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代わりに歩いてはあげられないから。

沢山の人が来て、様々な事を言う。
それを相手にするのが接客業の楽しくも大変なところだろう。

様々なお客様を見ながら私は思う。
垣間見えるなぁ…。

相手の持ち物、店員への態度、連れがいるかいないか、買い物の仕方、そこかしこにその人がみえる。

私はそれらを感じつつも、努めて店員らしく振る舞わなくてはならない。
私にできる事は、お客様の足にあう靴のご提案である。




ある日、高齢の女性のお客様が一人やってきた。
メーカー名を言ってきたので、そのメーカーのウォーキングシューズを案内する。

「お友達にサイズはちゃんとしたのが良いよって言われたの。」

と言う。
(えぇ。その通り。お願いだから指が2本も入っちゃうほど踵に隙間ができるサイズ履かないでくれ!!) 

「そうですね。ピッタリしたもののほうがお膝の負担などもなくて快適ですよ。今は、お膝とか痛くないですか?」

と聞くと、案の定、病院、病院、病院三昧。
靴大きめの履いてる人で、高齢者の場合、高確率で、整形、接骨通いしている。
全く捨て寸(前に空き)がないのも巻爪問題があるが、大きすぎるのはすぎるで大問題なのである。

この、お客様は話が好きだなと思う。
様々なことを私に話す。 

病院のこと、お友達のこと(聞けると安心お友達の話)、過去に騙されて高い買い物をしたこと、足が悪くなる前は習い事をしていたが足をおかしくしてからは出来ていないこと。

「あんな変なの(よくわからないが高かったそうな)つけなければよかったわ……足にいいよって言われたからつけたら痛くしたの」

彼女はどうやら、人にオススメされると買ってしまう、とても純粋な人のようだ。
あれも買った、これも買ったと、教えてくれる。
病院の先生にも叱られたのだという。
聞いているだけで私は目の前のお年寄りの事が心底心配になってしまった。

(こんな純粋な人、一人でいちゃ駄目!!)

通販で飲めば膝関節痛に効くという、お年寄が元気に階段などを登ったりするテレビCMをみて、そのサプリも買ったらしい。

話を聞くに
以前の自分の体の動きが恋しいのだ。
よく動けて、楽しく過ごしていたのが、痛みに思うように動けなくなる事のもどかしさ。
だから、少しでも良くなるのではと思うと縋ってしまうのだろう。
ここまでになると、ちょっと、別に原因があるのではと思うが、それは病院の先生に任せるしかない。

「みんな、いいよって、効くよって言うし、TVでもやるでしょう?それでも痛くなるときはなるじゃない……あぁいうのは効かないのかしら……ねぇ、アナタは、いいお薬知ってる?」

(お婆ちゃん…私は医者ではないので…わからないんだよ…安易に答えてはいけないのだよ…けれど)

「きっと、なかにはサプリが効く方もいるのでしょうけれどね、万人に効くお薬はないんですよ。だって、それぞれ、お痛みが出る場所も、理由も違うんだもの。お客様が痛いところと、テレビでやってるところは違うかもしれない。そうしたら、効かないでしょう?
そして、それは病院の先生にしかわからないのですよ。もしかしたら、効くかもしれないけれど、何か買う前には、病院の先生に確かめてみたら宜しいと思いますよ。ピッタリのものが見つかって、お痛み取れたらいいですね。」
(病院の先生だって大抵、こういう痛みに関しては鎮痛剤で済ませたりすんだけどさ…)

彼女は真っ直ぐ私を見たまま

「そうよねぇ。私すぐに良いって聞くと、そう思っちゃうのよね、そうよねぇ…」

と呟きました。

「とりあえず、お靴は大きくていいことなどありませんから、今日は間違いなく足にあったものを選びましょう。」

そう言って、あれやこれやだして、彼女の痛みの感じからインソールも試してもらい、相性が良さそうなので入れてもらった。
そこそこの金額にはなるが、店で買い物してくれれば、下手な物は買わせないで済む。
良いですよなんて言って、買わせっぱなしにしなくて済む。
 
何度も何度も「絶対に万人に良いという物はありませんよ」と話した。
すぐには良くならなくても、靴は大きいのを履くよりずっといい。
それから、何か靴について不安なことがあれば何時でもいらしてくださいね。どの店員も、しっかり話を聞きますからね。痛いとか、辛いとか、靴に関しておかしいなと思ったら来てくださいね。その時は、また、一緒に靴を考え直しましょう。

そのような事を話しながら、1時間近く彼女の接客をした。
笑顔で帰っていく彼女を見送りつつ、私は彼女がこれ以上色々買い込みませんように!彼女のような純粋な人を騙して儲けるような奴は滅びろ!!と願った。


平日でよかった。土日は忙しいから、この時間は使えない。(といいつつ、土日も30分くらいは使ったりするんだけど)


世の中には、魅惑的な言葉や商品がいっぱいだ。
しかしその言葉の前後には見えない()もいっぱいあるのだ。その中身は大抵意地悪で、狡い。
けれど、一人でそれを判断するのは実は精神的な面で難しい所があると感じている。


どんな御縁で私がそのお客様の正面に立つかわからないが、出来るだけ丁寧に、なるべくその人の足が快適であるように、私は日々考える。

絶対に足が痛くならない靴なんてない。
歩き方の癖、使い方、時間帯による浮腫。
様々な理由で全体重を支える足元は痛むのである。それでも、きっと、それを和らげられる方法や、少なくできる物はあるはずだ。


全部の要望は叶えられなくとも、少しでも楽しく健康的に、子供も大人も歩んでいけますように。

代わりに歩いてはあげられないから。
その足に履く靴を大切に。

サポート設定出来てるのかしら?出来ていたとして、サポートしてもらえたら、明日も生きていけると思います。その明日に何かをつくりたいなぁ。