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喉乾くからあまり飲まないんだけどさ


スーパーで『おっ!』と思った。

懐かしい飲み物が、バージョンアップしてるって思ったんだ。

昔、ひとり暮らしをしていたアパートの近くには、古びた閉まりかけのストアがあって、そこに自動販売機が置いてあった。

自動販売機で買うと高くつくけど、夜中だとか、仕事の帰りがけとか、そういう時に何か飲みたくなると使っていた。

私は、自動販売機のことが好きなんだと思う。
お金を入れる感じとか、ボタンの押し具合とか、ガコンって音で出てくる飲み物、自動販売機のそばで開けるプルタブとか、そういう空気ごと好きなんだと思う。
365日、其処にいてくれて、いつも変わらない顔してる癖に、ある日突然中身が入れ替わってたりして。そういうのも面白い。

そんな自動販売機にソレはやはり、突然現れた。

「カルピス ぶどう味」

250mLの小さなものだったと記憶している。
カルピスの甘さと、なんとなく嗅ぎなれている「ぶどう味」のぶとうの香り。
私は『美味しいっ』て思った。

普段は三年番茶だの、桑の葉茶だの飲んでるけれど、ジュースが嫌いなわけじゃない。
それからしばらく、虜になってカルピスぶどう味を飲んでいた。

スーパーでも500mLのカルピスぶどうを見かけるようになって、逆に全然買わなくなった。
あの頃に味わい尽くしたのねって思った。


近所のスーパーにそれは並んでて、でも、やはり買いはしなかったが、この間ふと、飲みたい気がして買った。
ジュースは喉が乾くから、あまり積極的に飲みたいとは思わない。
でも、たまに、あの甘さに浸りたくなる。

カルピスぶどうは、私の目の前にカルピスソーダとして現れた。バージョンアップしてるぶどうとは、まだ語り合ってないから、いいでしょ?
そんな気分で喉に通した。

『あ、なんかぶどう感があがった?』

果汁は10%だそうだ。
よくよくパッケージを見ると

『夜を愉しむぶどう』

と書いてある。
なんか、『愉しむ』って大人な感じしない?
私だけかなぁ?

楽しむは受動的で、愉しむは能動的なんだって。
今調べてきた。
ふーん。やっぱり、大人路線なカルピスだったか。と、謎に納得して、パッケージをくるくるして眺めた。

そして
「んふっ…」

思わず笑った。

"もう50年だソーダ!"

不意打ちの、ベッタベタの駄洒落。
懐かしさに世界がセピアに染まった気分だったのに、それがじわじわ可笑しくて、笑ってしまった。
『あー、私、色めく大人にはなれないやぁ〜』
手元で読む可愛い恋の物語も、スピーカーから流れてくる愛おしい想い達も、私にはほど遠くて、ただ、こうしてくだらなさを噛み締めるように笑って、そうして、そんなどうでもいいことを、書いて分かち合いたい。
分かち合えなくとも、誰かが『クッソどうでもいい話だわ』ってくだらなさに笑ってくれたらいいなぁ。

飲んでる時は書こうとか思ってなかったけど、笑っちゃったから記念にね。

懐かしい飲み物っていいよね。
別に、世の中的に懐かしいとかじゃなくて。
あるでしょ?
話すほどでもないけど、なんとなく覚えている。そういうの。
きっと、大切だよ。
ありふれた、何でもない、毎日の中にこうして溢れているんだ。


今夜はそんな気分が愉しいよ。




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