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連載小説「オボステルラ」 【第二章】18話「不運の星」4


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第二章の登場人物


 深刻な顔で、ミリアは謝罪した。

「ごめんなさい」
「……?」

 リカルドは意図を察し、彼女のその言葉を否定した。

「いや、ミリアのせいでは…」

「いいえ、やっぱり、わたくしの不運の星のせいよ。だって、今日だけでもいくつもあったでしょ。宿屋さんも、レストランでも、この大雨も、お店にお客様が来ないのも…。普段、こんなにいろんな不運やトラブルが重なることなんて、ないはずよ」

「たまたま重なっただけだよ。全部、些細なことだ。こういうこともあるさ」

リカルドは笑顔でそう答える。ナイフも続いた。

「そうよ。水商売なんて水ものなんだから、お客さんが来ない日は来ないのよ。それに見なさい、あの子達を。トラブルで悲しんでいるように見える?」

ナイフが指す方を見ると、キャスト達はすでにへべれけで宴会状態だ。

「あ、デイジーちゃん、帰ってきた、こっちおいで~。そこのカワイイお嬢さんも!」
ヒマワリがいつもよりも陽気にはしゃいでいる。
「いっちゃだめだよ、彼女たちは非常にめんどくさいから」
リカルドがキャスト達から二人を隠し、青少年を護る。

「じゃあリカルドさん来なさいよ~」
「あとで、気が向いたらね」
他の子達がキャアキャアと騒ぐ。本当に、絡まれるとめんどくさそうな雰囲気が満点だ。

「……ね」
ニッコリ笑うナイフに、ミリアはやはり哀しそうな顔。

「…きっといつか、重大なことが起こってしまうわ。やっぱり、わたくし…」

 そのときである。ゴナンがミリアの前にぐいっと出てきて、目線を合わせた。

「ねえ…、今日、そんなに不幸なこと起こった?」

そう尋ねてくるゴナンの目をまっすぐ見るミリア。

「ゴナン、慰めてくれるのは嬉しいのだけれど」

「……いや、食堂で美味しいご飯お腹いっぱい食べて、俺の村では何が何でも欲しかった雨水がたっぷり降り注いで、リカルドさんとヘンな格好で雨の中走って、俺、けっこう楽しかったんだけど」

「……」

ゴナンの口から「楽しかった」という言葉が出たのが、少し意外だった。リカルドは、ゴナンの次の言葉をじっと待つ。

「ずっと思ってたんだけど、お前、言うほど『不運の星』なんかじゃないんじゃない? だって、そもそもミリア自身は、ずっと無事じゃないか」

「……」

「ケガもしてないし、死んだりも、していないし…」

ゴナンの言葉に少しだけまばたきを見せたが、口元だけ微笑んでミリアは答えた。

「わたくしが、いち国民だったら、それでいいのかもしれない。でも、だめなの。わたくしは王女だから。自分だけが良いというのは、だめなの。余りにも、周りで不幸が起こりすぎているのよ…」

「うーん、だったらさ…」

まだ、釈然としない表情のゴナン。

「卵に願うの、影武者のサリーが王女になる、じゃなくて、自分の不幸の星が外れますように、っていうお願い事じゃだめなの?」

(おや……)

ゴナンがここまで、しつこく食らいついて話すのは珍しい気がする。

「…その、たぶん、ミリアは、本当は王女でいたいんだと思う。ように俺は、見える…」

「…どうして?」

「えーと…」

ゴナンは自分が思っていることを上手く表現できる言葉を探している。リカルドも助け船は出さず、次の言葉を待った。

「…その、お城を、家出したって言ってるけど、王女の、仕事?いや、王女であることから逃げようとしているようには、見えないし」

「そんなことはないでしょう? サリーに王女になってもらおうとしているのよ」

「それも、自分の王女の務めとして、やろうとしてる」

ミリアは大きな瞳に力を込めて、ゴナンを見つめた。少しだけ沈黙するが……。




「……ありがとう、ゴナン。でもね、やっぱりわたくしが王女でいることは許されないし、わたくしは逃げているのよ。……でも、そうね…」

そう呟いて、少し思案するミリア。

「……でも、ありがとう、ゴナン」

そう言って、2階の部屋に戻っていくミリア。ゴナンはまだ釈然としない表情だ。

「ゴナン?」

「……リカルドさんは、ミリアと俺が一緒だって言ってたけど、やっぱり全然違うよ。俺は、本当に、心の底から逃げたくて、逃げて、そして今ここにいるから…」

「……」

リカルドはナイフと顔を見合わせた。そしてクシャクシャっとゴナンの頭を撫でる。

「ね、そろそろ、その『さん』付け、やめない? リカルド、でいいよ」

「……?」

唐突にそう切り出されてゴナンは少し戸惑ったが、コクンと頷いた。

「わかった……、リカルド」

「よし、さ、あの子達に捕まらないうちに部屋に戻ろう。僕も体が冷えてきたから、体を拭きたいし。お湯を沸かしてくれるかな」

「……うん。リカルド」

「明日こそ、武器屋に行こうね。ゴナンにピッタリの剣をみつけないと」

そう聞いて、ゴナンの表情は少し輝いた。


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