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夜の渋谷に勝手に期待してる。

ホテル街に佇むミニシアターのユーロスペースはわたしのお気に入りの場所。大好きなレイトショーに行けば鬼に金棒となる。

土曜の夜に鑑賞したのは「花腐し」。R18作品、主演は綾野剛さん、柄本佑さん。もうこのキャスティングだけで見るのは確実!

あらすじは
二人がかつて愛した女性についてベロンベロンになりながら夜通し語り合ってるうちに実はそれが同一の女性であることに気づく。過去の恋愛に話を咲かせるとともに今の寂しさをヒシヒシと感じ、最後には前を向いていく…という物語。

過去が美化されると余計に今がくすんでしまう。歳を重ねるごとに若い頃への哀愁は増していく。辛いことだらけで、肌も荒れる、胃ももたれる、下腹は贅肉まみれ、シワも増える。酒は翌日にちゃんと残る。粘っこく纏わりついた孤独はアルコールで一夜だけ消毒した気になる。

30代も半ばまで迫ってくると、20代の頃に感じることのなかった底の深い悲しみに溺れそうになる。


ただ、この年になって、どうしようもない夜にふと隣で飲んでた他人に救われたりする。もう二度と会うこともない運命とは程遠い出会いで体が軽くなる。予想外に盛り上がって深い話をしたり、一緒にカラオケを熱唱したり。他人だから気を使わず言いたいこと言えることがある。

仕事の付き合いもアプリの出会いも、私が接する人々は私と何らかの利害がある。家族ですらやれ結婚だの子供だのお金だの…将来の話が多い。決してそれが悪いわけではないけれど。

大切な、距離が近い人ほど複雑だ。




外に出たわたしの心は踊っていた。人の心を傷つけるのは人だけど、その傷を癒やすのもまた人であり、出会いと別れが人生を色づかせている。ごみごみした街並みが、若者たちの騒ぐ声、酒臭い匂い、目が眩むほど余計に強いLEDの看板。喧騒で五感が満たされていく。

なぜそう感じたのかははっきり分からないけどきっとこの映画に感動したんだと思う。

道玄坂から駅に近づくにしたがって渋谷の雑踏の一部へと溶け込んでいく。目に入るのは人、人、また人。世の中にはこんなに出会いがあるものなのだろうか。


数千もの人とすれ違いながらも、わたしは誰とも触れることなく帰路につく。無限の可能性があったはずではなかったのか。

隣りにいるバンドマンは何がそんなに楽しくてヘラヘラしてるのか。俺は酒が強ぇーだのなんだの、くそみたいにつまらない話で横にいるこれまたよくわからんぺらぺら薄着の女に話しかけている。これが需要と供給か。さっさと服着ろ。

おい、ナンパしてるそこの男、なぜ私には声掛けない。掛けられても困るけど、なぜ掛けない。むかつく。


裏切られた気分だ。




話はやや変わるが、
マッチングアプリ普及の最大の罪とはなにか。人によりけりだとは思うが、わたしは人との出会いにおいて盛大な勘違いを起こしてしまうことだと考えている。

一つには、自分がモテているという勘違い。女性はログインするだけでいいねが来る。承認欲求が満たされていく。自分は女性として見られているんだな、需要があるんだな、待ってたら誰かが声をかけてくれるんだな。

残念ながら全部違う。

男性のいいねには(大半は)何の意味もこもってない。道端歩いてて、あ、あの子可愛い!というレベルにすら達していない。あ、イイね余ってるポチッ、だ。もはやいいねは呼吸と同等の域に達している。

ただこれはある程度自分のことを客観的に見られる人なら問題なくて、よほどメンヘラじゃない限り大丈夫だろう。


二つ目、これがまずいのだか、
私達は無限に誰とでも繋がれる、何歳からでも、どんな人とでも、と思ってしまう可能性の勘違い。

渋谷の街を歩いてて、すれ違う男、女、全部が出会いの対象だと思ってる人がいたら気は確かか?頭の中お花畑なの?と、ほとんどの人がその人を断罪できるだろう。だか、とかくインターネット越しだと、いいねが来る/押せるので、コミュニケーションを取ったと錯覚し、スマホの中身全部に可能性を感じてしまう。IT社長さん、コンサルタント、医者、弁護士、ハイパーイケメン、…彼らは交わることのない幻想です。


そして最後に三つ目、
人と人とが本当の意味で繋がる機会をいくらでも増やせるという勘違い

どんなに便利になろうと、大切な人との出会いは人生で数えられるほどしかないとわたしは思う。LINEの連絡先はいくらでも増やせるのだけれどそういうことでは無く、この人と出会って良かったと人生を振り返って思える人。その絶対量はアプリの有る無しでは変わらない、数も思ったほど多くないはずだ。ぜひ振り返って大切な人を思い出して見てほしい。百も二百も無いのではなかろうか。

今の絆も新しく築く絆も蔑ろにしてはいけない。たくさん新しい人と出会えれば良い、いくらでも替えが効くというのは盛大な勘違いなのだ。その人を失ってできた孤独を、その人以外で埋めることはできない。



おしまい


P.S.
2024年、早速だが凍えるほど人恋しい。



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