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「えいえんのいのちをてにいれた!」ショートショート

「それではこの契約書にサインをしてください」

そういわれて俺は 永遠の命 を得るための契約書にサインをした。

といっても悪魔の契約書とか、あやしいものじゃない。
最近のトレンドの命のサイボーグ化だ。

人間の意識は脳にある。それを電子的にコピー、再現できれば肉体の寿命に囚われずに無限に生きることができる。

そんな夢物語だった技術もいまでは一般層がある程度努力すれば受けられるように広まったのだ。

これは人口問題や環境破壊などへの解決策でもあった。

電子的にコピーした意識はほとんどの場合、電子空間上で過ごすことになる。
そのため、生身のままいるよりも環境コストが下がる、ということで、政府もバックアップし、費用の一部が保険適用の対象となっていた。

「なんかドキドキしますね」

「やっぱりそうですよね。でも簡単ですから」

そういわれて俺は装置の中に入っていった。光量子スキャンを行うそこそこの規模の装置だ。これで脳をメインにしつつ、一応、全身の構造をスキャニングし、それを電子素子上で再現する。これにより肉体的な制限から解放されるのだ。

一部、不安の声をあげる人たちもいたが、俺は新しいものについていけない時代遅れの感覚だと一笑していた。

それに一足早く措置を受けた人たちと会話をして、感想を聞いたが、
みな、一様に「とくに変わりはない」ということだった。

魂やらを信じる人たちには悲しい話だろうが、脳内と電子素子のどちらの活動も意識としての優劣はないようだ。

それにいくら医学的に寿命が伸びたとしても不慮の事故やいちいち病気になってしまうのも面倒だ。そういった面倒ごとからも解放されるのなら万々歳だろう。

「ーーーおわりましたよ」

「おっ」

適当な思考を広げていると、スキャンが終わったらしい。痛みも違和感もなく、ただ寝ていただけで自分の中の情報がすべて透過されたかと思うと不思議だった。

「いま、ちょうど電子素子上に意識をコピーしていますよ。あ、もう終わりますね」

すると電子機械から声が聞こえてきた。

【あ、あー、いま電子上にいるんですね。なんか不思議な感覚だな】

「なれないとそうですよね。それにいまは意識の再現だけなんで、身体感覚も備えたボディ素体に写せば、生身の感覚に近い感じになりますよ」

【そうなんですね。でも、いまでも十分に快適ですよ。いま自分が電子上にいるってのが変な感じですけど。すぐ慣れると思います】

「みなさん、そういいます。けっこうみなさん拍子抜けしますからね」

「あ、あの・・・」

そういって、俺は 俺と男 の会話になんとか割って入った。

男はすでに、俺を俺としてみていなかった。男にとって、俺はすでに電子上のコピーとなってるようだった。

ふと、俺は先程の契約書の一文を思い出す。

ーー措置後、乙の人格・人権は措置後のデータ(α:第一複製データ)に移行するものとする。

「では肉体の方は引き取って処分しちゃいますね。最新型のボディ素体との買い替え割の条件ですから」


こうして、俺は死に、俺は生き続けた。



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