に料理を学んだことがなかったのですが、(勢いもあって 笑)料理の世界に飛び込むことを次のステージに決めたのでした。
― ほぼ未経験にも関わらず、その決断をしたのはすごいですね。
料理の道に進むことしたものの、どうすれば料理研究家になれるのかはわからず‥。
でも、わかっていたのは、とりあえず、料理を学ぼうとういうことでした。
― どういった場所で料理を学ばれたんですか?
最初はイタリア料理のレストランでした。
飛び込みで雰囲気の良さそうなレストランを回ったのですが、「未経験」かつ「女性」ということで、給料は出せないと言われるばかりでした。
その中で唯一、給料を出してくれる店がその店でした。
その店は町場の小さなイタリアンでしたが、幸運にも働きはじめてすぐに前菜やドルチェの担当をすることになり、手の空いた時間には、先輩シェフの料理を学ぶことができたんです。
ただその反面、縦社会がまかり通る、料理業界特有の闇の部分が、単純に料理が好きだけではやっていけない現実。
というかすごく狭い世界に感じてレストランを辞めることにしました。
― その後は?
レストランで学んだスキルは、今でも自分の基礎となっています。
その経験をもとにもっと自由に働きたいという思いが強くなり、また新たな出会いがありました。
望んでいたようなおしゃれな店ではなかったのですが、店の料理を任せてもらえること、勤務時間が短いのに給料は 高い(笑)。
ということで働くことに。
厨房は私ひとりだったので、そこで働いた数年、何冊もの料理本をもとに 料理の研究しました。
また、それと同時にお昼の空いた時間にケータリングもはじめたのもこの頃でした。
ランチのケータリングは、「自分だったらこんなお弁当が食べたい!」をコンセプトに、毎日数各国(4〜5種類)の お弁当を作っていました。
その中にはクスクスのお弁当など当時、他では売ってなかったようなラインナップでした。
そんな料理づけの日々の中、だんだんケータリングの方の比重が増え、これ1本でやっていくことに。
そしてある頃から、お弁当食べてくれているお客さんから料理を教えて欲しいと言われ、料理教室を開くことに繋がっていきました。
― いつ頃からご自身を「料理研究家」と名乗るようになったんですか?
料理本を出版するのが夢だったのですが、そのきっかけが、当時、インテリアの取材を受ける機会が増え、それで知り合ったライターさんに相談したところ、家にあったタジンを見て、「これやりましょう!」という思ってもみなかった展開に。
無事に企画が通ってタジンの本を出すことになり、それを機にようやく料理研究家を名乗るようになりました。
成り行きではありましたけど、自分の進みたい道に導かれたな、と思いますね。
ハッピータジンライフ!―雑貨と旅と毎日のレシピ (グラフィック社/2009年9月発売) https://www.amazon.co.jp/dp/4766120639/ref=cm_sw_r_cp_api_glt_i_VH61VN6KN9D7BYVZCKWE
― 色々な国の料理を手掛けているかと思いますが、最も得意なのはどこの国の料理ですか?
得意というか好きなのは、野菜やスパイスをたくさん使うトルコ料理です。ここ最近だと、ウズベキスタンとかジョージアとかの料理を作ることが好きです!
― 研究家として、料理を作る時に大切にしているポイントやコツはありますか?
できるだけ現地の味をそのまま届けることです。
当然現地と日本では売っている材料は違いますけど、その中でいかに向こうで食べた味に近付けるかを意識して作っています。
再現するコツは、完全に勘ですね。感覚でやってます。
自分の記憶にある味と照合して、少しずつ組み立てていく感じでしょうか。
経験値として積み重ねていくうちに、だんだんと掴めるようになりました。
どこの国の料理も、ベースになる調理法や頻繁に使用する食材…例えばトルコだったらサルチャ(トマトペースト)、日本なら味噌みたいな。
そういった共通項みたいなのはどこの国にも必ずあるので、それをレシピに反映するようにしています。
これが結構重要で、しっかり覚えておかないと、なかなか納得のいく味にならないんですよね。
― …難しそうですね…。
各国料理を作っていると言うと、変わった料理を作ってると思われがちですが、自分の中では特に変わったものを作っているという感覚はありません。私が作っているのは基本的にその国の「家庭料理」なので、再現できないような難しいものは作っていないつもりです。
初めて食べたはずの料理が、なぜか懐かしいような味だと感じるものが家庭料理だと思っています。
使う食材は違えど、家庭料理ってどこの国にもあるものですよね。
私はただその家庭の味を再現しているだけなんです。
― すこし脱線しますが、旦那様のことについて教えてください。
夫は私に色々なきっかけをくれる人です。タジンを集めるきっかけもそうでした。
夫が海外出張で買ってきたお土産用の小さなタジンのかたちが気に入り、モロッコには同じ形の鍋があると聞いて興味を持ったのが、タジンを集めるきっかけでした。
実はトルコ料理を作りはじめたきっかけもそうでした。
夫が出張先のトルコで知り合ったトルコ人が私のために日本語で書かれたトルコ料理の本をプレゼントしてくれたのがはじまりです。
夫がいたからこそ繋がった縁は結構あります。
今ではすっかりタジンマニア。
― 普段これまでの人生を振り返ってみることはありますか?
普段はあまり振り返ることはありません。どちらかというと先のことを考えることの方が多いです。まだまだやりたいこともいろいろありますし、行きたい国もたくさんあります。
― 最後に、今のご時世なかなか難しいかと思いますが、やっぱり旅に出たいと思いますか?
こんな雑貨を買い付ける旅に行きたい。
もちろん行きたいです。でも旅に行けない世界でも、各国の味を料理で再現することは可能ですし、主宰する料理教室では、レシピを考えている時間やその国に合わせたテーブルコーディネイトをしている時は、毎回、旅気分でいっぱいになります。料理教室の参加者の方々にも「料理でいろいろな国を旅した気分になれる」と楽しまれているようです。
そういった意味ではこの一年、たくさんの国を旅してきました。人間の想像力はすごいと思います。
コロナが明けたら、今度はリアルな食のツアーを企画したいと思っています。考えるだけでも楽しくなってきます。
― ありがとうございました。
世界を旅して集めた、豊かな色彩の無国籍な食器や調理器具、民芸品が溢れかえる。「これは何?」「どこの国のもの?」と聞きたくなるものばかり。
口尾 麻美
料理研究家・フォトエッセイスト。
世界各国を旅して、訪れた国の家庭料理を学んだり、旅先で出会った料理のレシピを本、雑誌、料理教室などで提案。
著書に「旅するリトアニア」「トルコのパンと粉ものとスープ」などがある。
最新著書「まだ知らない 台湾ローカル 旅とレシピ」
(グラフィック社/2020.3月刊)
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