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連載小説「オボステルラ」 【第二章】16話「不運の星」2


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第二章の登場人物


 ようやく着いた食堂。しかし入るなり、一行は店主より謝罪を受けることになった。

 「…申し訳ございません、本日、ボア肉を切らしておりまして…」

 ボア肉料理が美味しいからと選んだお店ではあったが…。

「そうか…。他の食材はあるの?」
「ええ、クックー肉やお魚料理はございます」
「だったら大丈夫だよ。ボア肉料理がないのは残念だけど、他の料理だってここは美味しいから」

 そう言ってリカルドはマントを店員に預け、お店に入った3人。やはりミリアの表情は優れない。

「ミリア、クックー肉や魚は食べられない?」

「…え? いいえ、鶏肉もお魚も大丈夫よ」

「ゴナンは何でも大丈夫なんだよね」

「うん…、クックー肉って食べたことない。どんな味なんだろう」

 少しワクワク顔でお店に入るゴナン。食べ物に好き嫌いはないとの話だったが、やはり育ち盛りの男の子。お肉に心ときめいているようだ。

 ボア肉がないからか、お店はお客さんがかなり少ない。「お、貸切状態だね、良い席が選べるよ。ラッキー」といいながらリカルドは窓際の席を選んで、ワクワクしてあれこれと注文した。ゴナンはいつものように物静か、そしてミリアはせっかく待望の食堂に着いたというのに、物憂げな表情だ。

「ほら、サラダが来たよ、野菜もしっかり食べないとね」

リカルドは1人楽しそうに、野菜を取り分ける。いただきます、とモグモグ食べ始めたが、すぐにゴナンが「いてっ」といって、何かを吐き出した。

「あ、石……」
「え、石が入ってた? サラダに?」

リカルドがすぐに店員を呼ぶ。店員は平謝りで、替わりのメニューを持ってきた。

「…ゴナン、大丈夫…?」
心配そうにゴナンを見るミリア。
「平気だよ。村にいたころは、小石混じりの水を飲むのも、普通だったから」
「村…」
「巨大鳥に乗った君と会った場所だね」
「……そういえば。あんな場所に村があるなんて知らなかったから、驚いたの」

 この国の統治者にも気付かれていない集落…。
自分の世界の全てだったあの村は、本当にこの広い国のほんの隅っこにあるのだと、ゴナンは改めて実感した。

「あのあたりはもう1年以上、雨が降っていないそうでね、ひどい干ばつで飢えてしまっていて、多くの村人が死んでいるんだ。ゴナンの妹さんもね……」

ゴナンは無言で頷いて、少しうつむく。

「そう、だったのね…」
「王女様がもしお城に戻るのであれば、あの地域への支援の手配を関係各所に言付けてほしいんだけどなあ……」
「……それは、わたくし……、いえ、本物の王女が戻らなくても、伝える方法はあるわ……」
ミリアは頑なだ。そしてまた、思い出したように影武者設定を口にする。

 そのとき、クックー肉の料理が運ばれてきた。
「ほら、メイン料理が来たよ。ひとまず食べよう!」
少し大きなニワトリのような「クックー」の肉。ステーキと、骨付き肉のから揚げ、赤い根菜・ボーカイで煮込んだ料理がきた。ゴナンの目が少し輝き、骨付き肉に食らいつく。その勢いに、リカルドはにっこり笑った。

「……何?」

「ああ、ごめん。ゴナンがそうやってご飯をお腹いっぱい食べているのを見ると、よかったなあって思って。美味しい?」

「うん、美味しい。村で食べていたニワトリより、すごく美味しい」





ゴナンは素直に頷いて、また肉の咀嚼に勤しむ。食べ盛りの勢いが心地よい。一方で、ミリアはなかなかフォークが動かない。

「……ミリア、まだあまりお腹が空いていなかったかな?」

「いいえ、お腹はペコペコよ。……大丈夫、いただくわ」

 そう言って、ミリアは上品な所作でステーキを口にした。王女であるために、振る舞いを相当に訓練しているのだろう。その洗練された動きを見ているだけでも、貴族の令嬢であることが誰の目に見ても明らかだ。

(……流石に王女だとはバレないだろうけど、この高貴なオーラを少しでも薄めないと、やっかいになりそうだな…)

リカルドは、元気にご飯を食べる青少年達を見守りながら、頭の中でいろんなことを考えていた。

↓次の話



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