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短編脚本『鳩の恩返し』

長閑な昼下がり。公園のベンチ。のんびりと、みち と そら が他愛もない会話をしている様子。

みち 「昔な。」
そら 「うん?」
みち 「いや、思い出してんけどな。」
そら 「うん。」
みち 「鳩広場ってあったやん。」
そら 「このへん?」
みち 「うん、あの、駅前の西側のスーパーんとこ。」
そら 「あー、いつ頃まであった?」
みち 「えっとな、小6かな。うん、小6やわ。」
そら 「ほな知らんわ。こっち来たんちょうど中学からやし。」
みち 「え、そうなん?何中?」
そら 「東。」
みち 「うち西。」
そら 「うん、で、なんなん?」
みち 「ああ、うん、いや、ふとな。」
そら 「うん。」
みち 「あそこな、鳩がすごかってん。」
そら 「ああ、うん、せやから鳩広場?」
みち 「うん。【鳩にエサをあげないでください広場】」
そら 「うん?」
みち 「【鳩にエサをあげないでください】っていっぱい書いてあってん。」
そら 「そうなんや。」
みち 「ほんまの名前はナントカ駅前広場とかなんとか。のはず。」
そら 「ああ、通称、てやつか。」
みち 「通称の略称で鳩広場。」
そら 「ややこしいな。」
みち 「呼びやすくなってるやろ。」
そら 「そらまあ。」
みち 「もともと鳩の糞公害のせいで書いてあってんけどな。」
そら 「鳩にエサをあげないでください?」
みち 「鳩にエサをあげないでください。」
そら 「うん、うん。」
みち 「でもこっそりあげるやんか。」
そら 「あげてたんや。」
みち 「ほんだらおっちゃんに怒られて。」
そら 「あーあ。」
みち 「したら友だちが泣いて。」
そら 「あーあー。」
みち 「「ほんだら鳩が死んでまう」て。」
そら 「……せやな。」
みち 「おっちゃんは慌てて、「鳩は引っ越すんや」て。」
そら 「ずいぶん勝手な言い分やな。」
みち 「せやねん。」
そら 「かわいそうやな。鳩も、その子も。」
みち 「な。あの時はわからんかった、ていうか形にならんかったけど、今思い出したらなんや理不尽やなって思ってな。」
そら 「人間て勝手やな。」
みち 「な。」
そら 「そんな大人にならんとこうな。」
みち 「いや大人になったよな、うちら。」
そら 「なってしもたな。」
みち 「てか中学からこっちって知らんかったわ。」
そら 「まじで。」
みち 「ごめん。」
そら 「知っといてくれな困るで。」
みち 「大きなったなぁ。」
そら 「おかげさまで。」
みち 「エサあげた甲斐があったわ。」
そら 「鳩と違いますけど。」
みち 「……鳩の恩返しかと。」
そら 「意味がわからない。」
みち 「時期がちょうどいいかなって。」
そら 「いやいや、たぶん私がその鳩やったら、アンタんとこやなくて、泣いて抗議した子んとこいくわ。」
みち 「それもそうやな。」

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