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闘わざる者食うべからず Starbucksのクラシックチョコレートケーキ デリケートに好きして!

 食べたいものがいくつもあるものだから困る。そして自分の優柔不断さにむかむかする。この悶々とした気持ちに私はどうオチをつければよいだろうか。

 というのも今日、本当はドーナツ屋に行く予定だったのに地下鉄の乗換地点でスタバに入ってしまったのだ。これはよくある話である。

 スタバでもチョコレートドーナツがあるしまあいいや、と思いきや

 シュガードーナツしかないではないか。たった0コンマ何mmのコーティングの差だなんて思うなかれ。今日の私はチョコレートドーナツの口なんだ!と思いきや

 シナモンロールが横に並んでいるじゃないか!昨晩観た「かもめ食堂」に出てきた、アツアツのコーヒーと甘いシナモンロールを幸せそうにほおばるフィンランドのおばさんを思い出すよ。よし、ここはシナモンロールで決まりだ!

 意を決してレジへ向かう。すると、

 「クラシックチョコレートケーキ下さい~」

 目の前のお客さんの言葉が耳に入る。ショーケースに目をやると、それまで眼中に全く無かったチョコレートケーキが急に色濃くなった。メニュープレートがピンク色になっている。そうか今週末はバレンタインデーなんだな、なんて考えている間に自分の番が来た。私は迷わずこういった。「クラシックチョコレートケーキひとつ」


 私はこの優柔不断さにいつも悩まされる。

 自分の意思が弱い気がするし、意見を二転三転する人が自分でも嫌いだから。それとおんなじことなんじゃないかと自分をなじってしまう。

 私は買い弁ができない性格である。人は私のように自分で弁当を朝からつくる人をマメな性格だと褒めてくれる。確かに好きでないと自炊は続けられない。私の場合自炊は好きである。しかし得意ではない。

 私はむしろ買い弁ができる人が羨ましくて仕方がない。

 例えばコンビニに行き、食べたいものを一分以内にささっと手に取ってレジに向かえる人を私は尊敬する。何故なら私は、コンビニで買いたいものを選ぶのに10分はかかってしまう。10分なんてのは早い方で、平気で30分徘徊する時もある。

 何をそんなに悩んでいるかというと、まず成分表を観て悩む。次に産地に悩む。次に人の意見がフラッシュバックしてきて揺らぐ。悩んだ挙句選んだ選択肢にも、これで本当にいいのか悩む。後悔しないか?大丈夫か?自問自答ばかりする。そしていつも懲りずに電車を逃しかける。こんな次第である。

 なので買い物に悩むくらいなら自分で腐りかけの晩御飯の残り物でもいいから弁当に詰めて会社に行く方がよっぽど私の心は救われるのである。(さすがに腐ったものは入れないが)

 昨日私は観たい映画を探しにツタヤに行った。一時間悩みに悩んで、仕事終わりの空腹にも耐えられずもう帰ってやろうとふと自分の手元を見ると、たった三作品しか選んでいなかった。今まで狭い店舗をうろうろしながら私は何してたんだ。(しかもフェミ系映画を借りに行ったのに何で「太陽の帝国」を持ってんだ!!!)

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 席に着き、目の前のチョコレートケーキに対峙した。なんだか悶々とした。あれほど朝からドーナツが食べたくて電車にまで乗ったのに。たった数秒で心が変わるなんて。しかも見ず知らずの先客に釣られるなんて。

 大体なんだ、「クラシックチョコレートケーキ」ってネーミングが最高すぎるじゃないか。近頃、生チョコケーキだとかスフレティラミスパンケーキだとか、巷には現代人の食欲の権化がさらに進化して個性まで相殺しあうハイブリットデザートが溢れかえっている。

 それに対してこのケーキ、堂々と「伝統」を冠しているではないか。確かに、そう考えればトップのチョコレートムースの流動線はたっぷりとしたフリルを身に纏った女王様のようだ。こっくりしているので底のクッキー生地まですくい上げるにはフォークひとさしで十分だ。何の抵抗もない、女王様は意外と素直である。

 口に入れた瞬間各層それぞれの風味が渦巻いた。トップのチョコムースはまろやかな口どけの中でちゃんとカカオの風味を主張している。生クリームの層とも相まって夢心地の味だ。底のココアビスケットの苦さと歯ごたえが、更に口いっぱいに広がるムースの甘美さを演出している。ブラックのドリップコーヒーと味わえば追いかけてくる、スイート、ビター、スイートの誘惑。贅沢の反復横跳び。(永遠に跳ね続けてたい……)

 ケーキ屋じゃないカフェチェーン店で出されるケーキってちょっと勇気がいる。心のシェルターと呼ぶくらい大好きなコメダコーヒーでも未だにケーキを頼めたことが無い。例えて言えばパン屋においてあるピザとか、ファミレスの和定食とか、焼肉屋によくあるメロンシャーベットとか。おまけ要素が強いというか、「思ってたんとちがう!」なんてがっかりするのが怖いのだ。

 だけれどこの’クラシック’チョコレートケーキは違う。「昔ながらの」もしくは「格式ある」と謳うことは相当な自信が無ければできないことである。公式サイトを見れば、どうやらスタバのコーヒーフレーバー、ヴェロナ®に合わせて作られたレシピらしい。コーヒー豆を味わう為に生まれた副産物でも、名は体を表す。記憶の彼方にある、誕生日に食べたチョコレートケーキを彷彿とさせる懐かしい甘ったるさと、世相を反映した生食感の軽やかさが合わさったこの感じ。そしてコーヒーとの相性を計算された四層の調和。この味を楽しむ為だけに来店できるケーキ。まさにコーヒー屋だからこそのケーキ!私にとってスタバのシーズナルフレーバーといえば秋限定のパンプキンタルトとクリスマスのジンジャーブレットラテくらいしか定番が無かったのだが、このケーキも是非スターバックスジャパン冬の定番メニューに入るよう嘆願したい。

 そういえばケーキ屋じゃないところのケーキで最近気になった記事があった。VICEの中で展開されているグルメメディアMunchiesに掲載されていたもので、アメリカのIKEAだけで販売されているらしいチョコレートケーキの麻薬級の美味しさについて語られている。その名もなんと’Chocolate Conspiracy Cake’!直訳して「チョコレートの陰謀ケーキ」!そんなにおいしいなら私も乗っ取られてみたい。

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 結局何を言いたいかわからなくなった。これも話が二転三転してしまったせいだ。とにかく優柔不断な私に必要なことがわかった。それは堂々たる自信だ。それで満足いくのかどうか不安で、自分を肯定する力が弱いのだ。産地、カロリー、期間限定、動物性、まずは日頃から精査してモノを選択している自分を褒めよう。そして自分の選択に自信を持つべし。風吹けば気分が変わることだってある。(クリィミーマミもそう歌っているではないか)無理して舵をきる必要はない。そうでもしないと良くも悪くも体験できない世界がその先にきっとあるから。

 目の前の女王様は幾度となく切り込まれるフォークに臆することなく毅然として佇んでいる。こちらも自然と穏やかになってきた。朝から食欲に気持ちを左右されていた私の方が軟体だった。このクラシックチョコレートケーキの様に私も堂々とありたい。ケーキ屋じゃなくても十分美味しい本物のケーキを楽しめる経験をさせてくれたスターバックス、ありがとう。このケーキを食べるきっかけをつくってくれた先客のおねえさん、ありがとう。そして悩んだ私、ありがとう。そして’クイーンクラシック’よ、ありがとう。

 これをオチとして私の優柔不断談議に幕を下ろしたい。濃厚なチョコレートケーキがやっと、私の胃の腑に落ちていった。

 



happy valentine's day







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