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『年下男子のルイくんはわたしのことが好きすぎる!』の短編!

今さらですが、エイプリルフールネタの短編です。

ちなみに『年下男子のルイくん〜』ってなに?
という前情報なしにこのページにいらした方がいた時のために、ざっと作品紹介をさせていただきます。

『年下男子のルイくんはわたしのことが好きすぎる!』
こちらは集英社みらい文庫さまより発売中の、児童文庫です。
現在は第2弾まで発売しているシリーズもので、その2巻は先月(3月22日)に発売いたしました!

集英社みらい文庫HP内で公開している特集ページのリンクをこちらに、貼っておきますね◎
あらすじと試し読みがそこからできます!


⭐️第1弾⭐️
『年下男子のルイくんはわたしのことが好きすぎる! 〜小さな王子サマと波乱の再会⁉︎〜』⬇️

⭐️第2弾⭐️
『年下男子のルイくんはわたしのことが好きすぎる! 〜誘惑だらけ⁉︎ 小さな王子サマとのお勉強会〜』⬇️


第1弾が発売の際には、作品紹介動画を作っていただきました。
主人公の声とナレーションにはなんと、超人気声優の”石見舞菜香”さんが‼︎
(有名なのでいえば、アニメ「推しの子」で黒川あかねちゃん役などなど)

イラストレーターの間明田さまと、石見さんのコラボ動画はめちゃくちゃ可愛いので、未視聴の方は下から是非ぜひ❗️
視聴済みの方はあと2回ほど下から是非ぜひ❗️❗️🔻


ルイくんシリーズは、6年前に父親の転勤でフランスに行ってしまった年下の男の子ーー琉生《ルイ》が、突然帰国し、主人公ーー結衣《ゆい》に猛アタックをするという、タイトルそのままなお話です(笑)

ただ、今回のこの短編にもつながりますが、ルイくんはフランス生活が長いので異国文化をちょくちょくはさんできます。
それが主人公を悩ませるのですが……(それは本編でお確かめくださいませ😉)4月1日のエイプリルフールの日にも、ゆいを悩ませます。

……本当は、エイプリルフールの日までに短編を書き上げてアップしたかったんですけど、間に合いませんでした💦
大遅刻の上でのアップですが、まだ4月なので許してくださいませ!
桜も散り散りな季節ですが、まだ桜が咲き始めた頃を思い出して、ぜひ楽しんでもらえたらと思います☺️

前置きが長いので、そろそろ短編に……と思いつつ、最後に一つだけ。
エイプリルフールの発祥は様々ですが、フランスが発祥の地だという話もあります。
さらにそのフランスでは、私たち日本人が知るエイプリルフールとは少し違っているので、そういう文化を知る参考になればと思い、書きました◎

本編のストーリーとは少し違うシーズンでもありますが、そこは気にせず、楽しんでもらえれば嬉しいです。
それでは、どうぞ!!




【Poisson d'avril《ポワッソン ダヴリル》】

 
 部屋から出て、リビングに降りてきたタイミングで、軽く背中をポンとたたかれた。
 
「ユイちゃんおはよう!」
 
 ふり向いてみるとそこには、いつものようにわたしの家でわたしが起きてくるのを待っていた、ルイの姿があったんだ。
 わたしーー樫木 結衣《かしき ゆい》。翡翠《ひすい》学園の中学1年生。
 ルイっていうのはね、わたしの家の隣に住んでる1つ年下の男の子、風間 琉生《かざま るい》くん。
 ルイは6年前に、家族の都合でフランスに引っ越しちゃってたんだけど、最近になって日本に戻ってきたの。
 
「ユイちゃん、早く本屋さんに行こうよ」
 
 今日はね、めずらしく部活がないんだ。
 わたしはバレー部に所属してるから、休みの日はたいてい半日は部活があるんだけどね、今日は一日休みなの。
 せっかくだから欲しかった本を買いに行こうと思うって話をママとしてたらね、それを聞いてたルイが「ぼくも行く!」なんて言って、ついてくることになったんだ。
 
「う、うん、待って。すぐに行くから」
 
 わたしをむかえに来たルイに続いて、玄関に向かうと……。
 
「あらユイ、背中になにかついてるわね?」
 
 背後からやって来たママが、そう言いながらわたしの背中を指さした。
 
「あっ! シー‼︎」
 
 隣に立つルイが、ママに向かって必死に指を口元に当てて、ナイショってポーズを取ってる。
 その様子を見たママは、口を片手でおさえた後、うふふって笑った。
 
「背中に何がついてるの?」
 
 わたしは自力で背中に顔を向けて、手で探ってみる。
 ルイは「なにもないよっ」って言ってあわててるけど、その間にわたしの手がそのなにかに触れた。
 
「んん?」
 
 ベリッと音を立てて、手に触れたものを一気にはがすとーー。
 
「魚? ……って、ルイ!」
 
 画用紙にえんぴつで書かれた魚。
 それをハサミでお魚の形に切って、わたしの背中に丸めたテープではられてたみたい。
 でも問題はそこじゃなくって、その魚の背中にはね【ユイちゃんのことが大好き! な、ルイ魚】なんて文字が書かれてる!
 
「あーあ、バレちゃった」
 
 頭に手を当ててペロッと舌を出したルイはーー確信犯だ!
 
「ルーイー!」
「ごめんね、ユイちゃん。でも今日は4月1日だから怒らないで」
 
 ルイはいつものようにあどけない笑顔を向けながら、謝ってる。
 
「そ、その、4月1日なのとこのイタズラと、どういう関係があるの?」
 
 ルイに言われて思い出したけど、4月1日といえば、エイプリルフール。
 世間では、冗談で済むような可愛らしいウソならついても良い日、って言われてるけど……それとこの魚のイタズラと、どういうつながりがあるの?
 そう思ってたら、ママが「そういえば」なんて言いながら、手をほほにつきながら視線を上に向けた。
 
「フランスではエイプリルフールは、魚を背中にはるイタズラをするんだってルイくんのママが言ってたわね」
「えっ? そうなの?」
 
 ママからルイへと視線を戻すと、ルイはわたしの問いかけにうなずいたんだ。
 
「うん、そうなんだ。フランスでは今日のことをね、『Poisson d'avril《ポワッソン ダヴリル》』って言うんだ」
「ぼわっそん だぶりん?」
 
 わたしがカタコトでそう言うと、ルイはかわいらしくほほをゆるめて笑った。
 
「うん。4月の魚って意味だよ」
「ええっ? なんで、魚?」
 
 エイプリルフールに魚が関わってるなんて話、日本じゃ聞いたことない……よね?
 
「うーん、なんか色んな説があるんだよね」
 
 ルイは腕を組みながら、首をかしげちゃった。
 
「そもそも、この魚っていうのが“サバ”だっていう人がいてね、サバは4月になるとたくさん取れて、食べられちゃうような単純な魚だから、4月1日にダマされるような人のことを、4月の魚と呼んだり……」
 
 ルイは一生けんめい記憶をさかのぼるように、眉《まゆ》と眉の間にシワをよせながら、さらにこう言った。
 
「4月になると、太陽が【3月の魚座】からはなれるから、【4月の魚=ウソ】って言われてたり……他の理由もあるけど、とにかくこの時期になると、フランスでは魚をモチーフにしたパイとかお菓子が街中に現れるんだ」
 
 ……へぇ、知らなかったな。
 そもそもフランスではエイプリルフールにそんなことをするなんて、思ってなかった。
 
「エイプリルフールに関してもなんでイタズラをするのかとか、色んな説があるんだけど、とにかくフランスでは、こうやって背中に魚の絵をこっそり貼《は》るんだよ」
 
 わたしの背中に貼られてた魚の絵を手に取ったルイは、それを自分のウデにぺたりとつけてみせた。
 
「これに文字を書いたのは、ぼくのオリジナルアイデアだけどね」
「……‼︎」
 
 そうだ、このイベントが実際にフランスであるのかどうかの話より、ルイの書いた【ユイちゃんのことが大好き! な、ルイ魚】っていう言葉に問題があるんだ!
 こんなのを貼った状態で街中を歩いてたら、周りの人からなんて思われるかわかったもんじゃないよね……⁉︎
 
「ルッ、ルイ、ぽわっそ……なんとかっていうのはわかったけど、イタズラでそういうことを書くのはやめてね」
「えっ? じゃあ、イタズラで書かなかったら良かった? あっ、そうだよね。ぼくがユイちゃんを好きなのは冗談なんかじゃないし、次からはエイプリルフールじゃない日に書いて、貼っておくね♡」
 
 ルイは悪びれる様子もなく、ニッコリと笑顔を見せた。
 それを見たわたしは、魚のように口をパクパクさせて、何も言えなくなっちゃった……!
 ルイとはどう話しても、いつもわたしの思ってる通りの方向に進まないよ〜!
 これ以上ルイのペースに飲まれる前に、さっさとお買い物をすませちゃおう。
 そう思って、わたしとルイは本屋さんに向かったんだ。
 
 この後すぐにね、出かけることを選択して良かったなって思える出来事が起きたの。
 それはねーー。
 
「あっ、樫木さんじゃん」
 
 この声、この感じは……!
 
「あっ、秋月先輩‼︎」
 
 いつものように、ニカッとさわやかに笑ってくれたこの人は、わたしと同じ、翡翠学園中等部の男子バレー部3年生。
 さらに男子バレー部のキャブテンでもある、秋月昴星《あきづきこうせい》先輩。
 わたしがまだ初等部6年生だったころ、親友のまどかにさそわれて見学に行った、中等部のバレー部。
 そこで、すごくキレイで力強いスパイクを決めた先輩の姿に魅《み》せられて、わたしもバレー部に入部したんだ。
 
 ……それにね、あれから秋月先輩は、わたしの好きな人でもあるんだ。
 だからこうして、学校や部活のない日にまで先輩に会えるなんて、すっごくうれしい!
 思わず熱がこもるほほを隠そうと、両手を顔に当てているとーー。
 先輩の声に反応したルイが、慌ててわたしの前に立ちふさがったんだ。
 ガルルルッと今にもかみつきそうな狂犬《きょうけん》みたいな表情を見せながら。
 
「よう。ルイも元気してたか?」
 
 なんて言いながら先輩はルイの頭をなでようと手を伸ばす。
 だけど先輩の手をふり払ったルイは、代わりにこう言ったんだ。
 
「……なんで昴星ここにいるんだよ」
「なんでって、本を買いに来たんだけど、いちゃ悪いのか?」
 
 先輩の手には、今買ったばかりの本がにぎられてる。
 
「悪い!」
 
 ルイがはっきりそういうから、わたしは思わず「ルイー!」って怒鳴っちゃった!
 
「だって、前もぼくとユイちゃんのデートしてる時に現れたでしょ! おかしくない? いつもぼくたちのデートのジャマしてくるんだから」
「デデデ、デートなんて一度もしたことないでしょ⁉︎」
「あるよ! 今だってそうだし、前はユイちゃんのバレーシューズ買いに一緒にデートしたの、忘れちゃったの⁉︎」
 
 バレーシューズを買いに行ったことは、確かにあるけど……でもあれはルイが勝手についてきちゃっただけで、デートなんかじゃないよっ!
 
「あの時も、今日だって、デートじゃないから!
 
 わたしが否定すると、ルイは口元をプクーッとふくらませるんだ。
 まるでお魚のフグみたいな顔を見せるルイを見て、先輩が笑った。
 
「ははっ、ルイにとってはそれもデートだよな」
「せっ、先輩まで……」
 
 ルイがひどいことを言っても、先輩は優しい。
 先輩には歳の離れた弟くんがいるから、ルイに対しても同じように思ってるからなのかもしれないけど……その肯定《こうてい》の言葉は、さすがにへこんでしまいます……!
 そう思って思わずうつむいちゃうと、背の高い先輩が少しかがんで、わたしの顔をのぞき込んだんだ。

「……でも、樫木さんとデートできるなんて、ルイは役得《やくとく》だな」
 
 そう言って、先輩は目を細めて、ニカッて笑った。
 至近《しきん》距離で見る先輩の笑顔と、その言葉にーーわたしの顔はいっしゅんで沸騰《ふっとう》したように真っ赤になってしまう。
 
 
「ーーいでっ‼︎」
 
 
 先輩の声におどろいて、遠いところに飛ばしてた意識が、いっしゅんで戻ってきた。
 すると、顔をしかめた先輩と、そんな先輩の背中を思いっきりたたいた後のルイの姿が目に入ったんだ。
 
「ルッ、ルイ! 先輩をたたくなんて、ダメでしょ‼︎」
「たたいたんじゃないよ。昴星の背中に蚊《か》が止まってたから、しとめといただけだから。ほら、かまれちゃったらかゆくて大変でしょ?」
 
 なんてことを、純粋無垢《じゅんすいむく》な瞳で言ってる。
 これはわたしの長年のカンだけどーー絶対ウソだ!
 
「でもごめん、昴星。仕留めそこねちゃったみたい」
 
 ルイはコツンとこぶしを頭に当てて、ペロッと舌を出した。
 
「ルーイーーー?」
「本当だってば! それよりユイちゃん、早く買う本を探して帰ろうよ! ママさんがきっとお昼ごはんを用意して、待ってるよ!」
 
 グイグイとわたしの腕を引っぱって、わたしが買おうと思ってた参考書が置いてあるたなへと向かわせる。
 
「ああ、あの、先輩。じゃあわたしたちはここで、失礼しますっ!」
 
 本当はもう少し先輩と一緒にいたいんだけど、これ以上いたらルイがなにをしでかすか、わからないもんね。
 うしろ髪を引かれる気持ちで、しぶしぶルイに引っ張られて歩き出すとーー。
 
「あれ? 魚……?」
「えっ⁉︎」
 
 先輩のその言葉に、わたしは条件反射で、自分の背中に手をまわす。
 またルイってば、あの魚の絵をわたしの背中につけたんじゃ……! って思ったけど、ついてない。
 
「ああ、これのこと? 気にしないで」
 
 そう言ってルイはウデにつけていた魚の絵、さっきわたしの背中についていたものをベリッと腕からはがして、再び先輩に背を向けてわたしの腕を引っぱっていく。
 ……あっ、あれ? 確かにさっき、ウデにつけてたけど……本屋さんに入る前に、はがしてたよね?
 なんて自分の記憶をさかのぼりつつ、もう一度先輩に視線を向ける。
 すると先輩は頭をかきながら不思議そうな顔で、ルイを見つめて……。
 
「いや……あー、まぁ、ルイがそう言うんなら……?」
 
 なんてあいまいな返事をした後、わたしたちに背を向けて歩き出した。
 ――そんなタイミングだった。
 
「わぁっ、ルイ! あの、せっーー!」
 
 慌てて先輩に声をかけようとするけど。
 
「本屋さんで大きな声を出したら、他の人にメイワクがかかっちゃうよ?」
 
 なんて言って、ルイがさっきよりも強く、わたしのウデを引っぱっていくんだ。
 確かに騒ぎすぎたせいか、スタッフの方や他のお客さんの視線がこっちに向いていて、これ以上大きな声は出せないかもっ⁉︎
 でっ、でもー―! 先輩の背中にも、魚の絵が‼️
 
「ルイッ! 先輩の背中に魚つけたの、ルイでしょ!」
 
 わたしはコソコソと話すボリュームでそう言いながら、空いた片手で先輩の背中を指さした。
 ルイの手書きの魚の絵。そこには【マヌケ!】と書かれた文字付きだ!
 さっき先輩の背中をたたいた時につけたに違いない。
 でも一体、いつの間にあんな紙を用意したの……⁉︎
 って、問題はそこでもない! 早く背中のことを先輩に伝えなきゃ!
 ……そう思うのに、ルイってば意外と力強い! 全然ウデを離してくれない〜!
 
「大丈夫だよ、ユイちゃん。今日はエイプリルフールだし。魚の絵がついてるのなんて普通だよ」
「そ、それはフランスでの話でしょっ!」
 
 というか、魚の絵よりもあの言葉がよくないよっ!
 
「ユイちゃんがそんなに言うんだったら……ぼくだって魚ついてるんだけどな」
 
 なぜか不満げな顔をして、ルイはわたしに背中を見せた。
 するとそこにはまた違うルイの手書きの魚の絵。
 その魚の背には【ルイのことが本当は大好きな、ユイ魚】なんて文字が‼︎
 

 きゃー!!!!!

 
「ルッ、ルイ! これは自分でつけたんでしょ⁉︎」
「違うよ、朝起きたらついてたんだよ」
「そ、そんなわけないでしょ⁉︎ だってルイ以外、こんなフランスの文化を知ってる人も、こんな言葉を書く人も、ルイ以外にいないんだからっ」
「えー、ユイちゃんだってもうフランスのエイプリルフールについては知ってるでしょ? だったら……ユイちゃん?」
 
 ルイはほほをピンク色にそめながら、キラキラとした瞳でわたしを見上げてる。
 
「わっ、わたしじゃないよ! そんなわけないでしょっ‼︎」
 
 ルイは、ちぇって言いながら、おどけたように舌を出したんだ。
 この態度を見て、さっきまで90パーセントの確率で疑ってたけど、100パーセントになった。
 やっぱり犯人は、ルイだった!
 わたしはルイの背中につけてあった魚の絵をはぎ取り、ポケットにしまう。
 またルイがいつ、自分自身ではりつけちゃうかわからないから。
 先輩のも……って思ったけど、あたりを見回してみても、先輩の姿はもうなかった。
 ううっ、先輩、すみません〜……。
 そう思ってため息をつきそうになってるとーー。
 
「そんなに否定するなんて……ユイちゃん、ユイちゃんはぼくのこと好きじゃないんだ?
 
 さっきまで小憎たらしくおどけてたルイが、今度はしょんぼりと肩を落としてる。
 
「好きじゃないっていうか……」
「じゃあ好き?」
「そっ、それは……」
 
 まるで捨てられた子犬のように、瞳をうるうるとうるませながら、わたしを見上げるルイはーーズルい。
 幼いころのルイを思い出す、この表情と態度に、わたしはすっごく弱いんだ。
 
「……か、家族としてなら、好きだよ」
 
 ルイは弟みたいなもので、6年離れてたとしても、それは変わらない。
 ルイも、ルイの家族も、わたしは昔から大好きだ。
 だけど……。
 
「恋人としての好きじゃ、ないんだね……」
 
 あからさまにシュンとしてうつむいちゃったルイに、わたしはなんて声をかけたらいいのか、わからない。
 どうにかして話題を変えようと口を開いたそのタイミングで、ルイが先にこう言ったんだ。
 
「じゃあぼくのこと、恋人として好きだって言って?」
「えええっ⁉︎」
 
 なっ、なんで⁉︎ 今の話、聞いてたよね⁉︎⁉︎
 なんでそんな話になるの‼︎
 
「だってそうでしょ? 今日はエイプリルフールだから、ウソをつく日だよ。ユイちゃんがぼくのことを恋人として好きじゃないって言うんだったらーー言えるよね?」
 
 えーーーー‼︎‼︎
 
「言えないの? だったらやっぱりユイちゃんは、ぼくのこと恋人としても好きってこと?」
 
 ルイってばさっきまでしょんぼりしてたのに、今では満面の笑みをわたしに向けてる!
 
「ちっ、違うよ!」
「だったら言ってみてよ」
 
 そっ、それは……!
 
「ダダッ、ダメだよ!」
「なんで? 本当はユイちゃんもぼくと同じ気持ちだから、言えないの?」
 
 ルイは青空みたいな瞳をキラキラとかがやかせて、わたしを見つめてる。
 
「そうじゃなくて……」
 
 ウソだとしても、そんなこと言うのははずかしい‼︎
 さっき先輩と話してた時以上に、わたしは顔が赤くなっていくのを感じる。
 
「そもそも、エイプリルフールだからってウソをつかないといけないわけじゃないでしょ?」
 
 だからわたしは言わない。
 そう思ってわたしはルイをその場に残して、先に歩き出したんだ。
 ここは話をごまかすためにも、さっさと本を買って帰ろう!
 そう、思って。

 するとね、思いがけない言葉が、わたしの背後から聞こえてきたんだ。



「――ぼくはユイちゃんのことなんて、好きじゃないよ」


 
 ………………えっ?

 思わずピタリと足が止まっちゃう。
 決して大きくないルイのその声は、まるでナイフみたいにわたしの心臓をひと突きにしたんだ。
 
「ル、ルイ……?」
 
 ゆっくりと振り返ってみると、ルイは眉間にしわを寄せて、こぶしをギュッと握りしめて、視線を地面に向けていた。
 その悲痛そうな表情が、さらにわたしの胸をえぐる。
 
「ほっ、本気、なの?」
 
 舌がもつれちゃって、うまく動かない。

「本気……」

 はき出したわたしの言葉を受けて、ルイはパッと顔を上げた。
 
 
「……なわけ、ないでしょ?」
 
 
 ルイは驚いたように、目をまんまるに見開いた。

 …………ええっ?
 
「エイプリルフールだから、ウソを言っただけだよ?」
 
 コテンと首をたおして、ルイは不思議そうな顔をしながらわたしの隣にかけ寄ってきた。
 ルイの言葉と、その表情を見て、わたしは思わず足元からくずれそうになっちゃった……。

 びっ、びっくりした……!
 ルイが本当に、わたしを嫌いになっちゃったのかと思って、ドキドキしちゃった!
 
「でも、やっぱり嫌だな」
「なっ、なにがっ⁉︎」
 
 さっきのドキドキした気持ちがおさまらないわたしは、思わずルイの言葉にかぶさるようにそう聞いたんだ。
 するとね、ルイはまた眉間にしわを寄せてこう言ったんだ。
 
「ウソでもユイちゃんを“好きじゃない”って言うなんてさ……胸がつぶれそうなほど、嫌だったから」
 
 そう言ってルイは、わたしの手をつかんだ。
 
ごめんねユイちゃん。無理やりウソなんてつかせようとして」
 
 ルイは言いながら、申し訳なさそうに頭を下げてくれた。
 
「やっぱりユイちゃんには、どんなことでもウソはついてほしくないなぁ
 
 どこを見るわけでもなく、ルイの視線は店内に向けられた。
 その横顔を見ていると、なんだかわたしは不思議な気持ちがわいてくる。
 さっきドキドキとした気持ちとも違う。
 弟だと思ってルイと接してる時とも違う。
 ルイがフランスで過ごした、6年間の空白。
 そんなものを感じて、わたしはソワソワと落ち着かない。
 
「だからユイちゃん、さっきぼくがしたこと、許してくれる?」
 
 再びわたしに向けられた視線には、いつものあどけないルイの表情。
 わたしはなんとなく、その表情にホッと胸をなでおろしちゃう。
 ……よかった。わたしの知ってる、いつものルイだ。
 
「うん、いいよ」
 
 わたしがそう言うと、ルイは「ありがとう」と言って、つかんでたわたしの手を引っぱった。
 そのせいでわたしが、前かがみになった瞬間ーー。
 

 ――ちゅっ ちゅっ


 
 わたしの両ほほに、キスをしたんだ。
 
「ルルルル、ルイーーーー‼︎」
「ユイちゃん、ここ、店内だよ」
 
 その言葉にハッとして、わたしは両手で口をおおいながら、あたりを見回しちゃう。
 するとルイは参考書の棚を目指して歩き出したんだ。
 いつもみたいに、ペロッと舌を出して、おどけてみせながら。
 
 ……両ほほにキスをするのは、フランス式のあいさつ
 そうだとわかってるけど、やっぱりわたしは慣れない。
 
「……ルイ、次また同じことしたら、さっき許してあげるって言った言葉を撤回《てっかい》するからね」
 
 わたしがルイの隣に追いついてそう言うと、ルイは真っ青な顔で口をパクパクとさせた。
 
ごっ、ごめんなさい! もうユイちゃんの許しなしにしないから、だから怒らないで!」
 
 ルイが必死になってお願いしてくるけど、わたしはルイの声が聞こえないフリをして、参考書を探すんだ。
 ……わたしはルイのお姉ちゃん的な存在だから。
 でも結局、ルイの悲しそうな顔を見てられなくて、許しちゃうんだけど。
 ルイの行動には困ってばかりだし、キスのあいさつはされたらはずかしいからやめてほしい。

 それでも、わたしだって本気で怒ってるわけじゃないんだ。
 怒ってるフリをしないと、きっとルイはまたしようとするから。
 ウソはつかないけど、これくらいのウソの態度は、いいよね?
 だって、今日はエイプリルフールだから。

 そう思ってわたしは、 落ち込んだ顔をして後ろからついてくるルイに、こっそり笑顔を向けたんだーー。
 
 
 


【E N D】



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