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人生を変えた本と言えば、岡本太郎さん

18歳。その年大学受験に失敗するまで、生まれてから毎日上り調子の人生でした。毎日が楽しくて仕方がない。昨日よりも今日が面白く、明日が来るのが楽しみで。学校に行くのが好きで勉強が好きだったことは、今思えばとても恵まれていたんだなと思います。


進路選択で揺らいだのが始まりだったのかも知れません。当時の目標は研究者になること。勉強が好きだったのでその道で生きていきたかったのと、どうしてか小学生の時から社会に出たくない、会社員にはなりたくないと思っていたのでした。今思えば研究者だって社会に出ているわけですが。


子どもの頃からトレジャーハンターに憧れていて、理想のイメージはインディアナ・ジョーンズ。大学で教えつつ、探検するのが目標。であれば文系に進み考古学を学ぶか?でも数学や物理の方が好き。進路指導では担任の先生から考古学科に行くのもいいし、歴史研究よりも発掘調査に興味があるなら理系に進んで地質学を学ぶのもいいかも知れないね、と教えてもらい選んだ理系の道。しかし高校3年生になって、本当に地質学が学びたいことなのか?と疑問を抱くようになりました。そもそも学んだこともない学問なのに、本当にそれが一生かけて学びたいことかどうかなんて分からない。みんなどうして進路を決められるんだろう。今まで研究者になりたいと思っていたけれど、さて一体私は何を研究したいんだろう?


それでも受験はやってきて、結局1番行きたかった理学部を受けたのですが、不合格。第2志望も落ちて、第3志望で一応受けていた宇宙工学科に入学することにしました。

18歳から22歳、この頃が人生でもっともダーク。大学に入学してみると、生まれて初めて勉強が面白くなくて、毎日が退屈で、初めて”つまらない”という言葉の意味を実感を伴って理解できるようになりました。


でも、ここから脱出しないと!という緊迫感のおかげでこの頃が一番必死に本を読み、映画を見た時期です。問いも分からぬまま、誰かの語る言葉に、書かれた文字に、何かの答えを探していたのだと思います。そしてこの時読んで、鑑賞したものほど今でも自分の骨肉になっているなと感じるものはありません。とにかくいろんなものを読み、見たおかげで、基礎体力的なものが鍛えられたのだと思います。


そんな時に本屋さんでふと呼び止められるように手を取ったのが岡本太郎著『自分の中に毒を持て ー あなたは”常識人間”を捨てられるか』でした。


一気に読みました。

何かを必死で探していたら、本が答えを教えてくれることって、本当にあるんだ。

救われた思いでした。


この本ほど、読みながらその瞬間瞬間に自分自身に出会っているのではないかと感じた本はありません。今読んでも当時と同じあの切迫した感覚は味わえないでしょう。あの頃の迷っていた自分の人生、ちょっと見え出した世の中の仕組みや欺瞞に対する自家中毒気味の疑念、本当のことはなんなのか、生きることってどうしてなんだろうとか、ぐるぐる渦巻いていたものを蹴散らされると同時に、自分以外のものとこれほどまでに深く共感したことはありませんでした。まさに本の中に自分を発見する経験。と言っても私が岡本太郎のように生きられている訳ではないのですが、それまで疑問に思って友達に話しても聞く耳も持たれず、鼻で笑いながら「変わってるねえ」と一言で終わらされていたようなことごとが、この本の中では真剣に話し合われていたのです。これほどホッとした経験はありませんでした。


その後どうしても嫌だった大学を2年次で休学し、東大を目指すことにしました。東大だと理系で入学しても進学振り分けという制度で文系に進むこともできるのです。専門性を絞る前に興味のある分野を幅広く覗き見することができるのが魅力でした。私が受験生だった頃、日本の国公立大学でこういう制度があったのは東京大学と北海道大学だけ。北海道は寒すぎるし、自分の学力がどれほどか全力で試してみたかったので、東大を受験することにしました。塾講師をしながら毎日1人で公民館や図書館で黙々お受験勉強。あれほど勉強したことも、あれほど1人だったこともありません。

結局2年受験しても合格することはできませんでした。

でも、どうしても挑戦したいことに対して一切の保険をかけず、堂々と自信を持って全力だったと言える努力ができたのでよかったです。

この後大学に復学したものの結局中退し、世界のいろんな国を旅行したり、農家に就職してみたり、パリにお引っ越ししてみたり、そのまま今でもフラフラしています。こんなところに流れ着くとは思ってもいませんでした。


人生のあらゆる分かれ道と選択の瞬間に、真正面から向き合う姿勢を崩さずにいられたのは岡本太郎と出会えたおかげで、あの本に出会えていなかったらまた違う人生になっていたと思います。そっちの人生も面白かったかも知れません。でも手に入らなかったものも含めて、今の自分の人生が気に入っています。『自分の中に毒を持て』はそんな風に思わせてくれる一冊です。



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