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寝癖が同じ場所についていた。
私と同じ場所についていた。それが仲良くなったきっかけだった。
同じですねってはにかんでいた笑顔が素敵だと思ったのが咲き始めた梅の花の鮮やかなピンク色くらい甘い記憶だったのに、今は濃すぎてただ私を胸焼けさせた。
だるい体を起こして携帯を見る。8時。
昨日見たはずのストーリーをわざわざスクロールして見返す。ベージュの服を着た知らない女。傷つくのにどうして何度も見るのか、進化論を説いたダーウィンはここまで解明しておくべきだったとつくづく思う。
ため息をつきながらベッドを出る。顔を洗おうと洗面台に行くと、あの日と同じ場所に寝癖がついていた。未練がましい私の気持ちを表しているようで、はさみで切ってしまおうかと思った。いつまでも囚われている自分が許せなかった。

街の図書館に行くと、制服を着た男女が勉強していた。ちょっと静かにしてよ(笑)と、ひそひそ声で笑いをこらえている様がなんだか淡い光に包まれた夢のような光景に見えて、思わず凝視してしまった。
この男女が卒業後もカップルでいる確率なんて低いだろうし、ましてや一週間後には別れているかもしれない。気持ちは普通に生きていても移りゆくもので、なかでも環境が変われば大きく変わる。若いうちは特にそうだ。
新しい恋をすれば、彼のことを考える時間は減り、やがて青春時代の綺麗な思い出のページの中へと刷り込まれていくのであろう。はたまた時間が解決してくれるのであろう。21年も生きていれば、こんなことはわかりきっている。
それでも何度もストーリーを見ては、心臓がギュッとなる感覚を味わって、いつになったら忘れられるのだろうか、もしくは忘れられなかったらどうしようかという恐怖に怯えている自分がえらく滑稽に思える。

友達と飲んで元カレの悪口大会をすることもある。悪口というのは最高の酒のつまみなのだ。
しかしここで饒舌に話す愚痴など、付き合っていた当時は全く気に留めなかったもので、むしろかわいいとすら思っていた彼のわがままな部分を、何とか拾い集めては批判として放出する作業でしかなく、結局彼のことを何一つ嫌いになれていないことを、友達と別れた後に急激に襲う虚無感によって知らされる。

春の陽気が気持ちいい。夜はちょっと肌寒いけど、昼間は20度くらいまで上がるようになった。
ふと、ショーウインドウに映った自分を見てみた。黒染めしたのに色が抜けた茶髪と、RANDAの水色パンプス、花柄スカートに白のブラウス、トレンチコートを着た自分を見て、いつの間にか大人になってしまったなと実感した。
2個下の彼はまだ大学生活の真っただ中で、これからもたくさんの女の子と遊ぶだろう。そしてとっくに自分は彼の思い出のページに刷り込まれてしまったのだろう。そのことがまた、私の心を刺激した。
何年後かに彼がそのページを見返したとして、やっぱり素敵な人だったなと思われたい。
そのような想像をする自分があまりにも哀れで、この春の淡さと混ざりあって、消えてしまいたいと思った。


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