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『Dreamer』第七話


第一話はこちら
前回のお話:第六話はこちら
●全話『Dreamer』マガジンに収録中。



「酷って…どういうことですか?」

流し込んだコーラがシュワっと喉の壁に泡を立てる。

「この前のバラバラ殺人…死体遺棄の容疑で逮捕された人物がいるのは知ってるよな?」

弓月はもちろんの事、昨日弓月のファイルを確認したおかげで僕もギリギリこのことは知っていた。

「逮捕はあくまでも「死体遺棄」であって、「殺人容疑」でも「死体損壊」でもない。。。警察も遺棄については監視カメラ解析や車の中の検証で立証済みなんだが…容疑者は逮捕されてから沈黙を続けているんだ。殺害現場…まぁこの場合は解体現場でもある場所の特定も、この犯人が殺害に及んだという立証も出来ていない。どう考えてもこいつがやったとしか考えられないんだが、口を割らんことには…。その上被害者との面識もない奴だ。。。動機も何も見えたもんじゃない。神奈川県警が捜索範囲を広げて俺の所にも協力要請をしてきてな…この間の、お前たちのノートの事件を確認した時に…その借りがあるというか、負い目というか。。。責任というか、だな…」

運ばれてきた珈琲をずずーっと飲みながら、ふぅーっと息を吐く。

「まぁそこでなんだが…昨日送られてきた弓弦の『事件心情』だ。」

「あぁ、「猫」ですか?」

「あぁ…猫ってだけで、俺にはさっぱり何も繋がらん。思い出したくもない事件なのは良く分かっているんだが、詳しく教えてもらえないかと思ってな。」

「弓月にも…聞かれたんですが、僕にも良く分からないんです。ただ、「猫」ってそう被害者が思った事は確かだと思うんですが。。。でも、、、」

ん?二人の表情が僕の話の続きを興味津々に待っていた。

「でも、今日晃の話を聞いて、ちょっともう少し掘り下げてというか、、、見えるものだけではなくて、こう感覚的な僕にしか分からない様な所を、ちょっと書き出してみようかと思ったので、少し待っていてもらうかもしれませんが、そこから何かみえて来るものがあるのかも。。。」

ちょっぴり苦笑いをしながら僕は

「でも、あの夢は半端ない痛みを伴うので、どこまで感覚を研ぎ澄ませるか分からないんですけど。。。」と付け加えた。

「すまん。が、頼む。」

戸田さんが両手を膝の上に置いて深々と頭を下げた。


§


カラン。。。

喫茶店のドアが開くと晃が ”よっ!”っと手を翳しながら入ってきた。

「おっ!今日は好きなもん頼んでいい日なん?」
テーブルに置かれたそれぞれの飲み物を見ながらそう放った晃は、

「おねーさーん、俺メロンソーダおねがいしまーっす!あっ!!クリームソーダがあったら、そっちがいいな俺!!」
にっこり笑いながらちゃっかり頼んだ。
よりにもよって…メロンソーダ。。。
自分でカフェラテを頼んだくせに、隣の弓月はちょっとばかり膨れていた気がする。

「で、今日は何の話ですか?」

「ったく…」

「協力要請よ弓弦に!!」

「協力要請?事件ですか?」

「あぁ、バラバラ事件の死体遺棄で逮捕した奴が黙っていて、何の手掛かりも掴めんままでな。殺人も立証できる手がかりを弓弦からもらえればと思ってな。」


それを聞いてぽかんとしていた晃だったが、

「あのぉ。。。それって戸田さん。。。俺と弓月。。。必要っすか??」


あ゛。。。。


何とも言えない雰囲気に。。。なった。。。?

「嘘ですよ!!あははは、俺たちがいなかったら、弓弦 点と点を一人で繋げないっすから!!」

認めたくないのに、この雰囲気に頭が勝手に”うんうんその通りだ”とコクコクと小さく頷き、何故かそれは警部も、弓月も一緒だったようだ。


「あっ!!そうだ弓弦。。。」

晃は肩に斜め掛けしていたバッグから何やらごそごそと取り出した。

「ほらっ、これ嗅いでみろよ」
晃が差し出したのは「落花生油」だった。

「あっ!!落花生油!!晃ん家これ使ってるの???」

「あ゛〜? 俺のかーちゃんが料理研究家だって事忘れたのかよお前ら…。」

晃のお母さんは雑誌などでも取り上げられている料理研究家だったことを僕らはすっかり忘れていた。

「かーちゃんにそれとなく聞いてみたら、確かにこの油高温で使えるから天ぷらにも使える油だって。ただ香りが薄れるとかなんとか言ってたけど、胃もたれしにくいんだと。ただ値段が他のもんより高けーから、揚げ油として使っている店はそうそうないってさ。ただ、ごま油みたいに炒めもんとかだと風味が増すから、中華料理店とかでよく使われてんだってさ。」

ドンっとテーブルの上にガラス瓶を置き、くるっとキャップを取り外すと ほれと弓弦に差し出した。

「これ、千葉の国産オイルで高いから落とすなよ。。。って言われてるから気をつけろよ。」

恐るおそる鼻を近づけると、コクのある香ばしい香りがトロッと漂ってきた。が。。。こんな芳醇な香り、、とは、違う。

「いや。。。なんか違う。。。」

それを聞いて晃がまたバッグをごそごそし出して、今度はタッパーを取り出した。

「かと思ってな!かーちゃんにササッと炒めもんを作ってもらったんだ。これはどうだ?」

タッパーを開けた瞬間に、味が空気を染めたように思えるほどの良い香りがした。ツヤツヤ…いや、これはチュルチュルと輝いた”もやし”。。。それを見て、僕ら三人は目を輝やかせた。

「って、匂いだよ匂い!!!」

「えっ?あぁ。。。これも似ているけど、、、なんか、違うような。。。」

「そっ…か。」
両眉を顰めていた晃が ふと顔を傾けた瞬間になんとも言えないボヤ顔になって、僕もその視線の先を追いかける。



「下北。。。これ、食っていいか?」

そこには警部が喫茶店のフォークを手にじーっともやしを眺めていた。。。


§


という事で、僕らは晃のお母さんの料理をつまみながら話を進めることにした。

「んで、落花生油がどうした?」

昨日の夢をまだ伝えていなかった警部に僕ら三人はブラックノートと共に説明した。


「ふむ。。。下北の言っている事に、俺も賛成だ。お前らの探すべきものはあくまでも夢の出所であって、事件解明ではないという事。そこは俺ら警察に委ねてもらいたい。解決済みの事件に関しては。。。まぁ俺なりに関連性を見出そうとしている所ではあるんだ。その過程でどうも納得のいかないのが、表面化していない弓弦の3つの夢…いや、これで4つか。。。死体が上がってないとすると。。。ん、いや、これも俺なりに調べてゆくつもりだから…とにかくお前らは何か気づいたことがあれば行動を起こす前にまずは俺に連絡を入れろ。」


「私…ちょっと落花生油を前面に推しているお店を調べてみたんですが…でも、なかなかそう言うお店がないというのと、弓弦の感覚がはっきりしないと何を探しているのかも分からないからどうにも調べようがないし。。。」
携帯電話をさっきからいじっていた弓弦がコトッとそれをテーブルの上に伏せた。

「俺もおんなじことを思ってて、だからさっきかーちゃんにちょっと頼んで今週ちょっくら料理教室という名目で、いろんな落花生油使った料理を作って、弓弦の感覚を引き出せればいいかなーって思ってさ。」

「僕は。。。とりあえずは一つ一つもっと視覚以外の感覚で事件を読み取ってみる事と、まずは警部に頼まれた事件。。。集中して読み取れるものを探してみます。」


僕の言葉で皆が頷き交わした。
その雰囲気をぶち壊す気がしたけれど。。。でもこの面子なら。。。


「それと。。。」


僕のでたらめを真剣に受け止めてくれるとどこかで確信していた。


「今からいう事は。。。意味。。不明。。。だとは思うんだけど、、、」

僕は氷が解け切って薄くなったコーラをクイッと飲んだ。




「これは、、、さっきノートを見ていて、はっとしたことなんだけど。。。

未解決殺人事件4つのうち、昨日の物を含めた3件。。。

多分。。。被害者は、


同一人物です。」




えっ?!???

3人の口が同時に開いた。



「いや、まだはっきりと断定して言えるまでではないし、僕自身、おかしなことを言っているとは思うんですが。。。」


「この被害者は、3回殺されていると思うんです。」











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