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マウントを登った先にあったもの

みなさんはラオタという言葉をご存知でしょうか。
ラーメンオタクの略称です。10年前までは悪口の意味合いが強い蔑称だったとか。
僕は休日には街に出かけて、お昼に3~5杯のラーメンを食べて、
『さぴお』というハンドルネームでラーメンのレビューサイトで情報をアップ。
観光地だろうと観光スポットは無視してひたすらラーメン…ラーメン…ラーメン…
年間500杯以上はラーメンを食べています。
僕がなぜそんなラオタになってしまったのか。
それは『ラーメンデータベース』https://ramendb.supleks.jp/
というラーメンを批評できる「食べログのラーメン版」のようなサイトがきっかけでした。
はじめは純粋にラーメンが好きで、メモの代わりになればいいな…なんて思っていたのが、まさかこんなことになるとは。

歪み

ラーメンを食べ歩きし始めて3年。
通常の人よりもはるかにラーメンを食べました。
当然、ラーメンに対する知識も増えます。
この時にある種の『自分はグルメなんだ』という錯覚を覚えはじめるのです。
ラオタは多しといえど、自分はその中でも特別な存在なんだというデルタースオリジナル的な思いが強くなっていきます。

同じラーメンオタクと出会えば、ラーメン屋知識をひけらかし、
相手の反応を見ては「あ、勝ったな」などと心の中でほくそ笑む。
人を見下したくて仕方ない生き物となっていたのです。


歪んだなりにも、ラーメンへの情熱はさらに燃えていきます。
自分にはラーメンしか誇れるものがない。
ラーメンを食べなければゴミなんだと
身体を壊しながらも食べ進めて結果、食べた杯数は500杯…1000杯…1500杯と超えていきました。

気づけばラーメンデータベースでのアクセス数は1位となり
このランキングで一番左側にいることが何よりの愉悦、歓喜、随喜、陶酔となっていったのです

気づけばラーメンを食べるのが目標ではくなりました。
ラーメンが承認欲求を満たす道具となったのです。
ブログを書くこと、品評することで簡単に他人より優位に立った気分になれる心酔感、そして何より全国で1位になったということが
日頃、仕事でうだつの上がらない僕にはたまらなく心地良かったのです。

ラーメンブログで一位となったことで、
有名なラーメン屋さんで並んでいると、
他のラーメンオタクに遠くから指で刺されたりするようになりました。
ラーメン屋さんの店主さんからもご厚意の煮卵サービスを受けたり
「いつも読んでますよ」などと感想を言われたり…
ハッキリ言って、チヤホヤされることが増えました。
けどまぁ……メリットなんてそんなことくらいです。

山を登った先には、何もなかったのです

ラーメンオタクという山を登ることで、風当りも強まってきます。
僕は元来味覚は鋭敏ではありません。
誰にでもできることを誰よりもやるという”亀”な人間です。

ですから、ラーメン屋さんで使っている素材を間違えたり
店主さんのバックボーンを間違えることもあります。
高く登った分だけ風あたりも強まり、店主さんからDMで
「そんな適当なことを書かないでほしい」メールいただくこともありました。
所詮は”自分のためにラーメンを食べている”という人間ですから、こういうところで地金が出ます。
ラーメンへの愛が足りなかったのです。

『麺と未来』との出会い

下北沢にあるミシュランガイドの『ビブグルマン』を獲得している名店です。

こちらの麺は唯一無二。
博多うどんに着想を得て作られた超極太麺。
『もち姫』という本来は和菓子などに使われる小麦を使用することで
独特のモチムチュっとした艶めかしい食感が生まれています。

食べた瞬間、電撃が走ります。
一目惚れならぬ一口惚れ。

この時からこちらに足繫く通うことになりました。
ラーメンオタクにも大別すると2種類おります。
いろんなお店を数多く巡るコレクター派。
同じお店に何度も足を運ぶリピーター派。
僕は重度のコレクター派です。同じお店にはほとんど行きませんが
ここには何度も伺いました。それほど革命的でした。

こちらの店長さんは『市川誠』さんという若い方が務めています。
店長といっても、お店の出資者がいるというだけで
レシピ構成から仕込みまで、すべて市川さんが担当。
30代中盤にして多くのラーメン屋さんで修業を積んだ
この道16年のベテランです。

何度も通ってますから、顔馴染みとなり
時にはお店で長くお話させていただくこともありました。

市川さんもラーメンオタク。
といっても作る方のオタクであり、様々なお店のレシピや作り方は食べればほとんど分かってしまうそう。
そんな方ですから、開店2周年記念には
『梶田醤油』の再仕込み醤油という高級醤油をプレゼントしました。
普通は日本酒やお菓子などが定番ですが…笑
少しでもラーメン研究の役に立てばいいな…という思いからです。

https://www.kazita.jp/

僕が”愛”をもってラーメンを食べられる…。

そんな数少ない馴染みのお店でしたが、
なんと店長の市川さんが
麺と未来を卒業されることになりました…。
自分の新店を持つということです。

新店は新川崎から徒歩30分近くの陸の孤島のような立地。

下北沢から離れて、浮いた家賃の分だけ
原価をバキバキにかけたラーメンを、自分が生きられる程度に稼がればいい…

という信念のもとにお店を開くそうです。
承認欲求がほしくてほしくて仕方ない僕とは真逆の生き方。
侍のような生き様でカッコよすぎませんか?

新店の場所を教えていただけるとの約束でしたが、結局教えて貰えず……
僕の心にはポッカリと穴が開いてました。

毎日ラーメンサイトで新店情報をチェックしては市川さんの新店がないか
目を皿のようにしてチェックしていました。

そんな折に、麺と未来そっくりのビジュアルのお店を見つけたのです。

再会

市川さんの新店の名前は『日陰』
新川崎駅より徒歩26分

店の前に来ただけで心震えます。
数多くのラーメン屋に行ったけれど、楽しみすぎて夜眠れなかったのはこちらだけ。

駐車場はなく、駅からも遠い。
宣言通りのアクセス難。

「地元の人に愛されるようなお店をひっそりとやりたい」

市川さんの言葉を思い出します。
曲がりなりにもラーメンブログがアクセス1位ですから
僕が来てしまってはその影響は大。
それを察知して、僕にはこのお店を教えなかったのでしょうし…

ゆっくりとマイペースにラーメン屋をやりたいのに
僕が訪問してブログで紹介してしまっては
何とも野暮…野暮天の極み。
それは分かってましたが抑えられませんでした。

店内に入りメニューを見るとなんと『カンビール』が200円

コンビニよりも安い!!!
恵比寿ビールも備えてありました。
利益が出るのかお聞きしたところ「5円くらいは儲かりますよ」とのこと
麺大盛も50円…『麺と未来』では150円だったのに…
ドマゾなのかな?

メニューは塩ラーメンを基本とし、
濃口+50円で醤油。+100円で辛口になります。
『麺と未来』では醤油は月曜日限定。
しかもその日は助手の小曽根さんによる営業でした。
ですから「へー、醤油がレギュラーになったんだぁ」となんだか感慨深い。

一杯目は塩味の海老ワンタンメンをいただきます。


詳しい食レポはこちらに
https://ramendb.supleks.jp/review/1383288.html
簡単にいえば、鶏感がかなり強まり、麺の太さがやや細くなり
チャーシューは質が上がり絶品に。
麺とスープとの調和が段違いに高まっていました。
あまりの美味さに、はじめてラーメンのレビューサイトで100点満点をつけました。

2杯目には醤油ラーメンを
市川さんが突如「これ、使ってるんですよね」と醤油の一升瓶を取り出します。

なんと…『梶田 再仕込み醤油』だったのです。

2周年で差し入れたあの醤油を使ってくれていたのです。
「いい醤油、教えてくれてありがとうございます」と言ってくれました。

脳内で『生きて~る 生きている~♪』とザ・ノンフィクションのテーマ曲『サンサーラ』が流れた瞬間です。
思わず涙が浮かびました。


「あの人、さぴおさんだよ」と見知らぬラーメンオタクに指をさされたり
ブログアクセスで1位になった時とは比べ物にならない幸福がありました。

ラーメン界の発展に寄与できたのかもしれない。
何より、市川誠の味作りに貢献できたことに感激いたしました。

ほんの僅かでも世界を変えたと胸を張れる。
このために僕はラーメンを食べてきたのかもしれません…

おわりに

自分のためよりも、他者のためを思って行動すること。
その『他者貢献』こそが真の満足に出会うことができる。
承認欲求欲しさに行った行動は空しいだけ。

それがラーメンレビュアーとしてトップに立ち、見えた景色です。

今でも相変わらずラーメンは食べておりますが、
愛をもって行動するように努めております。

自分の中に、がんこでしつこい油汚れのようにこびりついている「人に認められたい」
そんな承認欲求を御しながら。

#自分にとって大切なこと

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