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『まつぼっくりのポケットに』1分ショート:小牧さん1分小説の対・続編

これは小牧幸助さんの1分小説『まつぼっくりポケットに』の対・続編です。


『まつぼっくりのポケットに』


透き通る様な空の元、幼かった僕はそれを手に取り微笑んだ。その時の僕の目にはまるで宝物の様に映ったまつぼっくり。鱗片が綺麗に広がりポケットの中をごそっと満たしてくれた。家路の途中でポケットに入れた小さな手が触れたのは大きな大きな穴だった。幼い僕の心にも大きな穴がぽっかり空いた。それからずっと、あの時なくしたまつぼっくりを思い出しては泣いていた僕。沢山のまつぼっくりがある中で、それは僕にとって完璧なまつぼっくりだったから。泣いて泣いて…なのにいつしかそれは霞んでいって…そして僕は大人になった。


仕事帰りの一本道。うつむきながらひたすらつく僕の溜息で、視界は白く曇り、足を踏み出すたびにその靄は濃さを増す。とバキッと足元で音が鳴り立ち止まると、そこにはバラバラになったまつぼっくり。ふと忘れていた記憶がよみがえる。あのまつぼっくりを今目にしたら、僕は笑顔で手を伸ばせるだろうか?足をあげると無数の黒い粒が靴底に食い込んでいた。そっと一つを手に取ると、小さな小さな種だった。



あの時僕が手に取った「完璧な」まつぼっくり。もしかすると「完璧」ではなかったのかもしれない。それでもそうだと感じられたのは、幼い僕の瞳の在り方だったのか。おおきな白息とともに空を仰ぐと、高く伸びた松の木にあの時拾ったような完璧なまつぼっくりたちがぎっしりと枝につかまっていた。ふと、まつぼっくりを手にした時の幼い自分の喜びが心に灯り、僕はそっと小さな種をスーツのポケットに入れた。家に着きポットに種をいれ暖かな土をそっと被せた。


そして今年、今にも雪が落ちてきそうな寒空を窓越しに見つめながら、僕は笑顔で小さな枝を伸ばした松の木に、小さな星をちょこんと乗せた。
あの日見つけて、あの日なくしてしまったまつぼっくりを思いながら、
暖かなフリースパーカーのマフポケットに自分の両手を突っ込んだ。
ポケットの中でぎゅっと自分の両手を繋いだら、
あの日のまつぼっくりみたいに…自分の宝物でポケットがごそっと満たされた気がした。




めりー まつぼっくりすます

おわり



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