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新しい、初対面でタブーな話題

フォトグラファーのアシスタントをしていると、撮影の度にいろんな人に出会います。大人の一般常識として、初対面の人と会話するときに避けるべき話題がいろいろありますよね。例えば政治と宗教の話。

それに加えてパリで働いているといろんな国籍の人、様々なバックグラウンドを抱えている人がいます。撮影現場に10人いると、10人みんな国籍が違う、なんてこともあります。肌の色も見た目も違います。政治や宗教の話題に加えて国籍や出身地もデリケートな話題だと感じます。

例えば、イギリス人のフォトグラファーのアシスタントをしたときのこと。被写体は生粋のパリジェンヌのギャラリーオーナー。フォトグラファーが彼女に尋ねます。

「ところでパリ生まれなの?」
「そうですよ」
「でも本当の出身地は?オリジンはどこ?」
「…わたしの両親はモロッコ出身ですが、2人ともフランス国籍で、わたしはパリ生まれのフランス人です」
「あ〜やっぱり!モロッコ出身なんだね!モロッコにはよく行くの?親戚はモロッコにたくさんいる?」
「…モロッコに親戚はいないし、行きません。家族はみんなパリに住んでいます。ところであなたはイギリス人だけど、名字はフランス風ですよね?」
「そう、僕はイギリス生まれのイギリス人だけど、両親はフランス系のユダヤ人だからね!」

彼女の表情を見ると複雑な気分なります。この手の質問を受けることは何度もあって、辟易していることでしょう。フランス生まれでフランス国籍でれっきとしたフランス人なのに、"オリジン"を聞かれる。モロッコと答えたときの相手の「ほーらね!やっぱりフランス人じゃない!」と言いたげな顔。

しかし彼女と同じような生まれ育ちでも、フランス人とは思われたくない!わたしはモロッコ人だ!という人もいます。

このフォトグラファーもイギリス生まれのイギリス人としてのアイデンティティよりも、ユダヤ人としてのアイデンティティの方が大切だから、このような質問をしても失礼だと思わなかったのかな?思います。

国籍を複数持つ人もたくさんいるし、何人?っていうのは意外と答えるのが難しい質問です。

わたしもどこの出身か毎日聞かれますが、日本人と言うと有難いことに多くの人がポジティブな好奇心を持ってくれていて、会話が弾むし嫌な経験をしたことがありません。

トルコ人の友だちは、トルコ人だと言うと突然トルコ政府について厳しい批判を受けたり、説明を求められるそうで、自分はトルコの代表じゃないし、トルコ人だからってみんなが現政権なら満足している訳じゃないのに!と怒っていました。

また語学学校で出会った別の子に出身地を聞くと、トルコ出身だけど、僕はトルコ人じゃない、クルド人だ。と言われて、あまりピンと来ず、あとで調べてみて自分は国際情勢になんて無知だったのかと恥ずかしく思いました。

自分が出身地を聞かれても"パリに住む日本人という外国人の1人"というアイデンティティに揺らぎがないので構いませんが、相手に尋ねるときは気を配らないといけないなと思います。

パリで一緒に働いたことのある台湾人の友人は、台湾を中国だと言う中国人とは友達になれないと言っていました。こちらに住んでから、台湾は中国だと言う中国人にも、台湾は中国ではないと言う中国人にも出会いました。相手によっては自分の国は存在していないと認識されると言うのは、どんな気持ちなんだろう。


食べ物の話なんかは世界中みんながどこでも楽しく盛り上がることのできる平和な話題だと思っていましたが、これまた繊細な話題になったなと感じる日々。誰も自分の意見を無理に押し付けることがなければ、問題ないのですが、肉食派と草食派の議論がヒートアップすることもあります。「バランスよくなんでも食べるのが一番健康だよ!お肉食べないからそんなに顔色悪いんだよ!」とか、「お肉を食べることがどれだけ環境に悪いか知らないの?!家畜がどのように育てられているか、見たことないの?!」なんて白熱し、美味しくランチできなくなってしまいます。食べることはホビーじゃなくてイデオロギーになってきてるんだなと感じます。


さてここからようやく本題です。先日、新たにタブーな話題に入ったな!と気づいたのが、コロナワクチン。

コロナのワクチンの摂取は全国民の義務にしなくてはならない!と言ったモデルに対し、わたしは摂取したくないなあとヘアメイクさんが返答したことでヒートアップ!

「え!?どうしてワクチンの摂取に反対なの?!」

「まだどんな副作用があるかもわからないし、リスクがあると思うから」

「いやいや!リスクはないって発表されてるじゃん!副作用って例えば?!」

「そりゃ薬やワクチンには副作用があるものもあるじゃない」

「どのワクチン?!どの薬?!」

「どの薬かまでは言えないけど...」

「僕は製薬会社や政府の発表を信じてるし、根拠もないのに副作用があると言って不安を煽るのは無責任だと思う。ワクチンはみんなが打たないと意味がないのだから、早くコロナ禍を終息させるためにも、ワクチンが十分に作られたら全員必須で受けないといけないと思う!」

「でも人口の75%が摂取したらウィルスの蔓延は抑えられるよ」

「25%以上摂取したくない人がいたらどうするの?同じ社会と言う共同体に参加して生活しているのだから、摂取することは社会のための義務だと思う」

「君の言うことはもっともだし、よくわかるよ。でも強制にするのはどうかと思う。選択の自由を奪取することになってしまう。」

「選択の自由が大切なのはわかる。でもすでに僕たちはロックダウンや夜間外出禁止のせいで好きな時間に好きな場所に行くこともできない。自由はすでにコロナのせいで奪われている。その自由を取り戻すためには全員のワクチン摂取が必要なんだよ!コロナのせいで世界中みんなが経済的に未曾有の大打撃を受けてる。はやく終息させないといけない。それに今だって子どものときに摂取が強制されているワクチンはあるじゃないか!」

「そうだねえ」

と大体こんなお話でした。撮影現場でこんなに白熱した議論をみたことがなくて新鮮です。わたしはワクチン懐疑派なので、意見の違う相手の話をきちんと聞いて穏やかに対応するヘアメイクさんの姿に感心しました。製薬会社や政府の発表を信じる根拠も、信じない根拠もどちらもたくさんあるから、なにを信じるかは主観になる。だからそこを出発点に議論をしても、平行線を辿るだけでしょう。

モデルさんの意見もなかなかしっかりしてるなと思います。選択の自由vsコロナで現在奪われている自由。個人の意思vs社会の義務。自分と違う意見の人の考えを聞くのはとても参考になります。むかし流行ったマイケル・サンデル教授の白熱教室みたいだなと思いました。こういう意見交換を実生活の場で聞けるのは貴重な経験です。

コロナについては、次のロックダウンはいつかなー?とか、今年のバカンスは旅行できるかなー?とか、もうコロナかかったー?なんて話はできるけど、ワクチンについては気をつけようと思いました。


でもタブーな話題はそれぞれが個人的な熱い思いを持っている話題ということ。初対面の人とは避けるのが無難ですが、遠慮せず本心を話し合える相手とはむしろ進んで議論し、忌憚のない意見を交わすことでお互いに学ぶことができる話題で、そう言う議題を感情的な喧嘩にならずにしっかり話えるような人ができたら、そんな人間関係は大切にしないとなと思います。


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