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世界放埓日記

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2018年1月の記事一覧

私の傷は誰のもの

レンタルの振袖を着られなかった新成人のために救済策を検討するのなら、
旅行代理店の倒産で旅行に行けなかった人のために慰安旅行を検討する人や自治体があってもおかしくないと思うのだけど、
世の中は道理で回っていかないことの方が多い。

鰻好きを自称するコメンテーターが「値段の高騰は本当に困りますよね」と眉を潜めていた。本当に鰻が好きなのならお金を払えばいいし、お金が出せないのなら我慢すればいいと思うけ

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目的のある美しさ

素敵な靴は素敵な場所に連れて行ってくれるというけれど、あれは嘘だ、と思う。
靴は私の脚を動かしはしない。ただ、私の歩みを時に柔らかく、時にしなやかに受け止めてくれるのみだ。そこが草原なら、柔らかい草の葉に乗った雨露が脚を瑞々しく柔らかく受け止めるし、そこが赤い絨毯なら、程よく締まったふくらはぎに影を添えるように導いてくれるだけだ。

私の家には物心ついた時からグランドピアノがあり、それは父親の友人

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仕える矜持

「このあいだ、お友達に怒っちゃった。演奏会の後援申請を頼んだのに、提出していなくて、更にそれをごまかそうとしたの」
母の寝室でワインを飲みながら、次回の演奏会のフライヤーを見てもらっていた時にそんな風に話し始めた。
「後援申請は直接利益に結びつかないかもしれないけれど、それは彼女が請け負う仕事だったの。それを蔑ろにするのは仕事が出来ないってことだよね、って」
「ふんふん」
母親はナッツをつまみなが

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