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パリコレで感動したこと : 写真を撮る意味

ファッションウィークでストリートスナップを撮り始めたときのこと。今でも忘れないことがあります。


2016年。ドキドキしながらカメラを抱え、ショー会場に向かいました。

会場前はひどい人混みです。有名なファッション雑誌にスナップ写真を撮っているカメラマンたちがいます。そしてそれ以上に多くのアマチュアカメラマンやインスタグラマーたちで溢れかえっています。そこに招待客や時にはボディーガードなどが混ざり合って、会場辺りは大変な騒ぎになります。


その中に、一際キラリと光るカメラマンがいます。ひょろりと背の高い、リラックスした雰囲気の人です。目で追っていると、ガツガツしたカメラマンが多い中、ゆったりしているのに、カッコいい人が会場から出て来ると決まって真っ先に1番良い位置で写真を撮っています。


高速連写でババババババっと何千枚も撮るカメラマンもいるけど、それはなんかお洒落じゃない。それでは「写真を撮っている」というよりも、「写っていた」と言うに近い。

そのひょろりとしたカメラマンにこっそり近づいて観察してみると、ひとりの被写体に数回しかシャッターを切らない。ちゃんと目で見て撮っている。サッと撮るとサンキューと言ってすぐに後ろへ下がって場所を空ける。

あ、この人絶対良い写真撮るなと思っていたら、WWDのThey are wearingというスナップコーナー担当のカメラマンKuba Dabrowskiでした。

持論ですが、カメラマンの雰囲気やファッションはその人の撮る写真と密接にリンクしています。ダサいなあと思うカメラマンはやっぱりダサい写真を撮るし、雰囲気あるなあってカメラマンはやっぱり雰囲気のある写真を撮ります。


お家に帰ってすぐにWWDのサイトを探しました。ウェブサイトではファッションウィーク中毎日、その日の夜にその日のスナップが公開されます。自分のいた会場で、自分も見た招待客やモデルたちが写っている。それを自分の撮った写真と比べられるのが面白く、毎晩チェックしていました。



今までファッションスナップと言うと着飾った人の全身を正面からバシッと写した写真だと思っていました。服装を見せるための写真。それも好きです。例えば日本のストリートスナップ雑誌のパイオニアSTREETやFRUiTSマガジンみたいな感じ。学生の時大好きでした。ファッションに映された時代の変化を感じられ、今見返しても非常に面白いです。




Kuba Dabrowskiが撮る写真はダイナミック。そして時に繊細。

ファッションというよりその場、その瞬間が写っている。

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完璧な構図。

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美しい瞬間たち。

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あんな人混みの中でどうやってこんな美しい瞬間を見つけ出しているのだろう。


同じ時間、同じ場所にいた私には全然見えていなかった瞬間たちが写っています。

私は見ているようで、何も見ていなかったのです。


こんなにも美しい瞬間がわたしの横にあったのか。目の前にあったのに気づくことのできなかった美しい瞬間をこの人は見ている。同じ時間を生きてても、この人の人生の方が何倍も美しいものに溢れている。

なんていう差なんだろう。


写真がうまくなったら、自分の目を鍛えたら、美しい世界への入り口になる。そこにあるのに今は気づけていない美しい瞬間に気づくことができる。それって自分の人生を自分で豊かにする最高の方法なんじゃないか。

子どもの頃からトレジャーハンターになりたかったけど、ファッションスナップを撮るのはさながらトレジャーハンターだ。宝物って見つける目さえあれば自分の周りにもあったんだ。


写真を撮る意味をひとつ見つけた、そんな手応えを感じたできごとでした。

もうストリートスナップは撮らなくなったのですが、この時分かった写真を撮る意味は今でも形を変えて私の中に残っています。



カメラこぼれ話

Kuba Dabrowskiがスナップで使っているレンズはいつも広角単焦点の35mmレンズ。この画角だとポートレートを撮るにはかなり被写体に近づかなければなりません。相手に圧迫感を与えることもあります。しかし広角レンズは被写体に近づくと特にダイナミックな印象を与える効果があり(超広角レンズのフィッシュアイなどが良い例)、また距離を置いて空間を写し撮るのにも丁度良い画角です。


逆に望遠レンズだと離れた距離から相手に気づかれずに撮影できるため、自然な表情を押さえられる利点があったり、またポートレートを撮るのにしても被写体と距離を置いて撮影できるので相手に圧迫感を与えません。背景をぼかしやすいのも特徴です。



ファッションショー会場では50mm〜望遠のレンズ、又は画角を変えられるズームレンズ(便利ですが、一般的に単焦点レンズより絞りの開放値が大きく、また単焦点レンズの方がその画角に最適化されているので画質が良い)を使っているストリートスナップカメラマンが多い印象でした。

会場ではどのカメラマンがどんなレンズを使っているか、どうやって撮っているかをストーキングでき、しかも雑誌のサイトやInstagramで誰がどんな写真を撮っているかをすぐに見ることができます。当たり前のことなのですが、カメラやレンズの選択肢が写真のスタイルや撮り方を変える。そのことを目の前でいろんなカメラマンを観察しながら実地で学ぶことができたのは、とても楽しい経験でした。


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