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有機と慣行と自分と

有機か慣行か


ネット上では有機栽培農家と慣行栽培農家でバトルしているのをよく見かける。
どちらも言ってることが正しいなと思う点もあるし、一方でそんな言い方しなくてもいいのになと思うこともある。誰しも完璧ではないから間違うこともあるし、物事には必ずいい面、悪い面があるのだから、二極化で考えずにお互いのいい点を取り入れればいいと私は思っている。

そしてさらにどうでもいいなと思うのはその代理戦争のようなものを一般の方が繰り広げている場合だ。色々な考え方や嗜好があるわけだから放っておけばいいのにと思う。まあポジショントークもあるのでしょう。専門的知識もないに関わらず、間違った情報をどこからか聞いてきたのか恥ずかしげもなく発信しているケースも見られ、少し苦々しくも感じるが、まあほっとく。その情報を信じる人もまたそれぞれである。

人は自分の欲しい情報、意に沿った情報しかアンテナにヒットしないし、聞かないし、信じないわけだから、その情報を信じている人に違うと言ったところで意味がないと思っている。その人がそれでよければ良いのだ。情報弱者は情報弱者であるが故に情報弱者なのだ。自分もそうだ。

私の周りには有機農家、慣行農家どちらの友達もいて、それぞれ尊重しながら農業をしている。敵対している人なんていない。みんないい人だからか。また農家以外にも消費者としてオーガニック志向の友人もいて、食へのこだわりもすごくて、ついていけない時もあるが勉強になったりもする。自分自身はオーガニック志向ではないが、単純に美味いものが好き。自分自身が農産物やワインを食べたり飲んだりして感動したことが何度かあって、それがオーガニックだった時もあるし、慣行だった時もある。でもいずれにも言えるのが栽培のことを深く考えて、勉強して、いろんなことを試行錯誤しながらやってる生産者だということ。オーガニックの生産で成功するためには並々ならぬ知見や努力が必要だから、必然的にこだわっている生産者にはオーガニックの人が多いのかもしれない。もちろん慣行農家にも尊敬すべき人はたくさんいる。


有機でも慣行でもないと思っている自分


自分の農業において最も重きを置いているのはそれが美味しいかどうかということ。有機か慣行かは二の次。ただ、これまでの自分の食の経験から、自分自身もどちらかというと栽培はオーガニック志向だ。目に見えない微生物の多様性が植物の栄養吸収に有利に働くので、それを自然の状態の中で成し遂げようとしているのが有機農家。人工物を色々投入しながら植物に有利な状況を作り出そうとするのが慣行農家。自分はその中間(ピーマンは特別栽培、ちなみにワイン葡萄は有機JAS認証はとってないがそれに準じている)。土づくりや肥料は有機的なものを使うし、農薬も有機JAS認証のものを中心に使う。有機JAS認証でも農薬は農薬だろという人もいると思うけど、自然界に元々あった化合物を使うのと、自然界にない人工的化合物を使うのでは自然に与える影響度が違うと考えている。日本で無農薬で安定した農業生産を行うのはかなり高い技術が求められる(無農薬で作れる作物や地域が限られてしまう)。だから有機農薬を自分は使う。

自分が使う農薬について

ここからはネット上で賛否両論が吹き荒れる農薬について自分のの考え方を書いてみよう。

まず私の農業は無農薬ではないし有機農業でもないのだが、有機農業の技術を取り入れながら、できるだけ農薬や化学肥料を減らし、使う必要があればそれらも使う。0か100ではなく、できるだけ意識は有機農業よりで行う慣行農業といったとこか(何度も言うけどワイン葡萄だけは有機JASじゃないけど準じている。だってナチュラルワイン作りたいんだもん)。中途半端と言われればそれまでだが、自分の中では経済的にも、環境的にも、持続可能性の高いスタイルだと思っている。農業経営ではきちんと狙った収穫量、事業的に再生産可能な収穫量を上げることが必須だ。そのために有機的な技術で対処が難しい病害虫に対しては農薬を使うが、その種類、使用回数を必要最小限にし、環境もしくは被曝量の大きい自分自身への影響が最小限になるように配慮している。自分は目に見えない微生物のことはさておき、目の前にいる昆虫等の生物の命(害虫以外の)は大事にしたいと考えている。大きな生物に影響の大きい薬物は微生物にも当たり前のように影響することは間違いない。だから逆に目の前の生物を大事にすることで目に見えない微生物にも思いを馳せている。微生物の自然界における働きはものすごい大きい。余談だが微生物の世界は人間社会の縮図だと思っている。いろんな微生物が共生したり、依存したり、拮抗したり、競合したり。

話を農薬に戻そう。例えばピーマンの害虫にタバコガという蛾の幼虫がいて、こいつらがピーマンに穴をあけて食べてしまい最終的にピーマンを腐らせてしまう。厄介な害虫だ。こいつのせいでシーズン中1日あたり数十kgのピーマンをロスしている。シーズン中のロス量は1000kg以上になる。
これは有機農薬を使ってもこれだけの被害があるのだ。無農薬でやったら恐ろしいことになるだろう。化学農薬を定期的に使えばもっとスパッとキレよく害虫被害を減らせるのだが、化学農薬を使ってしまうと、自分が大事にしているテントウムシやカマキリ、カエル、ヒラタアブ、蜘蛛など他の益虫も減らしてしまい、他の害虫被害を招いてしまう。結果として農薬をもっと使わなくてはいけない状況になるので使いたくないのだ。

だからタバコガの幼虫だけを狙ってBT剤と呼ばれる殺虫剤を使う。BTとはバチルス・チューリンゲンシスの略で菌の名前だ。この菌が産生する毒素が蛾の幼虫に特異的に効く。バチルス・チューリンゲンシス菌にも色々な種類があるらしく、ハエやコガネムシなどに毒性を示すものもあるらしいが、自分が使うのは蛾の幼虫に効くやつ。逆にいうとそれ以外の生物にはほぼ効かない。

他にもボルドー液(ワイン葡萄栽培ではおなじみ)と呼ばれるものも使う。これも有機JAS認証。銅を使った薬剤で抗菌作用がある。唯一ピーマン栽培期間中に有機JAS認証じゃないので使うのがカスミンボルドー(銅+抗菌成分のカスガマイシン)。カスミンボルドーは有機JAS認証ではないけど特別栽培では使用が認められている薬剤だ。今まで初夏のアブラムシ(こいつも大量発生すると壊滅的ダメージを喰らう)に対してだけはモベント(これも食害した害虫のみに効果を発揮して、てんとう虫とかには影響がないと言われている)という化学殺虫剤を使用していたが、2023は使わずにいけたので今年も多分いけると思う。安易かな〜。

農業経営において安定生産できるかどうかは事業者として存続できるかどうかに直結するわけで、自分は美味しいものを安定的に作りつつ、出来るだけ環境負荷が少なくなるように今の農業スタイルが適していると考えている。

自分が最も重視するのは有機か慣行かよりも、

「どうやったらもっと美味しく、もっとたくさん作れるか」

輝きすぎやろー



有機農業は無農薬とは限らない。有機農業で認められた農薬があり、それらを駆使する農家も多い。
農薬と聞いただけで拒否反応を示す人もいるが、世の中に流通している農産物の99%以上は農薬が使われており(当たり前だが使用濃度において人体への影響がないことが科学的に証明されている。農薬じゃなくてもどんな物質でも高濃度で暴露すれば影響あるよ。たとえば塩や砂糖だって)、農薬が開発されてから今までそれらを食べて多くの日本人は長生きしている。農薬があることで品質、収量が安定し、食料の安定供給に寄与していることは間違いない。もちろん農薬を使わずに生産できるならそれに越したことはない。慣行農業をやっていても自分も含め農薬の使用を少しでも減らそうと努力している農家も多い。もちろん何も考えずに農薬バンバン使っている農家もいるから、そのコントラストで無農薬の価値が上がるのだと思う。


まあ一般の人からしたら農薬の話をされたところで何のこっちゃという感じだと思うけれども、NanburGrapplesナンバーグラップルズの農業やピーマン栽培の考え方のひとつに農薬の使い方があると思ったので書いてみたわけです。

ネット上では他にも何かと話題になってる農業関連キーワードがあるから、時間があったらまた何か書きたいと思います。


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